if 魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を手に入れ損ねる。

PV100万記念おまけ 第1話

 PV100万を記念した、おまけ、です。


 if魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を手に入れ損ねる。


「残念王子が宇宙船を手に入れてスペオペ世界で個人事業主になる。」のif物語になります。


 第1話は、KAC2021に参加した時に書いたものです。


「カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2021 参加作品集」

 https://kakuyomu.jp/works/16816452221098209280

 から移動させました。

 既読の方は、スルーしてください。


 第2話からが、今回書いた分になります。

 第4話までを予定しています。


 ======================


 俺は王宮の裏にある宝物庫の前に来ていた。


「あれ、セイヤ殿下じゃないですか。どうしたんですかこんな所に」


 宝物庫の警備をしている兵士が親しげに声をかけてくる。

 俺の名前は、セイヤ S シリウス、セレスト皇国の第三王子だ。


「いやー、父上に怒られてね。「部屋に引き篭ってないで少しは働け」って」

「ははははは、それは国王陛下の仰る通りですね。アベル殿下もダレス殿下も立派に働いていらっしゃいますよ。セイヤ殿下も成人したのですから、少しは働いてください」


 田舎である我が国では、王族と民との距離が近い。兵士であっても構わず王族に声をかけてくる。

 特に俺は、王族といっても第三王子、それも、成人も過ぎ、十六歳にもなったのに、魔法もまともに使えない引き篭りときている。

 兵士も全くお構いなしだ。日頃から「残念王子」だとか「引き篭り王子」と呼ばれている。


「だから態々部屋から出て、こんな所まで来たんだろ。父上が「宝物庫の片付けでもしろ」ってさ」

「こんな所って、王宮から十歩も離れてないじゃないですか」


「俺にとっては部屋の外はこんな所なんだよ。第一、お前が先に「どうしたんですかこんな所に」って言ったんじゃないか」

「全く、セイヤ殿下は、引き篭りのくせに、本当に口だけは達者ですね」


「ハイハイ、俺は屁理屈ばかり言ってる、引き篭りのニートですよ。それより、扉の鍵を開けてくれ」

「わかりました。今開けます」


 警備の兵士が鍵を開けて扉を開く。


「殿下、宝物庫の中には貴重な魔道具もありますから、間違っても魔力を通して壊さないでくださいね」

「わかってるって。散々やって懲りてるからな」


「ならいいですが……」


 俺は魔法もまともに使えないと言ったが、魔力がないから使えないわけではない。むしろ逆だ。

 魔力が高過ぎて、上手く制御できないのだ。


 俺は生まれた時から魔力計測器の針が振り切れる程の魔力が高く、周囲から先祖返りだろうと大いに期待された。

 だが、五歳になって魔法の勉強を始めると、魔力が高過ぎて上手く制御できないことがわかった。

 ちょっとした魔法を使おうと思っても、大爆発を起こしてしまい、魔道具に魔力を込めれば、ことごとく魔力過多で壊れてしまう。

 期待が大きかっただけに失望も大きい。皆から「残念王子」と呼ばれるようになってしまった。


 しまいには魔力の暴走を起こしてしまい、危うく死にかけるところであった。


 だが、死にかけたことで俺は前世の記憶を思い出した。

 俺の前世は日本人であった。

 ファンタジーな剣と魔法のこの世界でなく、科学文明が栄えた異世界の住人であったのだ。

 前世で俺は、引き篭りのニートだった。今と同じだ。


 どの位引きこもっていたか覚えていないのだが、気づいたら神様と対面していた。

 多分、何らかのトラブルがあり、死んでしまったのだろう。


 神様には、「もう少し真面目に生きろ」と怒られてしまった。

 そして、「オマケをくれてやるから人生をやり直せ」と言われ、転生することになった。

 転生先が魔法のある世界だと聞いた俺は、オマケを魔力に極振りした。


 そう、魔力が高いのは先祖返りではなく、転生者でチートだからだ。


 だが、その結果がこれである。

 魔法で無双してやろうと思っていたのに、魔法が上手く使えず、不貞腐れた俺は、結局、また、引き篭りのニートになってしまった。「引き篭り王子」の完成である。


 王家の宝物庫といっても、所詮は片田舎の国である。

 中に入ってみたが大した物はない。

 宝物庫というより物置に過ぎない。


 それでも警備の兵士がいるのは貴重な魔道具もあるからだ。


 昔の王族は今よりも魔力が強く、魔法技術も進んでいた。

 それが、代を重ねるごとに魔力は衰え、魔法技術は失われていったようだ。

 なので、魔道具の中には今では再現できないものがある。

 壊れればそれっきりだ。


 俺は、魔道具を壊さないように、慎重に片付けをすることにしたのだが。


「何だ、この丸いのは」


 宝物庫の真ん中に、二メートル位の球体がドーンと鎮座していた。


「片付けの邪魔だな。おーい。ちょっと手伝ってくれ」


 俺は外で警備している兵士を呼んだ。


「なんですか殿下、私の仕事は警備ですから、片付けは手伝いませんよ」

「そう言わずに、このでかいのを外に出すだけでも手伝ってくれよ」


「仕方ないですね。これだけですからね」


 二人で力を合わせて球体を外に出す。

 といっても、兵士が魔法で持ち上げて、俺が手で押す感じだ。


「なんですかねこれ」

「なんだろうな」


 外に出した球体を、二人で見て回る。

 金属製で所々継ぎ目があり、近未来的だ。


「美術品というよりは魔道具ですかね?」

「魔道具か……。これだけ大きければ、俺が魔力を込めても壊れないんじゃないか?」


「あ、殿下、駄目ですよ。もし爆発したらどうするんですか」

「そ、そうだな。止めおこう」


 このサイズの物が爆発したら確実に死ぬな。

 俺は魔力を込めるような、馬鹿な真似はしなかった。


「思いとどまって下さってよかったです。もし何かあれば、いつもいらっしゃる婚約者に心配をかけますよ」

「うむ、そうだな。リリスに心配かけるのはまずいな」


 こんな引き篭りでも一応王族である。幼い時から婚約者が決まっている。


「そういえば、今日は婚約者のブタ公女はいらっしゃらないのですか?」

「お前な。ブータニア大公家のリリスメリヤ公女だ。変な略し方をするんじゃない。不敬罪で処罰するぞ!」


「すみません。つい、口が滑りました」


 婚約者のリリスは、ブータニア大公領の公女だ。

 一応、セレスト皇国の一領となっているが、自治権が認められていて、経済力からすれば向こうのほうが遥かに上だ。

 セレスト皇国が農地しかない片田舎なのに対して、ブータニア大公領は鉱山を有し、そこから採掘される鉱石により、大いに潤っている。


 だから、本来であれば、こんな引き篭りの第三王子より良い縁談があって当然なのであるが、いかんせん見た目が……。さっき兵士が言った通りなのである。

 出会った当初、五歳位の頃はそんなことはなかったのに、今の容姿はポッチャリを通り越して、ボッテリしている。


 それでも性格はとても優しいよい娘で、引き篭りの俺にも笑顔を向けて優しく甘やかしてくれる。

 これで、痩せていれば申し分ないのだが、彼女は、他人に甘く、自分にも甘い。おまけに、甘い物が大好きで、ダイエットなんてまったく考えていなのだ。


「セイヤ様〜。こんな所にいらっしゃったのですか。お部屋にいらっしゃらないので探してしまいました」


 噂をすれば何とやらだ。王宮の方から、腰近くまであるブロンドのロングヘアーを揺らしながら、リリスが侍女のアリアを連れてやって来た。


「セイヤ様がお部屋の外に出られるなんて珍しいですね。どうかされたのですか?」


 リリスは、痩せれば可愛らしいであろう顔を、心配そうにさせて尋ねてきた。


「なに、父上から宝物庫の整理を頼まれてやっていただけだ」

「そうですか。国王陛下の勅命を熟しているところなのですね。素晴らしいです」


 リリスは嬉しそうに俺を褒め称える。


「それ程のことでもないさ」


 褒められて、気分を良くした俺は胸を張る。


 そんな俺に、リリスの侍女アリアの冷たい視線が突き刺さる。


「そんな仕事は下働きのすることなんだよ。リリス様に褒められたからといって、いい気になってんじゃねえ」


 と、言いたげなのが、その表情からはっきり読み取れる。


 アリアはリリスの専属の侍女で、護衛もこなす。

 ショートヘアーの栗色の髪で、キリリとした美人である。

 スタイルも、ボン、キュ、ボン、と抜群で、ボン、タプ、ボン、のリリスとは大違いだ。


「ところで、これは何ですか?」


 リリスが謎の球体を見て尋ねてきた。


「それが何かわからないんだ。宝物庫に入っていたから大事な物ではあるのだろうけど」

「そうですか。でもこれだと、どっちが上だか下だかもわかりませんね」


「うーん、そう言われれば、これが正しい向きだかわからないな。転がしてみよう」


 俺は兵士に言って、一緒に球を転がす。

 見た感じは運動会の大玉転がしだ。


 ゴロゴロゴロ。


 転がしているうちにだんだん楽しくなってきた。

 俺は当初の目的を忘れて球を転がし続ける。

 それを見ていたリリスは身体がうずうずしだした。


「セイヤ様、私も転がしてみたいです」

「よし、じゃあ、あの木のところまで一緒に転がそう」


 兵士に代わってリリスと一緒に球を転がす。


「二人の共同作業ですね」

「そ、そうだな」


 なんだかリリスが嬉しそうだ。

 俺の球を押す手に力が入る。


「ゴール」


 木のところまでたどり着いて俺は倒れ込む。

 日頃、引き篭っている俺には、少しきつかった。

 太っているリリスも同様だ。肩で息をしている。


「はあ、はあ、はあ、疲れましたが、身体を動かすと気分がいいですね」

「そうだな」


 俺も、久しぶりに外で汗を掻いて爽快な気分だ。

 だが、それは長くは続かなかった。


「セイヤ!様子を見に来てみれば何をやっておる。儂が命じたのは宝物庫の整理だぞ。全くお前という奴は!」


 父上が様子を見に来て、お小言をもらうことになってしまった。


 だが、球を宝物庫に戻すときに「儂にもやらせてみろ」と言い出して、楽しそうにやっていたら、威厳が保てませんよ、父上。



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