第166話 本体

 カイトの助けになるため、俺はヒアデスに近付きつつある暗黒魔星に向かっていた。

 とりあえず、今回はオメガユニットの通常攻撃で破壊できないか試すことにしている。

 これで、破壊できてしまえば簡単なのだが、アインさんの話を聞く限り、簡単にいくとは思えなかった。


 オメガユニットは、例によって、ゲートを作って呼び出した。

 ゲートを作るのに、異次元航路の調査に時間がかかるが、それでも、セレストまで取りに戻るよりは早く済む。

 ウィリーさんはいい顔をしないかもしれないが、知ったこっちゃない。

 別に、ゲートを作らないと約束したわけではないし。


「キャプテン、暗黒魔星が見えてきた」

「あれが暗黒魔星か……。ガスの集まりなのか?」


 球状に集まった黒い霧がゆらゆら揺らめいて、蜃気楼のようにも見える。


「可能な限り近付いて、そこからオメガユニットで攻撃してみよう」

「了解」


 今回ハルクに乗っているのは、俺とチハルの二人だけだ。

 他のメンバーはヒアデスに待機してもらっている。

 リリスが一緒に行くと、言う事を聞かなかったが、アリアが前回のことを盾に諌めてくれた。


 しかし、俺の周りの女性陣も増えたものである。

 元々、リリスとアリアは側にいたが、チハル、ステファ、聖女、ヨーコ、竜姫、ティア。

 この調子で増えていくと、ハルクに乗りきらなくなるのではないか?

 全部で八人か……。

 カイトの婚約者が七人だから、まだ、勝っているな。といっても、俺の方は婚約者はリリスだけだがな。……悔しくなんかないんだからな!


 そんなことより、こちらに集中だな。


 ハルクを中心に、オメガユニットでテトラフォーメーションを取り、ゆっくりと暗黒魔星に近付いて行く。


『おい、セイヤ。あまり近づき過ぎるな! 離脱できなくなるぞ』


 ジェミニスIIで、横方向からこちらを監視している、カイトからの通信が入る。

 今回、カイトには安全圏から、攻撃の効果を確認してもらっている。


「わかった。チハル、オメガユニットの射程に入っているなら、もう止めてくれ」

「了解、停止する」


「カイト、それじゃあ攻撃するから」

『気をつけてやれよ』


「チハル、オメガユニットのビーム砲を最高出力で発射用意!」

「発射準備完了」


「目標、暗黒魔星、ビーム砲……」


 グラッ


 発射の命令を出す前に、ハルクの船体が揺れた。


「チハル! どうした?!」

「暗黒魔星に引き寄せられている」


「十分に距離があったんじゃないのか?」

「ビーム砲を発射しようとした瞬間、引き寄せる力が強まった」


「離脱はできそうか?」

「やってみる」


『セイヤ! どうした! 何かトラブルか?』

「暗黒魔星に引き寄せられている。急に引き寄せる力が強まった!」


『すぐに離脱しろ』

「離脱しようとしてるんだが、チハルどうだ!」

「離脱しようと推進力を上げると、逆に引き寄せる力が強まっている」


 暗黒魔星は魔力を引き寄せている。こちらが魔力を込めれば、込めるほど、引き寄せる力が強くなっているのだろう。


「チハル、離脱中止! ビーム砲を暗黒魔星に撃て!」

「了解、メインエンジン停止、――姿勢制御完了、ビーム砲発射」


 オメガユニットからのビームが収束して暗黒魔星に命中する。

 しかし、暗黒魔星は大きく揺らめいたが、破壊されることはなかった。


「確かに、ビームを飲み込んだように見えるな」


 大きく揺らめいたのも一時的で、今は前と変わらない状態だ。


「引き寄せられる力は弱まった」

「それはこちらが、魔力を放出したからだろう」


「離脱しようと推進力を上げれば、また、引き寄せる力が強まる?」

「多分な……」


『どうなった?』

「離脱できなくなった可能性が高いな」


 俺はカイトに現状を報告し、俺なりの推察を伝える。


『魔力以外を使った推進力が有れば離脱できるのか?』

「そんな物があればな」


 ロケットエンジンがあれば簡単なのだが、現在、この世界にそんな物はないだろう。

 基本、この世界の動力源は魔力に頼っている。


「キャプテン、次元シールドで回避できるかもしれない」


 そうか、異次元に入ってしまえば、暗黒魔星の影響を受けないで済むかもしれない。


「試してみる価値はありそうだな。チハル、次元シールドを張ってくれ」


「了解、次元シールド発動。異次元に潜行する」


 ハルクが異次元に潜行する。歪むような世界の中、そこで見られたのは、いつもと少し違う様子だった。


「チハル! あれは?!」

「どうやらあれが、暗黒魔星の正体。あれに向かって引き寄せられている」


 どうやら、暗黒魔星の本体は異次元にあり、いつも見えている姿は影に過ぎなかったようだ。

 そして、次元シールドを使っても暗黒魔星から離脱することは叶わず、ハルクは、暗黒魔星の本体に引き寄せられていく。


「チハル、この状態なら攻撃が効くんじゃないか?」

「ハルクとオメガユニットには、次元シールドを張った状態から攻撃する手段がない」


「そうなのか……。攻撃手段がないことにはどうしようもないな」

「そうとも言えない」


「何かあれを破壊する方法があるのか?」

「あれが、見た目通りの物なら、わざわざ、破壊する必要はないかもしれない」


「見た目通りの物ならね……」


 俺には、暗黒魔星の本体は、宇宙船にしか見えなかった。


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