第161話 少し前ステファは、ドック
ヨーコちゃんの知らせを受けて、私たちはみんなで手分けをして、ドック中を探したが、カイトは見つけることはできなかった。
「ステファさん、どうしましょう……」
ヨーコちゃんが心配そうに尋ねてくる。
「そうね……。これ以上自分たちだけで探しても見つかりそうにないし、駄目元で警備隊に行ってみましょう」
私たち四人は、ドックの警備隊本部に行って事情を説明した。
だが、案の定、反応は芳しいものではなかった。
「書き置きを見る限り、そのカイトくんは自分の意思でドックを出ていったように見えるね」
カイトの残した書き置きは『俺は国王になるために、旅立つことになった。船は、次に会う時まで自由にしてくれていいから』というものだった。
「カイトは私たちの依頼を受けている最中だったんです。それが急にいなくなるなんておかしいですよ!」
「そう言われてもね。その、依頼の代わりに、船を使っていいといっているのだろうし、たとえ攫われたのだとしても、ドックの外に出てしまったら、我々ではどうしようもないな」
確かにその通りなのだが、せめて、カイトが自分で出ていったのか、誰かに攫われたのかだけでも知っておきたい。
「それなら、カイトが攫われたのかどうかだけでも、監視カメラの映像で確認してもらえませんか?」
「うーむ」
「お願いします!」
「仕方ないな……」
ヨーコちゃんが涙目でお願いすると、渋っていた警備隊員も折れたようだ。
「だけど、確認はこちらで行うから、監視カメラの映像を見せることはできないよ」
個人情報の保護の観点から、映像は私たちには見せてもらえないようだ。
警備隊員が監視カメラで確認すると、カイトは執事風の初老の男性とメイド風の若い女性と話をして、その後、二人に連れられて既にドックを出ていた。
強制的に連行された様子はなく、自分の意思でついていったようだ。
こうなると、カイトが攫われたと主張するのは難しくなる。
カイトが騙されていた可能性があるが、それを主張できるとすれば、書き置きにある『国王になる』という部分だろう。
国王になるなど、普通ならありえない話で、これは騙されているだろうと警備隊員も思うはずである。
だが、それはカイトにもいえることで、普通ならこんなことで騙されないだろう。
そうなると、カイトは騙されていないで、何か事情があって自分の意思でついていったことになってしまう。
大体、なぜカイトはそんな話を信じたのだろう?
本当に国王になるような事情があったのだろうか?
それを確認するためには、カイトの情報がもっと必要だ。私はカイトの家庭事情を詳しくは知らない。だが、確か、このドックに家族が住んでいると言っていたような気がする。
家族から話が聞ければ、何かわかるかもしれない。それに、攫われたのだとするなら家族に伝えるべきだろう。
「こちらで、カイトの両親と連絡が取れないかしら? 確かドックに住んでいるはずなのよ」
「ドックに住んでいるなら調べようがあるが……」
「じゃあ、家族に連絡を取ってもらえるかしら?」
「……仕方ないな。少し待ってろよ」
警備隊員は、カイトの家族の住所を調べ、連絡を取ってくれた。
「これが住所だ。八百屋をやってるようだぞ。すぐ来てくれとのことだ」
「ありがとう。助かったわ」
私たちは、カイトの両親が営んでいる八百屋に急いだ。
目的の八百屋の前では、恰幅のいいおばさんが心配そうにこちらの方を見ていた。
あれがカイトの母親だろう。
「カイトのお母さんですか?」
「あなたたちが連絡をくれた方? 私がカイトの母のメロペーよ」
「メロペーさんですか、カイトとは友人でステファといいます」
「あなたがステファさん? セイヤくんは一緒じゃないの?」
「セイヤは一緒じゃありません。私とセイヤのことをご存知なのですか?」
「カイトから話は聞いているわ。とりあえず、中で話を聞かせてもらえるかしら」
「はい、私からもお伺いしたいことがありますので」
私たちは、八百屋の店を通って奥の部屋に通された。
私たちが椅子に座るとカイトの父親だろうか? 背の低い痩せた男性がお茶を持ってきて私たちに配ると、そのまま彼も椅子に座った。
「それで、カイトが攫われたかもしれないとはどういうことかしら?」
カイトの母親に問われて、私はカイトの両親に事情を説明し、書き置きを見せた。
「すみません。私が買い物をしている間、店の外で待っていてもらったばかりに……」
「ヨーコちゃんでしたか? あなたのせいではないから謝らないで。大体、女の子を置いて消えちゃうカイトの方が悪いのだから。心配かけさせてごめんなさいね」
「そんな……」
「皆さんも、バカ息子のせいで、本当にすみません」
「いえ、それはいいんですが、この書き置きの内容に心当たりがありますか?」
「書き置きの内容ね……」
メロペーさんは、少し困ったように旦那さんと顔を見合わせた。
この様子だと、何か心当たりがあるようである。
「心当たりがないわけでもないわ。それを確かめたいから、私をプレアデスに連れていってもらえないかしら?」
「え?」
「置き手紙を見る限り、カイトの船を使えるのでしょう? それで連れていってちょうだい」
「確かに私がライセンスを持っていますが、プレアデスに行く理由を伺っても?」
「それは、もちろん、カイトがプレアデスに連れていかれた可能性が高いからよ」
「なぜ、そう思うのですか?」
「端的に言って仕舞えば、私がプレアデスの元第七王女だったからよ」
「メロペーさん、王女だったのですか?!」
「元よ、元。今はこの人と結婚して、王族藉も抜けてただの一般人よ。だから、カイトも王族ということではないし、そのことをカイトは知らないはずなんだけど……」
「カイトがプレアデス王家の血縁者だったなんて、驚きだわ!!」
「今のプレアデス王は、祖父に当たるけど、子供が父の一人だけなのよ。その父が王太子なんだけど、そっちは、私を含めて子供が七人いるけど――、七人とも娘で息子がいないの。
今も祖父に当たる国王は健在だけど、ほとんど隠居状態で、国王の仕事は、王太子の父がしているわ。といっても、父も歳なので、その次の国王を誰にするかで悩んでいるはずよ。
そんなわけで、そのメモの通り、国王になるということなら、プレアデスが関わっている可能性が高いわ」
「身内での問題ということなら、私たちがでしゃばることではないですね。ただ、船を貸してもらえるということなので、プレアデスまでは乗せていきますよ」
帝国に行くには少し遠回りになるが、カイトの船を使わせてもらうのだから、それくらいはするべきだろう。
それに、本当にカイトがプレアデスに行ったのかもまだわからない。
「そうかい、助かるよ。じゃあ準備してくるから、少し待っていておくれ」
二時間後、私たちはプレアデスに向けて出発したのだった。
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