第158話 昔々園長は、遊星ドラゴンパーク

「大変です! 園長!」

「どうした、そんなに慌てて? また、ドラゴン同士の喧嘩か?」


 俺様は、ここ、遊星ドラゴンパークの園長、最高責任者だ。

 遊星ドラゴンパークは、自然の中でドラゴンとの触れ合いを楽しめるテーマパークだ。

 星全体が広大な森林に覆われていて、そこでドラゴンたちが昔ながらの生活を送っている。

 ヒトが来て楽しむだけでなく、少なくなったドラゴンの保護も兼ねている。


「この遊星の進行方向に、新しいゲートを発見しました!」

「なんだと、新しいゲートだと! でかした! その情報を航宙管理局に売ればかなりの金になるぞ」


「それが、それどころではありません!」

「それどころではない?」


「このまま進むと、この遊星はゲートに飲み込まれてしまいます」

「そんな馬鹿な。その軌道計算は間違いないのか!」


「残念ながら、間違いありません!」


 遊星ドラゴンパークは、惑星でありながら、一つの星系に捉われず、さまざまな星系を渡り歩く、変わり種の星であった。

 そうなってしまった原因が、核廃棄物の爆発なのか、暗黒星に引きずられているからなのかはわかっていない。

 一説には、重力でなく魔力に引っ張られているのではないか、という説もある。


 原因は兎も角、様々な星系を渡り歩くことにより、テーマパークに常に新しい客を呼び込めるという、利点があった。

 その一方で、大きな問題点もあった。それは、惑星の進路を自分たちで決められないということだ。


 ドラゴンの魔力を持ってしても、惑星の軌道を変更することはできなかった。


「遊星がゲートに飲み込まれるまでに、どの程度猶予がある?」

「一年ちょうどになります」


「そうか、急いでドラゴン全員の退避を進めよう」

「みんな、住みなれたこの遊星を離れてくれるでしょうか?」


「俺様だって、この遊星を離れたくないが、ゲートに飲み込まれれば、ドラゴンといえ無事ではすまないだろう。生き残るためには、この遊星を離れるしかない」

「そうですね。私は脱出計画を作成します」


「俺様は、みんなに説明してくることにしよう」


 それからの一年は、大忙しの一年だった。

 移民船を用意して、受け入れ先を探し、そこに移住させる。中には脱出を拒む者もいて、説得が大変だった。


「これで、全員のドラゴンが脱出しましたね」

「ああ、慌ただしい一年だった……」


「それじゃあ、私たちも退避しましょう」

「そうだな、お前はもう行ってくれ。俺様はここに残る」


「何を言ってるんです、園長?!」

「俺様はここに残って、遊星ドラゴンパークの最後を見届けるよ」


「それなら私も一緒に」

「いや、ヒトの俺様はもうすぐ寿命だ。それに比べて、お前はまだ若い。それに、貴重なドラゴンだ。これからはお前が、仲間のドラゴンを守り、そして、ヒトとドラゴンの掛橋になってくれ」


「園長……」

「なに、もしかしたら、シールドが効いているうちに、反対側のゲートから出られるかもしれない。そうなれば、また、遊星ドラゴンパークを始められる」


「……。そうですね。いっそ今度は、戦闘アトラクションにしてはどうですか?」

「うむ、そうだな。なら、名前はドラゴン帝国にしなければならんな」


「ドラゴン帝国ですか。いいですね」

「名残惜しいが、もう時間だ。お前はもう行け」


「園長……」

「後のことは任せたぞ。しかりやれ!」


「わかりました。では、お達者で、今までありがとうございました」


 アシスタントをしていたドラゴンが、遊星を離れてさほどせず、遊星ドラゴンパークはゲートに飲まれた。


 とりあえず、ゲートの中に入っても、シールドが有れば大丈夫なようだ。

 だが、シールドを張る魔力は、無限にあるわけではない。

 今は、ドラゴンたちが満タンに充填していったから問題ないが、いつかは魔力も切れる。


 それまでにゲートの出口にたどり着くのは不可能だろう。


 そうなれば、この遊星ドラゴンパークは崩れ去り、俺様もここで死ぬことになるだろう。


「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ!」


 俺様は咳き込み、口から血を吐く。

 どうやら、シールドより先に俺の命が尽きるようだ。


 俺様の身体は既に限界を超えていた。身体強化の魔法を使っても、ドラゴン同士の喧嘩の仲裁に入るのは無理があった。

 あいつら、手加減というのを知らなすぎる。


 何度も、ドラゴンブレスを受けた結果、医者から一年前に余命半年と言われていた。それなのに、既に一年生き延びている。あのヤブ医者め!

 だが、それも限界のようだ。


 生前に良いことをすれば、転生できると聞いたことがある……。

 俺様がドラゴンを保護していたことが、良いことだったなら転生できるだろうか?


 転生するとしたら、今度は、最強になりたいものだな……。


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