帝国編
第136話 ハマル
オメガユニットが警戒モードに入ったことを知った俺は、急いでハルクに戻り、状況を確認した。
「オメガユニットの防空圏外から、セレストに転送して来た者がいる」
チハルが、オメガユニットが警戒モードに入った理由を教えてくれた。
「何人だ?」
「転送してきた者は、一人」
「それで、そいつは何をしている?」
「神殿に現れた後、シャトルポッドで、防空圏外に出て、そこからまた、転送で戻った。今はもう、セレストにいない」
「そいつの乗って来てた船は?」
「セレストから四日の位置から引き返した」
「四日?! 転送ってそんなに遠くから使えるのか?」
「普通は使えない」
「よっぽどの魔力持ちなのか?」
「使われたのは、転移魔法ではない。転送装置」
「転送装置? 転移できる魔道具だろ」
「転移と転送では結果は同じでも方法が違う」
「違う物なのか?」
「転移は空間を歪めてAとBを繋げる。距離が遠いほど魔力がかかる」
「確かに、歪める量が多ければそれだけ魔力がかかりそうだな」
「転送は、Aで物体を量子レベルまで分解し、不確定原理により、Bでそれを再構築する。使用される魔力は距離に関係ないが、距離が遠いほど再構築が難しくなり、成功率が下がる」
「距離が遠いほど成功率が下がるって……、ワープ4で四日の距離を転送で成功する確率は、どのくらいなんだ?」
「ほぼゼロ。普通はありえない」
「どういうことなんだ?」
頭を悩ませていると、カードに通知が来た。リリスからだ。
『スピカの船でセイヤ様の元に向かいます』
「スピカの船?」
「どうかした?」
「いや、リリスから通知が来たんだが、スピカの船で来るって」
「それは、スピカ神聖国の乙女巫が使っているユートピア号のことだと思う。その船には転送装置が付いていたはず」
「転送装置って、ハルクには付いてないよな。一般的ではないのか?」
「転送装置は事故率が結構高い。一般には普及していない」
「そんな危険な物、乙女巫の乗る船になぜ付けているんだ?」
「乙女巫は女神の化身、多分、成功確率を操作している」
「そんなことできるのか? でもまあ、女神ならそれくらいできるか」
魔法があって、女神がいる世界だからな。なんでもありか。
「ということは、セレストに転送してきたのはスピカ神聖国の者で、なぜか、リリスはそいつらと、こっちに向かっているということだな」
「そういうことになる」
なら、ほっといても大丈夫か。念のため、リリスには大丈夫か聞いておこう。
リリスからは大丈夫だという返事が来たので、オメガユニットの警戒モードを解除して、俺たちは旅を続けることにした。
エルトナを出発してから三日後、俺たちは将軍のいる帝国のハマルに到着したのだった。
帝国はエリアSと銀河の中心であるエリアCを領域としているが、ハマルがあるのは帝都アンタレスと同じエリアSである。だが、帝都があるエリアSの中でも辺境といえる場所になる。ただ、連邦との境界になるため、交易は盛んだ。
俺は、警戒しつつも、ブルドラとチハルを連れて、ハマルに降り立った。
だが、よく考えれば、俺は帝国に指名手配されているわけでも、敵対しているわけでもない。
男爵令嬢のことがあったから、印象は良くないが、男爵令嬢は捕まって裁判にかけられたはずだ。
ステファには、帝国に捕まって種馬にされると脅されたが、それもステファが言っていることだからな。そこまで警戒する必要はないのかもしれない。
指定された酒場に行くと、そこには既に将軍が待っていた。
「待たせたかな?」
「いや、大丈夫だ。部屋がとってあるからそこで話そう」
将軍に促されて俺たちは店の奥に入っていく。
個室に案内された俺たちは、テーブルを囲んで座る。
「そいつは前にはいなかったよな。護衛か?」
「こいつは、ブルドラ。友人だ」
「俺様がブルドラだ」
「俺は帝国の将軍で、ゴルドビッチだ。よろしく」
「ああ、よろしく」
相変わらず、ブルドラは態度がでかいな。
「先ずは何か注文しよう。何がいい?」
「肉だな。それと酒」
「お肉」
この二人は本当に肉が好きだな。
「お任せするから適当に頼んでくれ」
「なら、山盛りスペアリブと適当に頼むとしよう。後、酒だな」
「俺とチハルはノンアルコールをもらおうか」
「わかった。最初は俺もノンアルにしよう」
飲み物と、つまみが山ほど出されて、それを頬張り、一段落したところで将軍が切り出した。
「しかし、シリウス皇国では派手にやったな」
シリウスでのことは帝国にも伝わっているようだ。
「俺としては、穏便に済ませたかったんだがな」
「それで、今度は帝国を潰しに来てくれたのか」
そういえば、将軍は現在の帝国の体制に不満があり、改革が必要だと考えているんだったな。
「そんなわけないだろう。ちょっとドラゴンを探しに来ただけだよ。ドラゴンパークって帝国にあるらしいが、どこにあるか知らないか」
「クックッ、クックックッ」
「どうしたんだ。そんなにおかしな話だったか?」
くそう、ステファの奴、もしかして、帝国では子供のお伽噺のレベルの話だったのか。
「これが笑わずにはいられるか。ドラゴンを探しに来ただって。俺の狙いと一緒じゃないか」
「狙い? どういうことだ」
「いや、すまなかった。頼む前から俺の計画通りに進みそうなんで、おかしくなってな」
「計画?」
「勿論、帝国を潰す計画だ」
「それと、ドラゴンが関係あるのか?」
「ああ、その通りだ」
俺は、とんでもない陰謀に自ら足を踏み入れてしまったようだ。
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