第三部
ドラゴン編
第120話 無理難題
「お父さん!」
「儂は、お前の父親ではない」
「リリスのお父さん」
「娘のことを呼び捨てにするとは何様のつもりだ」
「ブータニア大公、リリスさんを俺にください」
「くださいとはなんだ。リリスは物ではない」
「リリスさんとの結婚を認めてください」
「娘に相応しい相手なら認めないでもないが、お前ではな」
「あなた、いい加減に認めてあげたらどうなのですか。拗ねるのもいい加減になさいまし」
「拗ねてなどしておらん!」
俺は、今日もリリスの両親に結婚の許可をもらうべく、ブータニア大公に頭を下げていた。
このところ、週に一度のペースで、ブータニア大公の屋敷を訪ねている。
馬車で往復するとなるとこうはいかないところだが、シャトルポッドがあるおかげで、王宮との往復はあっという間だ。お陰でこのペースで訪問が可能となっている。
大公妃である母親の方は結婚を認めてくれているが、父親の大公はいくらお願いに上がっても許してもらえていない。
元々、婚約者同士なのだから、今更反対されてもと思うのだが、リリスとの婚約が決まったのは、俺が生まれてすぐ、魔力が大きく、先祖返りではないかと言われた時期だった。
それが、五歳ごろに魔法が使えないことがわかり、残念王子と呼ばれるようになると、大公は婚約に反対する様になった。
父親の娘を思う気持ちを考えれば、わからなくもないが、本人たちの意思は全く無視で身勝手なものだ。
その上で、先日、シリウス皇国で作戦のために結婚式を挙げたことを知られてしまい、完全に意固地になられてしまった。
「お父様、いい加減にしてください。セイヤ様と私は婚約者同士なのですよ。それを今更、駄々をこねないで下さい!」
「駄々などこねていない。リリスの幸せを考えているだけだ」
「セイヤ様はわたしにはもったいないほどの素晴らしい方ですよ」
「儂にはそうは思えんが、そうだな、ならばリリスに相応しいことを証明してもらおうか」
「リリスへの愛は誰にも負けませんが、どのように証明すれば?」
「儂が反対している最大の理由は、お前が残念王子と呼ばれているからだ。それを払拭するだけの功績を挙げてもらおう」
「功績ですか」
「功績ならあるではないですか。セイヤ様は天界にいかれて、皇王になられたのですよ」
「それは知っているが、余りにも突拍子がなくて、セレストの民が受け入れられる物ではない。もっとこう、具体的に誰が見ても一目でわかる物がよいな……。
そうだ。ドラゴンを討伐して角を奪ってまいれ、それができたらリリスとの結婚を認めようではないか」
「ドラゴンですか……」
よりによってドラゴンか。ヨーコの予知が当たったようだな。
「お父様、ドラゴンなんて、いるかいないかわからない物、どうしろというのですか。それに、もしいたとしても、セイヤ様に危険が及びます」
「皇王になったのだろう。神といってもいい。それなら、ドラゴンを見つけて倒すくらいわけないだろう」
「お父様!」
「リリス、大丈夫だから。ドラゴンの角をお持ちすればリリスの結婚を認めてもらえるのですね」
「持ってこられたらな」
「あなた・・・」
「わかりました。それではドラゴンの角を持ってまいります」
「セイヤ様」
「リリス、心配するな。何とかしてみせる」
と、かっこよき言い切ったものの、全くのノープランである。どうしたものだろう。
まずは、ドラゴンを見つけるところから始めなければならないだろう。
といっても、ドラゴンの目撃情報など聞いたこともない。物語には登場するが、それが事実に基づいた話なのか、全くの空想なのか、それすらはっきりしない。
俺は、ワラをも掴む気持ちでヨーコの元を訪ねた。そこは、王宮内にある、プロキオン大使の執務室だ。
まだ、独立した大使館を建てるまでには至っていない。
セレスト皇国の王宮に、シリウス、プロキオン、それぞれに、大使が使用する部屋を用意している。
俺が訪れたのはプロキオン大使の執務室だが、そこにはなぜかステファもいた。
「打ち合わせ中だったか」
「セイヤ様、大丈夫ですよ。ステファさんは遊びに来ているだけですから」
「ステファ、仕事をしろ」
「だって、一人じゃ寂しいのよ」
「お前もスタッフの一人や二人、連れてくればよかっただろ」
「今、シリウスは誰かさんのせいで混乱状態なのよ。こんな田舎まで来たいなんて役人いなかったのよ」
「田舎で悪かったな」
「それに、下手に皇王様の機嫌を損ねたら、責任が取れないと、みんなビクビクしているのよ」
「別に俺はそこまで狭量でも、残酷でもないぞ」
「それで、セイヤ様、どのような御用でしょうか。何なりとご命令ください」
ヨーコが声をかけてくる。そうだ、ステファをかまっている場合じゃなかった。
「ヨーコの予知が当たって、ドラゴンを討伐して角を手に入れなければいけなくなった。ドラゴンがどこにいるかわからないか?」
「そうですか、予知が当たったのですか。ですが、私の予知ではどこにいるかまではわかりません」
「そうか、ドラゴンを見つける手がかりになればと思ったんだが」
「ご期待に添えず申し訳ございません」
「いや、気にするな。しかし、そうなると困ったな。何か他に手がかりになることは」
「セイヤ、やっとドラゴンを見つける気になったの。それなら、自称、ドラゴンチェイサーの私に任せなさい」
ステファが嬉しそうに自分の胸を叩く。
「ドラゴンチェイサーとは大きく出たな。そこまで言うなら、何か当てがあるのか?」
「当てというか、見つける方法を思いついたわよ」
「どんな方法だ!」
「それはね……」
俺は、ステファからドラゴンを見つける方法を聞くことになった。
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