第96話 マゼンタ教授withチハル

 第一王女と、なぜか猫耳カルテットのメンバーを連れて、プロキオンまで行くのは三日後になる。

 その間、時間があるので、俺は、また、マゼンタ教授とゲートの話をしに来ていた。

 前回は、ステファが駆け落ち皇女の話を聞きたがり、時間が取れなかったので、それの埋め合わせだ。


 今回は、ステファでなくチハルを連れて来ている。

 前回は、顔繋ぎのためにステファに来てもらったが、ゲートの仕組みについては関心がなかったようで、後半、暇そうにしていた。

 顔繋ぎも済んだので、それなら、チハルの方が、ハルクやオメガユニットについてわかっている分、役に立つだろう。


「今日は、違う女の子を連れてきたのか。好き者なのじゃ」

「いや、そうじゃないから。アシスタントのチハルだ」

「チハルです」


「アシスタントか。それなら、あの王女よりは役に立つかもなのじゃ」

 ステファは、ロマンスとお金が絡む話し以外は興味なさそうだったからな。


「前回の話で、オメガユニットを使えば、一時的にとはいえ、ゲートを作ることができるということでしたが、どこでも好きなところに出られるわけではないのですよね?」


「そうじゃな。実は、ゲートは入り口と出口が一対一で繋がっているわけではないのじゃ。あくまでも、ゲートは異世界への出入り口で、異世界に入って、そこを移動して、他の出入り口であるゲートから出る感じなのじゃ。

 じゃから、オメガユニットでゲートを作った場合、中に入ってから、別の場所に異世界側からゲートを作らないと出れないことになるのじゃ。

 異世界側から穴を開けるとき、どこに出るかは、開けてみないとわからないのじゃ」


 皇女が、オメガユニットを使ってゲートで逃げたのだとすると、どこに出るかは運任せだったと、いうことか。


「それだと、オメガユニットで同じ場所にゲートを作っても、同じ場所に出れるかわからないのですね」


「ゲートに入ってから、異世界のどこを通ったかわかれば、同じところに異世界側からゲートを開ければ、同じところにでられるのじゃ。

 今あるゲートも出入り口同士を繋ぐ、異世界の航路が確立されたから、問題なく使えるようになったのじゃ。

 それが見つかるまでは、何台もの無人機が行方不明になっているのじゃ。

 今でも、航路を外れれば、異世界で迷子になることもありえるのじゃ」


「そうか、ゲートの中の異世界の航路がわかれば、同じ場所に出られるのか。皇女たちが通った航路がわかればな……」

「わかる」


「え。チハル、わかるのか?」

「ハルクの航路履歴がある」


「八百年前だぞ、そんな古いデータもあるのか!」

「全て、アーカイブされて保存されている」


「それなら、ゲートの入り口を探したときにも、場所が特定できたんじゃないのか?」

「できた」


「じゃあ、なんで言わなかったんだ!」

「ステファがいた」


「ステファがいたらまずかったのか?」

「セレストのすぐそばのゲートの位置を、敵だか味方だかわからないステファに知られるのは危険。キャプテンは、人が良すぎる」


「そうですねェー」

 チハルの言う通りだ。ステファには同情するが、全面的に信じてはいけない。


「ということは、オメガユニットがあれば、セレストとシリウスの間にゲートを通せるのか!」

「正確にはシリウスでなく、トラペジウム」

「ああ、そうだったな」


 シリウスから、トラペジウムまで一週間とすると、セレストまでは十二日といったところか。

 今までの、エリアE経由だとセレストまでは二十日以上かかるから、日程的には半分程度になる。

 高速航路を使う距離がだいぶ減る分、魔力の消費はかなり抑えられるが、魔力がただの俺にはメリットがないな。


 なんとも微妙だ。

 やはり、ゲートの出口を好きなところに作れないと、メリットが少ない。


「何とか好きなところに出られるようにできないもんですかね」

「現状では難しいのじゃ。サンプルが少な過ぎて、規則性を見つけられないのじゃ」


「既存のゲートは、八つでしたっけ」

「確かに八つじゃが、ゲート2とゲート3の異世界が同じとは限らないのじゃ。今までの観測からは、別の異世界である可能性が高いのじゃ」


 つまり、ゲート2から入って、ゲート3から出ることはできないということになるのか。


「ゲートの先の異世界は一つではないということですか。それぞれに、法則が違ったら、それは規則性を見つけられないでしょうね」

「ただ、オメガユニットなら、魔力さえあれば、好きなだけゲートを開けられるのじゃ。そうすれば、規則性を見つけることも可能になってくるのじゃ」


「でも、どこに開くかわからないんじゃ、怖くて開けられませんよ」

「実験に犠牲は付き物なのじゃ」

「自分が犠牲にはなりたくないですよ」


「オメガユニットだけリモートで行かせればいい」

「そうじゃな、それがいいのじゃ」


「迷子になって、戻れなくならないか?」

「オメガユニットはただの無人機ではない。自分でゲートを作れるから、どこにでても戻ってこれる」

 そうか、同じ道を辿って戻ってこれるのか。


「だけど、途中で魔力が切れることも考えられるだろ。ゲートを開けるにも魔力を食いそうだし」

「それが、オメガユニットの場合、瞬間的に異世界の魔力を使えるため、ゲートを開けるにも然程魔力は食わないのじゃ」

「そういえば、前回そんな説明を受けましたね。でも、じゃあ何でオメガユニットは魔力不足で惑星上に落ちてたんだ?」


「瞬間的に異世界の魔力を使えるのは、大きな魔力を使う時だけなのじゃ。普段の維持管理用には一度に取り出せる魔力が大きすぎるのじゃ」


 何か、それって、俺と同じということか。普通の魔法は使えないが、宇宙船の魔力充填ならできる。

 凄いんだが、なんとも使い勝手が悪い。


「なるほど、確実に元の場所まで戻れるなら、実験してみてもいいですかね……」

「それがいいのじゃ。妾の研究も捗るのじゃ」


「チハル、リモート操作はチハルが得意だから、マゼンタ教授と協力して、実験を進めてくれ」

「了解した」


 しめしめ、チハルにこれを任せておけば、レース大会にまで手が回らなくなるだろう。


 ゲートの研究も進んで、レース大会に引っ張り出される心配もなくなる。一石二鳥だな。

 俺は、晴れやかな気分になり、後のことは、チハルとマゼンタ教授に任せることにした。


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