第95話 話し合い

 ベルさんをめぐって、事務所の社長の娘であるアリサちゃんと、元メンバーであるタマさんたちが対立していた。

 お互いに誤解があるようなので、蟠りをなくすために、ハルクの会議室で話し合いを持つことにした。


 何故か、話し合いの進行役を俺がすることとなった。


 一同が円卓に着き、俺の隣はリリスと、反対側はベルさんだ。


「これより、話し合いを始めるが、大切なのはベルさんの気持ちだと思うが、どうだろう?」

「そうね。スズの気持ちは大事よね。スズは私たちと一緒にいたいはずよ」

「それは、あなたたちがベルちゃんを騙しているからでしょ。ベルちゃんが人がいいのに付け込んで、いいようにこき使ってたでしょう」


「ベルさんは二人の話を聞いて、どうかな?」

「お嬢様、私は好きでタマさんたちのお世話をしていたんです。騙されてなんていません。これからも、タマさんたちと一緒にいたいです」


「ほら、みなさい。スズも私たちといたいって!」

「ベルちゃん、そんな……」


「でも、お嬢様には大変感謝しています。ソロデビューさせていただき、マネージャーをつけて、大きな船も用意してくださいました。できれば、このまま芸能活動を続けたいです」

 ベルさん、タマさんたちのところでは下働きが主で、芸能活動はほとんどしてなかったんだよな。

 本人の希望としては、芸能活動をやりたいわけか。


「ベルちゃんが希望するなら、もっと、もっと、応援するわ」

「スズ、それじゃあ、私たちとはどうなるのよ?」

「わがままを言わせてもらえれば、タマさんたちと一緒に芸能活動をやっていきたいです」


「ベルさんの希望は、猫耳カルテットの正式メンバーとしてやっていきたい、ということでいいのかな?」

「そうです!」

「それはいいですね。四人で歌っていた時のベルさんは輝いていましたから」

 リリスが嬉しそうに感想を述べる。


「私たちは構わないわよ。そのつもりだったし」

「私は、できればソロの方がいいと思いますが、ベルちゃんがそれを希望するなら構いません。

 ですが、ベルちゃんが虐められていないか、常に監視させてもらいます」

 アリサちゃんは、まだタマさんたちを信じきっていないようだ。


「ベルちゃんには、今までのマネージャーを付けますし、船も、あんなボロのでなく、今使っているものを使ってもらいます」

「それは、私たちも乗っていいのかい?」

「定員六名だから、乗せてあげてもいいです」


「やった。ラッキー!」

 カイトが小さくガッツポーズを決める。

「そこの男はダメよ! ベルちゃんの周りに男なんか置いておけないわ。第一、定員が六名よ」


「六名なら乗れるじゃないか。メンバー四人とマネージャーで五人だろ?」

「私が乗るもの。定員いっぱいね」


「そんなー。それじゃあ、俺はどうなるんだ?」

 さっきとは一転。地獄に落とされた表情のカイト。


「あなた、大体何なの? マネージャーじゃないわよね」

「運転手だけど」

「運転手? そんなの雇ってたかしら?」


「え? 俺、雇われたよね」

「どうだったかしら……」

「タマさん、そんな冷たいこと言わないでくれ」


「契約書は?」

 アリサちゃんがカイトに契約書を出せと手を出す。

「契約書?」

「雇用契約書を見せてみなさい!」


「そんなのあったっけ?」

「契約書も交わしてないのに仕事をしてたの」


「契約書って、これのことかな?」

 タマさんが書類を取り出す。どこから取り出したんだ?

 チハルといい、タマさんといい、用意がよすぎるだろ。

 やはり、アイテムボックスの類を隠し持っているんじゃないのか。


「ええ、これね。って、サインも何もないじゃない」

「初めて見るんだが」

「ごめん。忘れてた」

 これは、タマさんがカイトのサインをもらうはずだったのかな。


「まあ、本当は良くないけど、今はいいことにしましょう。この契約書によると」

 アリサが契約書を確認していく。

「確かに、あの船の運転手として雇う契約ね……」

「そうか、よかった」


「ただ、あの船の運転手としてよ。他の仕事のことは書いてない」

「それって、運転以外の仕事はしなくてよかったってことか」

 カイトがタマさんたちを睨む。タマさんたちはソッポを向いて、口笛を吹く。

 これは確信犯だな。


「そんなことを気にしている場合じゃないと思うわよ」

「何が?」

「この契約は、あの船限定よ。他の船に移ることは認めてないわ」


「え、みんなで新しい船に移るんだよな?」

「そうよ」


「あの船はどうなる?」

「もう古いし、お役目御免かしら」


「あの船がなくなったら、俺の仕事は……」

「ないわね」


「ごめんなさい。カイトさん。私がわがまま言ったから」

「スズは悪くないから気にしなくていいわよ」

「そうよ。ちゃんと契約書を交わさないのが悪いのよ」

 ベルさんは謝っているが、他のみんなはカイトの味方をする気はないようだ。


「俺はこれからどうすればいいんだ……」

「この契約書では、退職金は出そうもないわね」

「そんな、少しぐらいは何とかしてあげてください」

 ベルさんがカイトをかばい、アリサちゃんにお願いした。


「ベルちゃんが、そういうなら、そうね。あの船を退職金代わりにあげるわ」

「そんなこと、アリサちゃんが決めていいのか?」

「それくらい大丈夫よ。新しい船だって、私がパパにお願いしたらすぐに買ってくれたし」


「あ、そう……」

 お金持ちっているもんだな。


「よかったなカイト。念願の船持ちになれたじゃないか」

「俺が考えていた船と何か違う……」


「これを足掛かりに、どんどん稼いで、新しい船を買えばいいだろ」

「まあ、そうだな。これで俺も宇宙船のオーナーか」


 何とか、カイトも納得したようだ。


「だが、どうすれば稼げるかな」

「個人でやるなら、まずギルドに加入して依頼を受けるところから始めたらどうだ」

「ギルドね。お勧めの依頼はあるか?」


「そうだな。今、フルドでバッタが問題になっているらしいから、その、討伐依頼がいいんじゃないか」

「バッタの討伐ね……」


「実は、そこの領主の娘と知り合いになって、バッタ退治を頼まれたんだけど、俺も忙しいから、代わりにカイトが行ってくれよ」

「領主の娘と知り合いになったのか。セイヤは本当にあれだな」

「あれってなんだよ。そんなこと言うなら紹介しないぞ!」


「紹介してくれるのか!」

「仕事の話だぞ」

「わかってるって」

 本当にわかってるのか?


「カイトさん。でも、あの船壊れたんじゃないんですか?」

「そうだった。先に修理しないと」

 ベルさんに指摘されてカイトは頭を抱える。


「え、それじゃあ私たちの次のライブは」

「とりあえずベルちゃんは、今までの予定通りステージをこなしてもらうとして。三人のステージはキャンセルね」

「ちょっと待って、次のプロキオンにはどうしても行かないとまずいのよ」


「そう言われても、船もないし」

「スズが乗っていた船は?」

「それはアダラ星で修理中です。だからセイヤ様に乗せてもらってシリウスまで来たんです」

 どうも、タマさんたちは次にプロキオンで仕事があるらしい。


「なら、私たちも、この船でプロキオンまで、送ってよ」

「プロキオンか。三日後に行く予定にはなってはいるが……」


「やった。こんな豪華な船で行けるんだ」

「おいおい、まだ受けるとは言ってないぞ」


「セイヤ様、お願いできませんか」

「代金の方は事務所でお支払いします」

「でもな。同乗者が……」

 第一王女を乗せてプロキオンに行くことになっている。


「大丈夫。静かにしてるから」

「そうか。聞いてみて、了解が取れれば一緒に乗せて行くよ」

「よろしくお願いします」

 また、面倒なことになったぞ、第一王女だから、同乗は認められないだろうけど。


 そう思っていたが、第一王女から許可が下りてしまった。


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