第93話 その頃ベルは、ミニライブ会場
タマさんたちに会いに来てから四日目、今日はミニライブがある日です。
このライブが終わったら、ちゃんと事情を説明して、マネージャーの元に帰りましょう。
といっても、マネージャーがシリウスまで来るのは十日後でしょうが、その前に、タマさんたちが移動してしまいます。
タマさんたちと一緒になってから「ソロデビューした」と、何度も言い出そうとしたのですが、なかなか、声になりませんでした。
タマさんたちも、私がいなくなった理由を聞いてきません。聞かれれば、話し出しやすいのですが、私が、言いにくそうにしているので、気をつかってくれているようです。
「スズ、今日の衣装はこれにしようか」
「え? それって私に衣装」
「そうよ。これを着て、今日は一緒に出ましょう」
「いいんですか?」
「勿論よ。雑用はカイトに任せて、スズは本格的にメンバーとして活動してもらうわ」
「タマさん……。あの、実は……」
「その話は、ライブに後にしましょう。今は、ライブに集中して」
「はい。わかりました」
私は、とりあえず、ライブに集中することにしました。
お客さんに最高の私を見てもらわなければいけません。
ライブはとても盛り上がりました。
タマさんたちも久々の手応えを感じているようです。
リリスさんたちも会場に来ていて、しきりに声援を送ってくれていました。
ライブが終わった後、楽屋裏にも顔を見せに来てくれました。
「ベルさん。凄く良かったです!」
「リリスさん。来てくれたのね。ありがとう」
「ベルさんが出るなんて聞いてませんでしたが、サプライズですか?」
「それは、いろいろと都合があって……」
「スズ、知り合いかい?」
「はい、ここまで船に乗せてくれた方です」
「そうか、それはすまなかったね」
「いえ、いえ、いえ。仕事でしたから。それより、握手してもらえませんか。連邦のステーションでライブを見てからのファンなんです」
「連邦のステーション? ああ、あの時彼氏といた、ノリノリの子か。今日は彼氏は?」
「他に用事があってこられませんでした。私はリリスといいます。応援してますにで、頑張ってください!」
リリスさんは嬉しそうに、タマさんたち三人と握手をしています。
「だけど、ベルさんが、猫耳カルテットの元メンバーだったとはびっくりです。息も合っていて、最高だったのに、何でメンバーを抜けて、ソロでやってるんですか? 絶対、四人でやっていた方がベルさんも輝いていたのに」
「それは、いろいろ、都合があって……」
「あ、ごめんなさい。いろいろ事情がありますよね。出過ぎた口をききました」
「いえ、気にしないでください」
「ちょっと待って! ソロでやってるって、どういうこと? それに、ベルって何。スズはスズでしょ」
「それは……」
事情を話す前に、タマさんたちにソロでやっていたことを知られてしまいました。
どうしようかと、困っていると、そこにお嬢様が現れました。なぜ、ここにいるのでしょう?!
「見つけた! ちょとそこ。ベルちゃんから離れなさい」
「何、この眼鏡っ子、今大事な話をしてるのよ! あっちに行って」
「また、ベルちゃんを虐めようとしてるでしょ。あっちに行くのはあんたたちよ!」
「この眼鏡っ子、スズの追っかけだわ」
「ああ、最近見ないと思ったら、もしかして、スズを連れていったのはあんたね!」
「そうよ。ベルちゃんを悪の巣窟から助け出したのよ!」
「何言ってんだ、このストーカー!」
私がビックリしている間に、お嬢様とタマさんたちが言い合いを始めてしまいました。
「ちょっと、タマさんたちも、お嬢様も止めてください!」
「スズは黙ってて!」「ベルちゃんは黙ってて!」
「はい……」
お嬢様とタマさんたちの言い合いは、ヒートアップして、私の言うことは聞いてもらえそうにありません。
「あの、ベルさん、どういうことですか?」
見かねたリリスさんが心配して声をかけてくれました。
「実は、あちらにいらっしゃるのは、私が所属する芸能事務所の社長のお嬢様で、私を気に入ってくださっていたのですが、何故だか、私が他のメンバーから虐められていると勘違いされて、違うといくら言っても信じてもらえないんです」
「思い込みの激しい方なのね」
「それで、私はそれを全然望んでないのに、父親である社長にお願いして、私をメンバーから引き離して、ソロデビューさせてくださったんです」
「それはまた、はた迷惑な」
「しかも、そのことをタマさんたちには知らされていなかったらしくて……」
「それを私が言ってしまったのね。ごめんなさい」
「いえ、いいんです。会ってすぐに言わなかった私が悪いんです」
「それで、これ、どうするんですか?」
「どうしたらいいんでしょう……」
リリスさんと困り果てていたところに、撤収を終えたカイトさんがやって来ました。
「お前ら、撤収終わったぞ。早く出ないと次の会場に間に合わないぞ」
「カイト、いいところに来たわ。あの子ストーカーなの、スズを連れて逃げるわよ」
「は? ストーカー」
「いいから、早く、スズを連れて逃げて」
「おう、わかった。スズ、行くぞ」
「え、ちょっと待ってください」
「いいから、早く逃げなさい。こいつは私が何とかするから」
私はカイトさんに腕を引かれて船まで走ることになりました。
後ろからは、何か爆発音のようなものが聞こえます。タマさんが魔法を使ったのでしょう。
誰も怪我をしていなければいいのですが。
船に乗って、カイトさんが出発準備を整えると、タマさんたちも帰ってきました。
「タマさん、大丈夫でしたか?」
「ああ、少し煙幕を張って追いかけて来られないようにしただけだから」
「そうですか、それで、実はですね……」
「話は、後々。カイト、早く船を出して」
「了解。すぐに出発する」
「あ、いえ、その前に、私の話を……」
「安心しろ。ストーカーなんかにスズは渡さない」
「なに、カイトのくせにカッコつけてるの」
「だから、違うんです!」
「安心しな。何があっても私たちがスズを守るから」
「発進!」
もう。タマさんたちも、お嬢様も、カイトさんも、誰も私の話を聞いてくれないんだから!
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