第88話 学院
「えー! シリウスまで来たのに、国王と会えない?」
「いえ、準備があるからもう暫く待ってもらいたい、だって」
「準備ってなんだ?」
「私に聞かれてもわからないわよ」
ステファに、これからどこに行けばいいか問い合わせてもらったところ、返ってきた答えは「待機」だった。
さっさと国王と会談して、セレストに帰るつもりでいた俺としては、当てが外れた。
これは問題である。
何が問題って、暇ができるとチハルにレース大会へ出場させられてしまう。
何か予定を組まないと。そうだ!
「ステファ、前にゲートの研究をしている人がいると言っていたよな。ハイエルフの……」
「マゼンタ教授ね」
「その人に会ってみたいんだが、連絡は取れないか?」
「私が通っている学院の先生だから、学院を通せば連絡はつくと思うけど、本当に会うの?」
「できれば、できるだけ早く会いたいんだが」
「そんなにゲートの研究に興味があったの……。わかったわ。連絡をとってみるよ」
ステファに連絡をとってもらい、二日後にマゼンタ教授と会えることになった。
よし、これでチハルに言い訳が立つぞ。
二日後、俺はステファと二人、シリウス王都にある、ステファが通う学院に来ていた。
今回、リリスやチハルは留守番だ。大勢で訪ねては失礼だろう。
「へー。これが学院か」
見た目は前世の大学と変わらない感じだ。
「セレストに学院はなかったの?」
「基礎教育の学校はあったけど……」
俺は引き篭っていて、通っていなかったがな。
「その上は研究所になるな。高等教育はなくて、いきなり見習いとして、実践で学ぶ感じだな」
「ふーん。そうなのね。ところで、セイヤは、自分の星にないものをよく知ってるわよね。どこで習ったの?」
「引き篭っていたからな。文献を読んで、知識だけは豊富なんだ」
「それはシリウスから移り住んだ先祖が残した物なの?」
「多分そうじゃないかな」
危ない、危ない。ステファに疑いの目を向けられてしまった。ステファは前から気にしているようだから気をつけないと。
俺が密かに焦っていると、都合よくステファに声をかけてきた者がいた。
「まあ、ステファニア殿下じゃないですか。暫くお見かけしませんでしたが、公務がお忙しかったのですか?」
「これは、マーガレット嬢、お久しぶりですね。少し遠くへ行っていたもので」
「そうでしたか。ところで、隣の殿方はどなたです。学院の学生ではないですよね?」
「こちらの方はセイヤ様。セレストという国の王子でいらっしゃいます」
「セレスト? 聞いたことありませんが、王子様でいらっしゃりますのね。私は、フルド辺境伯の娘でマーガレットといいます。今後はよろしくお願いしますね」
「セイヤといいます。こちらこそ、よろしくお願いします」
俺は、マーガレット嬢と挨拶を交わす。
金髪碧眼のキリリとした表情の美人だ。
「あの、セイヤ様、もしよろしかったら、お近付きの印にお茶会にお誘いしたいのですが、明後日などいかがでしょう。勿論、ステファニア殿下とご一緒に」
初めて会った男性を、いきなりお茶会に誘うものなのか?
それに、王女であるステファをついでのように誘って、問題ないのか?
ステファの方を確認すると、ステファも困惑しているようだ。
明後日というと、丁度、レース大会の日だ。
リリスを連れて行く予定になっていたが、チハルが突然飛び入り参加を言い出さないとも限らない、お茶会の予定を入れてしまって、レース大会にはリリスたちだけで行ってもらおう。
「ステファ、どうだろうか?」
「セイヤが構わないなら、私は大丈夫よ」
「まあ、よかったわ。それでは、詳しいことは後でご案内しますね」
そう言うと、マーガレットは嬉しそうに去っていった。
俺は、まだ、行くとは言っていないのだが……。
「こちらでは、初めて会った男性をいきなりお茶に誘うものなのか?」
「そんなわけないでしょ!」
「そうだよな……」
「言っときますけど、マーガレット嬢は第二王子の婚約者よ」
別に、そういう気持ちはこれっぽっちもない。俺にはリリスがいる。
「第二王子というと、影の薄い……。名前はなんだっけ」
「マクレスよ」
「ああ、マク○スね」
「マクレスよ。何故そこを伏せ字にするのよ」
おや? 何故だろう。でも、これで覚えられた気がする。
「それより、マーガレット嬢は、辺境伯の娘といっていたが、ステファ、第二王子には後ろ盾はいないと言っていなかったか?」
「辺境伯はマーガレット嬢と第二王子の婚約を喜んでいないわよ。むしろ、反対だったのを本人たち、主にマーガレット嬢らしいけど、が、無理矢理推し進めたという話よ」
「そうなのか、政略結婚でなく、恋愛結婚なのか」
「まだ、婚約段階だけどね」
王族だからといって、必ずしも政略結婚ではないのだな。
「第二王子の婚約者となると、やっぱり、こっちのことを知っていて誘ったんだろうな」
「そうでしょうね。今まで私は、彼女のお茶会には誘われたことがないもの」
「そうなのか?」
「ほとんど、話しかけられたこともなかったわよ」
そういえば、ステファは周りからあまり良く思われていないんだったな。
「今更、友好関係を結びたいということだろうか?」
「わざわざお茶会に呼んで、宣戦布告するとは思えないわよ」
釘を刺すということはあるかもしれないが。
「毒殺しようとしているとは考えられないか?」
「そんなリスクがあることしないわよ」
「なら、行っても安全だな」
「保証はできないけど、多分大丈夫じゃない」
「もし、ステファが人質に取られたら、見捨てていいんだったよな」
「え、それ少し違くない!」
確かに、約束したのは、探しに来る者がいたら、突き出してもいいだった。
「意味するところは同じだろ」
つまりは、自分の利益を優先していいということだ。
「まあ、それでもいいけど、少し寂しいわ……」
俺をシリウス皇国に売ったくせに、よく言ったものだ。
マーガレット嬢と別れたので、俺たちはマゼンタ教授の研究室に向かいながら話をするのだった。
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