第62話 救出作戦

 俺とチハルと聖女は急いでハルクに乗り込むと、緊急発進で指定された座標に向かう。

 デルタが予め発進許可を取っていた。よくできたナビゲーションである。


 指定座標まではワープ4で三時間弱、ワープ8で向かいたいところだが、そうもいかない。


 焦る気持ちを落ち着けて、救出作戦を相談する。


「相手は帝国軍だと言っていたが、そうなると、待ち構えているのは戦艦か?」

「シャトルポッドを攫って行ったのは、帝国の軍艦のスコーピオF、フリゲート艦、全長約八十メートル、通常作戦時の乗組員は十名」


「こっちより小さいのか……」

「でも、軍艦ならこっちより強いんじゃないですか?」

「そんなことない。ビーム砲の撃ち合いなら負けない。ただ、相手が一隻とは限らない」


「そうか、艦隊で待ち伏せしている可能性もあるのか……」

「オメガユニットを持ってくれば良かったですね」


「今更言っても仕方がないよな。あり物で戦うしかない」

「相手の数も大事だが、問題は人質を取られていること」

「そうだよな。迂闊には攻撃できないのか……」


「次元魔導砲を使うことを進言する」

「あれはオメガユニットがないと使えないのではなかったか?」

「オメガユニットが必要なのは次元魔導砲オメガ。通常の次元魔導砲は本船のみで使用できる」

「そうだったっけ」


「次元魔導砲なら、相手の艦を無力化できる」

「無力化したところを乗り込んで行って、リリスを救出すればいいのか」

「そうなる」


「十対三は厳しいですね」

「三って、聖女も乗り込む気なのか?」


「お姉さまを助け出すためです。当然です」

「しかし、危険だぞ」


「そんなことはわかっています。必ずセイヤ様をお守りします」

「いや、普通逆だろ。でも、まあ、魔法が使える聖女が一緒の方がいいか」


 その後、敵艦の見取図を頭に叩き込んで、座標地点への到着を待った。


 ワープアウトして、通常航行で指定座標に着くと、相手の艦はいきなりビーム砲を撃ってきた。

 ハルクのシールドに当たり、激しく煌めく。


「いきなり打たれたけど、大丈夫なのか?」

「問題ない。あれでは本船のシールドは、いくらやっても抜けない」


「デルタ、敵艦の数は?」

『一隻のみです』

「甘くみられた」


 よかった。相手が一隻なら何とかなりそうだ。


「長引かせても意味がないからさっさとやろう」

 俺は、デルタに命令する。


「次元魔導砲発射準備。目標、前方の敵艦」

『準備完了』

「次元魔導砲発射!」

『発射します』


 雷のような光が、敵艦のシールドを貫いて船体に直接当たった。

 船体に被害の様子はないが、これで効果があったのだろうか?

 敵船からのビーム砲の発射は止んで、シールドも落ちているようだ。


「魔導ジェネレーターがオーバーロードして、艦の機能は殆ど使用できないはず。今のうちに早く乗り込む」

「そうだったな。急ごう!」


 俺たちは二機のシャトルポッドで敵艦に向かう。

 シャトルポッドのビーム砲で格納庫の扉を破壊すると、緊急隔壁が降りる前にシャトルポッドごと艦内に潜り込む。

 そして、シャトルポッドに乗ったまま進めるところまで進む。


 途中出会った兵士を五人無力化する。

 敵は軍用兵器で攻撃してくるが、こちらはシャトルポッドだ、シールドも張っているので問題ない。

 敵は、いきなりこちらに艦内まで攻め込まれるとは考えていなかったのだろう。準備ができていない。


 チハルがシャトルポッドのマニピュレーターで、器用にロープを使ってぐるぐる巻きにしていく。

 流石にビーム砲で、兵士を焼き尽くすことは気が引けてできなかった。


『この先の部屋が怪しい。シャトルポッドで入るのは無理』

 もう一機のシャトルポッドに乗るチハルから無線が入る。


「取り敢えず扉を壊そう」

『了解』

 チハルがシャトルポッドのマニピュレーターで扉を壊す。


「そこまでだ、人質の生命が惜しければ、武器を捨ててシャトルポッドから降りて来い」

 部屋の中から声が聞こえる。


 まあ、人質を取られているのだからそうなるな。

 むしろ、ここまで順調すぎた。


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