第49話 王宮で歓談

 宇宙船に案内することにより、リリスの誤解は解け、いつもの優しい笑顔に戻っていた。

 アリアはただただ、びっくりしているようだ。

 心配なのは聖女であるが、ベールで顔を隠しているため、その表情を窺い知ることはできない。


 リリスの誤解は解けたと言ったが、チハルについては説明が大変だった。

 いくら、人間でなくアンドロイドだと言っても理解してもらえなかった。

 俺自身、チハルは人間にしか見えないので、仕方ないことだろう。


 結局、リリスの中では、チハルは宇宙船の船員として育てられた奴隷で、本人も俺に買われて船員になることを望んでいる。

 そして、俺は、船を動かすのにチハルが必要で、チハルを奴隷扱いせずに、理不尽な命令はしていない。

 ということで納得したようだ。


 宇宙船でゆっくりしたいところであるが、母上に夕食までに戻ると約束していた。

 一通り、宇宙船を案内した後、また、シャトルポッドに乗り、セレスト皇国の王宮に戻った。


「父上、母上、戻りました。リリスと……。聖女も一緒です」

「お帰りなさい。あら、リリスさんだけでなく、ララサさんも一緒なの。今日の夕食は賑やかになりそうね」

 何故か聖女も一緒に来ることになった。


「セイヤ、あの丸いのは三人乗りではなかったのか?」

「シャトルポッドならそうですよ。乗り切らないので、もう一機呼び寄せました」

「呼び寄せた? そんなことができるのか」


「チハルが呼んでくれました」

「チハルさんは、召喚魔法が使えるのかしら?」


「召喚魔法ではないですよ」

「無線で呼んだ」


「無線とな……。ということは、あれは無人で飛んできたのか?」

「そう」


「どこから飛んできたのかしら?」

「母船からだね。シャトルポッドは渡し船みたいな物だよ」


「その母船はどこにあるのだ?」

「空の上だね」


「そこは天界ではないのかしら?」

「天界に入ってすぐといったところかな」


 父上も母上も興味深々で話が尽きそうになかった。

 二人も宇宙船に連れて行った方が話が早いかもしれない。


 夕食は、久しぶりに和食づくしといった食卓だった。


「ステファ、どうだ、こっちの食事は?」

「美味しいわよ。これなら食事に不満が出ることはないわ」


「それがな、こればかりだと、ハンバーガーを食べたくなるものなんだ」

「そういえば、セイヤ、ハンバーガーを食べながら泣いてたわね」


「ステファもそのうち、その気持ちがわかる時がくるんだよ」

「あら、私はそうなる前に、船のフードディスペンサーで、ハンバーガーを出してもらうことにするわ」


「くっ! そうか。今ならフードディスペンサーでハンバーガーが出せるんだったな」


「セイヤ様、そのハンバーガーとは何なのですか?」

「ハンバーグをパンで挟んだ物だけど……」

 リリスが首を傾げる。


「リリスにはわからないよな。後で食べさせてあげるよ」

「本当ですか! 楽しみにしておきますね」


「そうだ、お土産にマカロンを買ってきてあるんだ」

 そういえば、リリスには腕輪もお土産に買ってあったんだ。

 会ってすぐはバタバタしていて渡しそびれたが、いつ渡したものだろうか。


「マカロン? ですか」

「甘いお菓子だよ。チハル、どこに置いたかな」

「これ」


 チハルが都合よくマカロンの入った箱を出してきた。

「収納魔法?」

「違う。必要になると思って、持っていただけ」

「あ、そうなの。チハルは優秀だな」


 俺はチハルからマカロンが入った箱を受け取ると、蓋を開けてリリスに差し出す。


「どうぞ、お好きなだけ」

「これがマカロン? 変わった見た目ですね。では一ついただきます」


 リリスは箱からマカロンをつまみ取ると、それを口に運んだ。


「甘くて美味しい。そして、なんでしょうこの食感は、今までに味わったことがありません!」

「気に入ったならよかったよ。この一箱みんなリリスの分だから好きなだけお食べ」


「まあ、本当ですか! セイヤ様ありがとうございます。ですが、皆さんにもお分けしますね」


 羨ましそうなみんなの視線が気になったようだ。


「大丈夫、みんなの分は他に用意してあるから」

「そうですか。なら、これは私がいただきます」


 チハルがもう一箱出してきて、それを開けてみんなにもマカロンを振る舞う。


「おお、これが天界のお菓子か!」

「確かに、不思議な食感ですね」

「おいしいですね」


 食後はみんなで歓談していたが、頃合いをみて、リリス一人をテラスに誘い出す。


「リリス、心配かけてすまなかった。かなり苦労を掛けてしまったようだね」

「セイヤ様が無事に戻られたので、もう、苦労など忘れました」


「これ、お詫びという訳ではないのだが、お土産に買った腕輪だ。着けてくれるか?」

「まあ、私にですか。マカロンもいただいたのに腕輪まで、ありがとうございます」


「この腕輪には身を守るための魔法が掛けられている。出来る限り身に着けておいてくれ」

「セイヤ様にいただいたものです。片時も放さず、身に着けておくようにします」


 俺は無事、お土産の腕輪をリリスに渡すことができたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る