第39話 駆け落ち皇女
俺はステファから話を聞いた。
「こちらの事情は全て話したわ。それで、セイヤは何者なの?」
「俺は、一応、セレスト皇国の第三王子だけど」
「セレスト皇国? 聞いたことないんだけど」
「だから、言ってもわからないと言ったじゃないか。国と言っても、シリウス皇国のように星間国家じゃなくて、一つの惑星上にいくつもある国の一つなんだ」
「いくつもの星系を支配している国も、街が一つしかない国も、国は国よ。大きさは関係ないわ。ただ、そんな小さな国の名前までは、私も覚えていないわね。それで、惑星の名前はなんていうの?」
「惑星の名前もセレストだけど……」
「えっ? 惑星の名前もセレストなの? セレストなんて惑星、聞いたことないわ。本当にロストプラネットなのね!」
ステファは俺の出身地を、ロストプラネットではないかと疑っていたようだが、その可能性は低いと考えていたのだろう。とても驚いている。
「やっぱり、犯罪者の星なの?」
「それは違う。多分、ロストプラネットであることはあっているのだろうが、さっきの話には大きな間違いがある」
「間違いって?」
「開発者が王女を誘拐したのではなく、二人で駆け落ちしたんだ」
「駆け落ち! 王女と開発者が。そこにどんなロマンがあったの?!」
「そこまでは知らん」
ステファは、この手の恋バナが大好物らしい。
リリスとのことも根掘り葉掘り聞かれた。
「何か記録は残ってないの?」
「デルタが、この船のAIだが、少しは知っているんじゃないか」
「そうなの。デルタ。後で教えてね」
『了解しました』
「て、ことは、犯罪者ではないのね」
「そうだと思うよ。二人の他にも、従者たちかな、十人がついてきたようだね」
「へー。その十二人で新しい星を開拓したの」
「いや、原住民がいたようだ」
「原住民がいたんだ。よく争いにならなかったわね」
「文明レベルが違いすぎたようだよ。十二人は神として『讃えられて』いたようだよ」
「それは、神として『君臨していた』じゃないかしら」
「そうだね。その可能性が高いね」
「あら、反論しないのね」
「八百年も前の話だからね。何が事実かわからないよ。それに、十二人の中に教会関係者もいたんだ」
「そうなんだ。今もその宗教はあるの?」
「その宗教かわからないが、今あるのは十二神教だね」
「十二神教ね。自分たちを神として讃えちゃったんだ」
「多分そうなんだろうね」
セレストに宗教といえるのは十二神教しかない。
文明レベルの低い原住民に対して上手くやったものである。
しかし、今は皆がみんな熱心な信者という訳ではない。
「話は逸れちゃったけど、犯罪者の星でないなら、なんで隠れているの?」
「隠れているというか、他の星との行き来が、この五百年間全くないだけだ」
「それなら、私を受け入れてくれないかしら」
「事情はわかるけど、ステファを俺の星に連れて行くわけにはいかないな。俺の星が危険に晒されることになる」
「私一人受け入れても危険に晒されることはないと思うけど?」
「ステファを探しに危険な奴らが来るかもしれないじゃないか」
「それは、私が行っても行かなくても同じじゃないかしら?」
「それはそうだな。最善の手はステファを然るべき場所に突き出すことか」
「えっ! 本気で言ってるの?」
「今のところ冗談だけど、俺の星に危害が及ぶようなら真剣に考えなければならないな」
「星の安全を優先するのもわかるけど……。なら、誰かが私を探しに来たら、私を突き出してもいいから、それまでセイヤの星に居させてもらえないかしら」
「その条件ならこちらに危害は及ばないか。わかった。いいよ。ステファを客人として受け入れよう」
「そこは、友人としてとか、恋人としてとかじゃないんだ」
「友人としてならいいぞ」
婚約者のリリスがいるのに、恋人として受け入れられるわけないだろう。
「そう、なら友人としてでお願い。その方がお互い気を使わなくて済みそうだわ」
人のことは言えないが、随分と気さくな王女様だ。
俺はステファを友人としてもてなすことにした。
「そうすると、部屋はこのままここでいいのか? 貴賓室も空いているぞ」
「そうね。このままでいいわ」
「食事はどうする。一緒に取るようにするか?」
「そうね。一緒にお願いできるかしら」
「なら、ここの食堂で一緒に食べよう」
「悪いわね。わざわざこっちに来てもらって」
「大した手間でもないから気にするな」
「それより、まずはこの拘束を解いてくれる?」
ステファを椅子に縛りつけたままだった。
「あ、すまん。チハル、解いてやってくれ」
「わかった」
チハルがステファの拘束を解いていった。
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