第35話 メンテナンス終了

 ドックに来てから十日目、今日、船のメンテナンスが終わる予定だ。

 ホテルを十時にチェックアウトすると、そのままピットに向かった。


 ピットで名前を告げるとおっさんが出てきた。

「おう、メンテナンスは終わってるぞ。少し説明が必要だからかけてくれ」


 最初に説明を受けた時と同じテーブルを勧められて、俺はそこに座った。

 飲み物を勧められたので、今回はコーヒーを頼んだ。また、コーラを頼むような馬鹿な真似はしない。


 おっさんは俺が何を飲むかにはまったく興味がないらしく、さっそく話を始めた。

「まずはメンテナンスの内容だな。今回交換期限が過ぎている部品については、全て新しい物に交換した。これがそのリストだな」

「凄い数ですね!」

 リストは数十枚に及んでいた。


「なにせ五百年ほっぽってあったわけだからな。こんなもんだろう」

 それを言われるとなんとも言えない。


「それと、魔導核、魔導ジェネレーター、エンジンについては点検したが、問題なしだ。ほとんど動かしてなかったようだからな、新品同然だ」

「そうなのですか……」


 作られて、八百年経っているから、かなり乗られているのかと思ったら、そうではなかったらしい。

 新品同然ということは、放置される前の三百年間にも、ほとんど使われていなかったのだろう。


「それからビーム砲などの武装とシールド発生装置についても、点検できるところは問題なかった」

 点検できるところ、という言葉に少し引っかかりを感じた。点検できないところがあるのだろうか?


「ブラックボックス部分については手つけずだ」

「ブラックボックス?」

「ああ、武装とシールドの一部に軍事機密か何かだと思うが、メンテナンス権限では触れられないところがある。そういうところをブラックボックスと呼ぶんだ」


 試作機だから、軍事秘密に限らず、実験的な何かが積んである可能性はある。


「船長権限なら中身がわかるのですかね?」

「それはやってみないとわからんな。あの船はプロトタイプだから、開発者権限の可能性もある」


 船長権限なら全てOKというわけではないのだな。船長権限以上の権限もあるわけか。

 というか、どちらが上というよりは、権限によって許可される範囲が違うだけかもしれない。


「後は、船内システム全般のアップデートもしておいた。より、使い勝手が良くなっているはずだ」


 これで、デルタに最新の情勢を聞けるということだ。

 確か、チハルと連携できるはずだから、チハルに聞けばいいのか?


 チハルといえば、まだチハルの代金を払っていなかった。


「メンテナンスの説明は以上だな」

「ありがとうございました。ところで、チハルの代金をまだ払ってなかったはずですが」


「そうだったな。金は用意できたのか?」

「言われたとおり、船を担保に借りました」


「そうか。じゃあ、払ってもらうとするか。チハル、よかったな返品にならなくて」

「私は優秀、返品はあり得ない」

「そうか、そうか」


 チハルは優秀だったのか。十日間一緒にいたが、返品しようとは考えなかったから、多分そうなのであろう。

 俺は、カードでチハルの代金を払った。これで、正式にチハルは俺のものだ。


「改めてよろしくな、チハル」

「よろしく、キャプテン」


「俺からも、よろしく頼むわ」

 チハルは少しの間とはいえ、ここでアルバイトをしていたというし、おっさんも気にかかるのだろう。


「それと、これは、おまけの各種クーポン券だ。提携ステーションで使える魔力充填の割引券もあるから有効に使ってくれ」

「ありがとうございます」


 ステーションで魔力充填をすることはないと思うが、ありがたくもらっておこう。

 ところで、魔力の充填ていくらぐらいかかるものなのだろうか?


「あの、魔力の充填ていくらぐらいかかるものなのでしょうか?」

「今は、ワープ4で一日分が百万G位が相場だな」

「となると、満タンにするのに一億Gか……」


 なにか凄い額だが、逆に、自分で魔力の充填ができる俺は、その分が浮くわけだから、ぼろ儲けじゃないだろうか?

 魔力の充填を気にせずに済むということは、ありがたいことだ。


「まあ、頑張れば、すぐに借金を返せるさ。心配するな」

「そうですかね……」


 考え込んでいたら、借金の心配をしていると思われたようだ。まあ、あまり心配していたわけではなかったのだが、おっさんがそういうなら、借金については心配せずとも大丈夫だろう。


「今日はこの後どうするんだ。今日いっぱいはいいが、明日以降は係留料金がかかるぞ」

「そうですね。少し買い物してから今日中に出発します」


「そうか。じゃあ、気をつけてな。次の定期メンテナンスは十年後だから必ず持ってこいよ」

「わかりました。忘れないようにします。それではお世話になりました」

「お世話さま」


 俺はピットを出て、買い物へ向かう。

 何か、お土産になりそうな物はあるだろうか?


 俺は店を見てまわる。

「ポテトチップか……」

 これなら日持ちがするし、セレストにはないからお土産にはいいだろう。

 それに、引き篭りにとって欠かせない物ともいえる。


「いや、待てよ。種芋を買って行けばセレストでも栽培できるのじゃないか?」

 名案とばかりに、種芋を探す。勿論ポテチはポテチで大量購入して、船まで配達してもらった。


 園芸店で、家庭菜園用の種芋を見つけて購入した。

 トマトなどの種もあったので、セレストにない物は合わせて購入することにした。


 ただ、家庭菜園用なので、大量にはなかった。

 セレストで本格的に栽培するならば、もっと大量に必要になるだろうが、それは、これを試作して様子を見てからでもいいだろう。


 それから、購入したのは、チハルの服だ。替えは持っているようだが、数はないようなので、この際まとめて数着購入した。

 リリス用にとも思ったが、なにぶんサイズがわからない。

 標準体型の服では合わないのは確実なので、諦めた。


 代わりにマカロンを大量購入した。

 セレストでは見かけたことがないから、甘い物が好きなリリスは喜んでくれるだろう。

 家族にも、これを少しずつ分ければいいだろう。ポテチも少し分けてあげよう。


 でも、これは、甘い、辛いの無限連鎖にはまりそうで怖いな。


 買い物の途中で昼食をとった。

 また、十日間、シェイク漬けなので、贅沢して、ジョジョの店で焼肉三昧だ。

 チハルも大喜びだ。

 ついでに夕飯用に焼肉弁当もテイクアウトする。


 買い物を終えて、俺とチハルはメンテナンスが済んだ安全になったハルクに乗船する。


 ブリッジに入りキャプテンシートに腰を下ろす。

 チハルもサブシートに座る。


『お帰りなさいませ、船長』

「ただいま、デルタ。出航の準備を頼む」


『了解しました。目的地はどちらでしょう』

「惑星セレスト」


『了解しました。出航準備に入ります』


「キャプテン、船とのリンクの許可を」

「許可する」


「リンク設定を開始」

 チハルがデルタとの接続を開始する。

 チハルが仄かに光を纏っている。

 とても幻想的だ。


『アシスタントからの接続要求を確認、接続を受け入れ、リンクを設定。ようこそ、チハル』

「船との接続を確認。よろしく、デルタ」


 どうやら無事に接続できたようだ。


『船長、出航準備が整いました。いつでも出航できます』

「それじゃあ発進。家に帰るぞ」


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