帰還編

第34話 ギルド加入


 宇宙船のライセンスも取れたので、俺はチハルと一緒に、ギルドに加入申し込みに来ていた。


 スイングドアを押し開いて中に入ると、そこはウエスタン・サルーン、西部劇でよく見かける酒場のようだった。

 来る場所を間違えただろうか?


「いらっしゃいませ。何か御用ですか?」

 バニーガールがいた!


「ここは、ギルドであっていますか?」

「はい、あってますよ」


「加入申し込みに来たのですが」

「新規に加入申し込みですね。そこのカウンターに座ってお待ちください」


 俺はバニーガールに言われたとおり、カウンターチェアに腰掛ける。

 チハルは俺の斜め後ろに立ったままである。

「チハルも座れば」

「ここでいい」


 護衛のつもりなのだろうか。ここは警戒しないと危険なのだろうか?

 俺は周囲に目配りするが、危険性は感じ取れない。

 もしかしたらと聞いてみた。


「椅子が高くて座れないのか?」

「違う!」

 チハルは怒ってそっぽを向いてしまった。

 ということは、そういうことなのだろう。


 俺は椅子を立つと、チハルを抱き上げ、カウンターチェアに座らせる。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 そっぽを向いたままのチハルにお礼を言われた。

 どうやら正解だったようだ。


 俺が椅子に座り直すと、先程のバニーガールが書類を持ってやって来た。

「担当させていただく、アンジェラよ、よろしくね」

「セイヤです。よろしくお願いします」

「アシスタントのチハル。よろしく」

 例によってカードを見せ合う。俺もだいぶ慣れてきたものだ。


「ギルドについてはどのくらいご存知かしら?」

「自分の宇宙船を使って仕事をするなら、加入したほうがいいと銀行で勧められました。詳しくは何も知りません」


「そう、じゃあ、一から説明するわね。

 ギルドは宇宙船を持った、個人事業主を支援するための組織よ。

 宇宙船を持った個人事業主の仕事は多岐にわたるけど、大きく分けると三つになるわ。

 冒険者、運び屋、傭兵よ」


 アンジェラさんの話によると、それぞれの仕事の内容は次のようになる。


 冒険者:新しい星や航路、難破船などを見つける仕事。また、それらの調査や確保


 新しく人が住めるような惑星を見つけることなど殆どないが、鉱星や魔石が取れる星などが新たに発見されることはよくある。

 お手頃なのは、アステロイドベルトから、レアメタルを見つけて拾って来ることだそうだ。

 新しい星や航路が発見されると、それらの調査依頼が出されることがある。これは、リスクも低めでお勧めとのことだった。


 運び屋:大手が引き受けない荷物や人の運搬


 基本、大手は航路外を航行することがない。リスクが高いからだ。

 航路外に行こうと思ったら、宇宙船持ちの個人に頼むしかないそうだ。

 また、航路内であっても、特別な理由で、大手に頼めない場合もあるようだ。


 傭兵:海賊や怪物の討伐、警備、警護、戦争の手助け


 宇宙にも海賊はいる。怪物もいるそうだ。それらを倒したり、それらから他の船を護衛したりするわけだが、宇宙船の武装はもちろん必要だが、シャトルアタッカー、戦闘機も必要になるそうだ。

 戦争への参加については、宇宙船の武装だけでも可能なようだ。

 まあ、俺は傭兵をやるつもりはないから、話だけ聞いておく。


「これらの仕事の斡旋、仲介、依頼。現物や情報の買取。各所への手続き代行をギルドで行っています」

 つまり、個人で営業まわりや販路の確保をする必要はないということだ。

 何かするのにどんな許可が必要か、まるでわからない俺にとっては、各所への手続き代行はとてもありがたい。


「今どんな仕事の依頼が出ているかは、船に通知されますので、受けたい仕事があったら返信してください。原則、早い者勝ちですね」

 仕事の依頼を受けるのに、わざわざここに来る必要はないということだ。


「常設依頼もありますから、初めはそれからやってみるのがいいかもしれません」

 さっき言っていたレアメタル拾いあたりだろうか?

 まあ、最初に始めるならその辺りだろう。


「依頼をこなしていくと、ギルドでのランクが上がっていきます。ランクが高くなれば指名依頼が入りやすくなります。割引などの優遇措置もありますので、頑張って依頼を受けてくださいね」

 ギルドのランクは、アイアンから始まり、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナの五段階だ。

 指名依頼に関心はないが、割引があるとなると無視できないな。


「それと、航路外を航行する場合は、基本的に無法地帯なわけですが、ギルドに加入していることにより、海賊船と間違われなくなるという利点があります」

「それは、どうやって区別しているのですか?」

「船の識別信号をギルド加盟船のデータベースと照会することによって行います。識別信号を消していると無条件に海賊船と認定されますから、航路外でも識別信号を消したら駄目ですよ」


 ギルド加盟船が海賊行為を行なっていると、これでは防げないが、通報される可能性もあるから、そこは心配しなくても大丈夫なのか。


「ギルドについては以上になりますが、何か質問はありますか?」

「会費とかはないのですか?」

「会費はいただいておりません。その都度手数料をいただいております」

 なるほど、それなら加入しておいて何もしなくても無駄にはならない。

 まあ、俺の場合、借金があるから何もしないわけにはいかないが。


 ところで、ギルドに来た時から気になっていることがあるのだが、聞いてもいいのだろうか。

 俺は、悩んだ末、思い切って聞いてみることにした。

「アンジェラさんは、なんでバニーガールなのですか?」

「趣味だからです!」


「えっ! 趣味なのですか?」

 これはビックリである。


「私のじゃありませんよ。これがここの制服なんです。制服を決めたギルドマスターの趣味なんです」

 そういうことか。なぜか、ほっとしたが少し残念である。

 しかし、このギルド大丈夫なのか? セクハラ、パワハラじゃないのか?


「ああ、窓口に来る人は殆どいませんから、副業で酒場を開いてるんです。私は、ウェートレス兼任なんです」

「そうですか。何か頼んだ方がいいでしょうか?」

「大丈夫ですよ。気にしないでください」


 アンジェラさんはそう言ってくれたが、さっき、お昼を食べたばかりだが、飲み物ぐらい注文するか。

「チハルは何か飲まないか?」

「オレンジフロート」

 さっきの昼食はデザートも付いていたのだが、それなのにフロートつきなのか。まあ、いいけど。


「すみません。コーヒーとオレンジフロートください」

「こちらこそ、すみませんね。気を使っていただいて。それじゃあ、用意してきますから、その間、この用紙に記入しておいてください」

 アンジェラさんにギルドの加入申し込み書を渡された。


 俺は、それに名前や宇宙船名などを記入していく。


 書き終わった頃に、アンジェラさんがコーヒーとオレンジフロートを持ってくる。

 俺は記入した用紙を渡す。

 アンジェラさんはそれを確認する。


「はい、確かに。それと、改めてカードの提示をお願いできますか」

 俺はカードを提示する。

「はい、結構です。これで手続き完了です。あとの細かい規約はこちらをご確認ください」

 そう言われ、規約を書いた冊子を渡される。普段ならそのまま捨ててしまうが、俺にはまだ宇宙の常識はないから後で一通り目を通すことにする。


「ところで、セイヤさんはいつもアシスタントを連れて歩かれているのですか?」

「そうですが、変ですかね?」


「変というか、普通は船に留守番させておくものですよね」

「そうなのですか……」

 おっさんが連れて行けと言っていたから連れているのだが、普通ではなかったのか。


「いえ、別にそれが悪いと言っているのではなく、むしろ、チハルちゃんが嬉しそうにしているのでいいなと」

「そうですかね」

 確かにオレンジフロートを食べて、嬉しそうにしているが、これが普通ではないのか? 俺ってもしかしてチハルに甘過ぎるのか……。


「チハルちゃん、美味しい?」

「美味しい」


「セイヤさんは優しい?」

「キャプテンは優しい」


「そう、よかったわね」


 まあ、甘くてもこれでいいか。


 俺はコーヒーを飲み干すと、チハルがオレンジフロートを食べ終わるのを待って、ギルドを後にしたのだった。


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