第6話 魔力充填

 シャトルポッドに乗って宇宙船に来てみれば、そこはドックでなく、目的のドックはワープでなければたどり着けない遠い宇宙の先にあるらしい。

 帰してくれと頼んでみたが、ドックまで行ってメンテナンスを受けるまでは、帰してもらえないようだ。

 諦めてドックまで行くほかないようだが、ドックに行くには燃料となる魔力が足りないらしい。困ったことになった。


「実行可能な対応策を教えてくれ」

 俺は誰もいない空間に向かって問いかけた。ちょっと大声で独り言を言っているようで気恥ずかしいが、誰も見ていないので気にしないでおこう。

『実行可能な対応策は複数あります』

 俺の心情を気遣ったわけではないだろうが、機械音声がすぐに答えを返してきた。


『1 低速航路を利用し、ワープ2で目的地に向かう。この場合の所要時間は千日です』

 低速ならば燃費がいいから、現在の魔力残量でもドックに辿り着けるということか。だが、なんで千日も掛かるのだ。


「おい、何で速度が半分になっただけで、所要時間がそんなにかかるのだよ」

『ワープ2の速度はワープ4の百分の一になります。ワープが一つ上がるごとに速度は十倍になります』

「成る程、そういうことか。なら、ワープ5で行けば一日で付けるな」

 リリスのこともあるので、できるだけ早く戻ってきたい。


『それは不可能です。通常航路はワープ4限定です。高速航路ならばワープ6が規定速度になりますが、この星域に高速航路はありません』


 宇宙にも道路があって、制限速度が決まっている感じか。


「千日もかけられないから、ワープ2で行くのはなしだ」

 今でもリリスは俺のことを心配しているだろうに、三年近く待たせるわけにはいかない。いや、往復だと六年か? そんなに待たせたら確実に忘れられて、リリスは他の男と結婚しているだろう。そんなの絶対にダメだ。


「他の策を教えてくれ」

『2 魔力を補給する。この場合、充填済みの魔核に交換するか、魔核に魔力を込めて下さい』


 なんだ、この巨大な宇宙船も魔道具なのか。

 魔核というものが、魔力を蓄えておく装置だろうが、宇宙船を動かすだけの魔力って、どれだけ込めればいいのだ。

 まあ、俺は魔力が高いし、やれるだけやってみるか。


「魔力を込めるにはどうしたらいいのだ」

『シートのレバーを握って魔力を込めて下さい』


「ああ、このレバーね」

 俺は椅子の肘掛け部分に付いているレバーを握る。


「それじゃあ、いっちょ、やってみますか」

 俺は気合を入れてレバーに魔力を込めていく。

 手の甲に痣……ではなく、紋章が浮かび上がる。


 五分ぐらい魔力を込めただろうか。前方のスクリーンに映し出された、魔力の充填量を示すインジケータが、九パーセントから十パーセントに上がった。


『目的地までワープ4で到着可能な魔力の充填を確認。エラー解除。第2857ドックに向け発進します』


 全周スクリーンに映し出された星々が、尾を引いて後方へ流れていく。

 取り敢えずどうにかなったようだ。


 俺は星の流れを見ながら、ドックに着くまでの十日間、何をしようか考える。


 まずは船内を見て回って、どんなものがあるか確認だな。

 それから、他の星にも人間がいるのか。まあ、いるのだろうけど。どの位、宇宙に進出しているのかも調べたい。

 それと、魔力の充填も行なっておこう。ギリギリでは何かあった時に心許ない。

 まあ、何かあったらそこでお仕舞いの気もするけど。

 だが、とりあえずは、現実逃避をして寝ることにしよう。


 引き篭りニートの本領発揮である。


「寝室に案内してくれ」

『ご案内します。マーカーに従ってお進み下さい』


 俺はマーカーの指示に従って廊下に出てまっすぐ進む。エレベーターを通り越し、反対側の突き当たりが寝室だった。


 寝室は六畳ほどの部屋で、ベッドとソファーセットが置かれていた。

 備え付けのクローゼットには着替えが用意されていて、トイレと浴室、洗面所が併設されていた。


 ベッドは程よい硬さで、王宮の自分の部屋の物より寝心地が良かった。

 お陰で、宇宙旅行中だというのにぐっすりと寝ることができた。


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