第3話 老いを感じるおっさんと怪しき剣#2

 カイはこの世界に来てサバイバルをしている間にわかったことがあった。


 この世界は魔法と剣というファンタジー世界で、魔法は脳内でアナウンスされたものが使えるということ。


 それが分かったのはたまたま森を探索していた見知らぬ四人の男女。

 その男女が“魔物”と呼ばれる生物と戦っていることで分かった。


 物理法則を無視した現象が“魔法”で、それを行使するのが“魔力”。

 いわゆるライトノベルでありがちな設定だ。


 ゲームのようなアナウンスの感じもまたそういう設定に近い。

 しかし、それらの肝心の使い方がわからなかったが。


 加えて、この世界では過去に魔族と人族の戦いがあり、その種族同士の戦いは大小さまざまな結果をもたらしたらしい。


 ある国は滅亡し、ある国は繁栄し、ある国は変わりなく、ある国は他の国と冷戦状態になっているとのこと。


 そう考えると「もとの地球の数ある国同士のいざこざと何ら変わらない」とカイが思うのは自然のことだった。


 ただこの世界は日本のような平穏な環境とは違い――――酷く生に対して厳しい。


 カイは魔物と戦っていた男女が無惨にも殺され、魔物のエサとなっていくのを目撃してしまった。

 そこにあるのは「弱肉強食」というどの世界にもある不変で単純な真理のみ。


 その記憶を思い出しながら、カイは目の前のゴーレムと向き合っていた。


「おいおい、こんなのと戦わせるつもりか?」


「はい。そうでなければ、私の主足りえませんので」


 剣はそう告げるとゴーレムを動かしていく。

 全身をゴツゴツした石で覆われたゴーレムはゆっくりと動き出すと巨大な拳をカイに向かって振るった。


 カイは素早くその場から飛び離れる。

 その瞬間、地面は大きく揺れ、天井からはパラパラと砂が舞い落ちていく。


 カイは思わず漏れ出そうになった小言をぐっと飲みこみながら、素早くゴーレムの胸にある赤い核へと銃口を向けた。


――――バンッバンッ


 二回ほど立て続けに撃ってみる。

 しかし、その銃弾は核を傷つけることもなく弾かれていく。


「マジか。この時点で俺詰んでるじゃん」


 この結果にはカイも予想外。

 せめて傷ぐらいはついて欲しかったが、無傷となれば話は変わってくる。


 ゴーレムが重たい巨体を動かしながらカイを再び攻撃して来た。


 重たい拳を地面に打ち付けるたびに空間全体が揺れていくように衝撃が走っていく。

 その攻撃をカイは毎回紙一重で避けながら、今度は頭にある一つ目を狙ってみた。


 しかし、結果は同じ。

 ゴーレムが空中に砂をかき集め、大きめな石粒を生成してカイに撃ち放ってくる。


 カイはその攻撃に苦笑いを浮かべながら大回りに走って避けていった。


 だが、それでも避けれないものは銃弾で迎撃し、弾が尽きれば飛び込むようにして地面を転がりながらリロードして再び迎撃。


 そんな時間がしばらく続く。

 一向に戦いが進展せず、カイの弾ばかりが尽きていく。

 その光景を見ていた剣は思わず怪訝に思っていたことを聞いた。


「あなたはどうして魔法を使わないんですか?」


「魔法? 確かに、ある一部の男が三十路過ぎれば見習い魔法使いになれると聞いたが、あいにく俺は魔法使いにはなれない人間でね」


「魔法が使えない......魔力がないという意味ですか?

 ですが、あなたは現時点で魔法が発動していますし、もしかしてその年齢で使い方を知らないんですか?」


「え、俺って今魔法発動してんの?」


 カイはゴーレムの攻撃を避けながら驚いた様子をする。


「(どうやら嘘ではないみたいですね)」


 その姿を見た剣はカイのような年齢で魔法の使い方がしらないことがわかるとすぐにカイへと返答した。


「なら、特別に魔法の使い方を教えてあげます」


「試練を与えたにしちゃ随分と優しいじゃん」


「この試練は魔法を使える前提で作りだした試練です。

 ですが、使えないとなれば話は変わってきます。

 一度しかいいませんので、しっかり聞いて下さい」


「だったら、このゴーレムを止めて欲しいものだけど」


 カイは思わず小言を漏らす。

 それを無視するように剣は言葉を続けていった。


「魔法とは全身を血のように巡る魔力というものによって行使できる力です。

 魔力は空気中の魔素を吸収されて体内で生成されます」


 淡々と話す剣にカイは耳を傾けながら躱すことに集中する。


「しかし、人によって魔力量、魔力変換効率などが違いますので、使える量は決まっています。

 ちなみに、魔力を限界まで使うと魔力枯渇ブレイクダウン状態となり、初期症状は倦怠感や眠気、最後は気絶ですね」


「なるほどね。魔力は体内に存在する力......要するに気功術と同じか。なら、おっさんにもわかるかも」


 カイは逃げまわることを止めると右手に持ったリボルバーの銃口をゴーレムへと向ける。

 その顔は先ほどよりも勝機を見出したように笑っていた。


「おっさん、この世界に来るためにいろんなの齧ってるから。

 なら、武器に魔力とやらを纏わせられるのも同じだよな?」


 カイに接近したゴーレムは巨大な左拳を振り上げるとカイを押し潰すように振るってきた。

 その風を切る音、迫りくる圧、肌に痺れる恐怖感を感じながら、不敵に笑ったカイはリボルバーの引き金を引く。


 撃ち出された銃弾は空気を貫くように回転して飛びながら、やがてゴーレムが振るった左拳に直撃。


 その瞬間、ゴーレムの拳には銃弾以上の大きさの円が出来るようにして、ゴーレムの拳を貫通、破壊していった。


「なっ!?」


 この突然のパワーアップには剣も驚きを隠せない様子で思わず声を漏らす。

 その一方で、威力の結果に思わず上機嫌な口笛を吹くとカイは思った。


「これまで使えなかった魔法はもしかしたら魔力これが使えなかったからかもな」


 カイはそう考えるとと色々と狩りをして魔法を得てきたり、もともとの覚えている魔法から色々組み合わせれば攻略できるかもしれないと感じた。


 そしてカイはニヤッと笑いながらゴーレムに向かって走り出す。

 使い物にならなくなったゴーレムの左腕の方から回っていくと再び銃弾を放っていく。


 狙ったのは左肩と左ひざ。

 左肩を完全に破壊することで、ゴーレムの片腕を潰し、さらに足を攻撃して機動力を奪った。


 もともと動きが襲いゴーレムであったので、これによってほぼ動けなくなったと思ってもいい。

 ゴーレムに接近していくと魔物から獲得した<重脚>を使って、地面に落ちているゴーレムの左腕を蹴り飛ばした。


 ゴーレムはそれを右腕で防御する。

 しかし、当然全てが塞がったわけじゃない。

 僅かな隙間があれば、カイの銃弾の一発は入る。


「これでどうだ!」


 カイは横っ飛びしながら、狙いを定めて銃弾を撃った。

 その銃弾は寸分たがわずゴーレムの赤い核に吸われていき直撃―――かと思いきや、それは突如としてゴーレムの肩甲骨あたりから生えた二本の盾をつけた腕に阻まれる。


「今の完全に当たったと思ったんだけどな。急なパワーアップはなしじゃない?」


「今のあなたを改めて調査したらこのぐらいのパワーアップも当然です。

 それにこんなものでは終わりません」


 剣はそう告げるとゴーレムの左腕と左足に盛り上がった地面が吸い付いていく。

 そしてその地面がもとの平らに戻る頃には腕も足も元通り。


 これにはカイも苦笑い。

 だが、ゴーレムの進化はまだ終わっていない。

 四つの手のひらをカイに向けるとその手のひらから五つの砲筒を浮かび上がらせた。


「ちょいちょいちょい!?」


「頑張って避けてください」


 その剣の言葉を最後にゴーレムからは一斉に砲撃が開始された。

 四つの手のひらにあるそれぞれ五つの砲筒、計二十もの光線がカイを襲っていく。


 カイはそれを〈直感〉による命の危機を感じる砲撃に注意しながら避けていく。

 避けられ地面に直撃した砲撃はその場で小爆発を繰り返していった。


 なんとかカイが近づいていくことに成功するとゴーレムの手前二本の両腕がカイめがけて拳を振るって来る。


 それを避けていくと別の角度から砲撃が降り注いできた。

 その砲撃をすぐさま地面に飛び込むようにして避けるとすぐ真上にはゴーレムの拳が。


「捉えましたね。ここまでのようで......ん?」


 ゴーレムを操っている剣はカイを確実に攻撃したと思ったが、地面に巻き上がった砂煙から何事もなかったようにカイが走っているではないか。


 剣はすぐにゴーレムで同じように機動スペースを奪いながらカイを攻撃。

 その度にカイを潰したと思うものの、すぐにカイがひょいっと現れる。


「なぜ? 確実に当たってるはずなのに」


 剣は思わず疑問を口に漏らした。

 それを聞いていたカイが上機嫌に返答する。


「あー、それね。いわゆる歩法ってやつだよ。

 緩急をつけて動くことで相手もペースを乱すってやつ。

 ほら、おっさん結構いろんなの齧ってるって言ったじゃん? これもその一つなんだよ」


「なら、範囲攻撃すればいいだけです」


「俺、もう体力尽きそうだから手加減してくれない?」


 そんなカイの小言を気にすることなく剣はゴーレムを動かしてカイを追い詰めていく。


 砲撃で動ける場所を削りながら、両腕で地面をさらうように動かしていった。

 しかし、それでもカイはその攻撃を手を踏み台にするようにし、ジャンプして避けていく。


 カイは丁度ゴーレムの核と同じ高さまでやって来くるとブレないように両手で銃を構える。


「これでチェックメイト――――」


「そうはさせません」


 銃口を向けるカイにゴーレムは砲撃を撃ち放つ両手の甲についた盾で空中に浮いたカイを切り裂くように攻撃。

 カイを捉えたその二つの盾は地面に深く刺さっていった。


「これで今度こそ終わりです――――」


「だから、言ったでしょ? チェックメイトって」


「なっ!?」


 そう言うカイはゴーレムに向かって走っていた。

 そのことに剣は困惑。確実に突き刺したにも関わらず。


 するとその瞬間、突き刺したはずのカイはだんだんと霞のようになって消えていく。


「これは幻影......!?」


「そ、正確には『実像幻影』って言うらしいけどね」


 カイは素早くゴーレムの腕を足場にして思いっきり跳躍する。

 隙間からゴーレムの核へ銃口を向けると剣に一言アドバイス。


「警察からのアドバイス。

 気をつけな、おっさんが言うことは大抵適当で甘い毒だから。下手に信じると痛い目見るよ」


 カイは引き金を引いた。

 その瞬間、放たれた銃弾は盾で防ぐゴーレムの僅かな隙間から刺し込んでいき、核に風穴を開けるように貫通していった。


 直後、ゴーレムの瞳から光が消えて、突如風化したようにボロボロになって崩れていく。

 そんな光景を見ながらカイは着地。


「ぐっ!? あ、ちょっと捻ったかも」


「締まらない人ですね。何しょーもないダメージの食らい方してるんですか、マスター」


「いや~。寄る年波にはやっぱ勝てない......って、マスター?」


 カイは思わず変わった呼び方に思わず聞き返す。

 すると、剣は改めて敗北を認めるように告げた。


「私の名は【シルベルク】。反魔を司る魔剣です。

 どうかこれからよろしくお願いしますね、マイマスター」

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