第30話 これってもしや、お泊まり会!

 ざわつく教室。そんなクラスメートたちをなだめると、担任のルークが口を開いた。


「いま言った通りだ。このクラスの生徒は近い将来に領地運営をまさかされることになるだろう。そのため領地運営を学ぶための基礎として、全員が課外活動に参加しなければならない」


 課外活動!? そんな話、見たことも、聞いたことも、読んだこともないぞ。一体何をするのだろうか。そこにイザベラが参加してもいいのだろうか。


「先生、課外活動って、具体的には何をするんですか?」


 クラスメートの一人が手を上げて言った。良い質問ですね。みんなそう思っていたのか、ルークに注目が集まった。


「最初の課外活動は、実際に領地に行ってどのように領地運営が行われているのかを見学させてもらう。どの領地に行くのかはすでに決まっている。王族が管理している領地だ。安全性はしっかりと確保されているので、安心して欲しい」


 なるほど、確かに王族の領地管理がどのようになされているのかを見学することができれば、将来自分の領地でも役に立つポイントがたくさんあることだろう。見学して損することはなさそうだ。


 しかし、王族の領地ってどこにあるのかしら? 地理的な勉強も一切してこなかったのでどこにあるのか分からないわ。でもきっと、王都の近くにあるのよね?


「先生、その領地はどこにあるのですか?」

「今回お世話になる領地はここだ」


 ルークが黒板の隣にある地図の、とある一点を指し示した。

 ……結構遠くね? 日帰りは難しそうな距離なんだけど。もしかして「ワープ」の魔法なんかがあるのかしら?

 ゲーム内ではカーソルで選択することでどこにでも瞬時に移動できたから、あってもおかしくないのよね。そんな魔法聞いたことないけど。


 指し示しめされた領地までが遠いことに気がついた生徒は、私だけではなかったようである。後ろの方からは、「遠くないか?」との声も上がっている。

 それを確認したのか、ルークが説明を始めた。


「今回の領地運営の課外活動は一週間ほどの泊まり込みで行う。すでにあちらでは我々を迎える準備はできているので、何も問題はないぞ」


 え、これってもしや、お泊まり会! 自然教室やスキー研修、修学旅行のようなお泊まり会ではないか。素晴らしい。友達とみんなで旅館に泊まるの、実は憧れていたのよね。

 まさか私の念願がかなうだなんて、神様ありがとう!


 そう思ったのは私だけではなかったらしく、再び教室内のボルテージが上がった。みんなそれぞれ歓声を上げている。うんうん、やっぱりみんなもお泊まり会したいわよね。

 私がガッツポーズをしていると、それに気がついたのか、フィル王子がささやいてきた。


「イザベラが喜んでくれたみたいで良かったよ。でも、イザベラが言った通りだったね。みんなもすごく喜んでいるよ。お泊まり会がこんなに大盛況なら、今後の学園の行事として取り込んでもいいかも知れないね」


 フィル王子は私を見ながら王子スマイルを放った。普段なら「うおっ、まぶしっ!」ってなるところなのだが、いまはそんな状況ではない。

 もしかしてこの課外活動は、いつの日か私がフィル王子に言った「友達と一緒にお泊まり会がしたい」との発言を受けて、企画されたものなのではなかろうか。


 もしそうならば、ゲームにそんなイベントが出てくるわけがないわよね。何だか「今年から初めて作りました」みたいなニュアンスだったし。

 これはもしかしてだけど、また私、何かやらかしちゃいました? 全然そんなつもりはなかったんですけど!



 そんなわけで、我々はいま王族が運営している領地に向かって移動中だ。この国の王子だけでなく高位貴族の子弟が勢ぞろいしているため、大量の護衛を引き連れての移動である。

 正直、メッチャ目立つ。すれ違う人たちがみんな道をあけて、まるで大名行列のように「ハハー」ってなっていないか心配である。外が見えないようになっているので確認しようがないのではあるが。


 遠いと言っても、さすがにその日のうちには到着する距離であった。

 そりゃそうだよね。これで野営でもしようものなら、どれだけの物資を運ばないといけなくなるのか。

 領地に到着したのは夕暮れのちょっと前だったが、道中に魔物に襲われることも、野盗に襲われることもなく到着した。変なフラグが立っていなくて安心した。


「お待ちしておりました。この領地の運営を任されております、セバスティアンです」


 白髪交じりの初老の男性が挨拶すると、それに従ってセバスティアンの後方に並んでいた使用人たちが頭を下げた。

 セバスティアンはダンディズムあふれる人物だったが、これだけ身分の高い子供たちが集まると、非常に胃が痛いだろう。何か申し訳ないことをしてしまったな。あとで胃薬をプレゼントしておこう。


「部屋の準備は整っておりますので、まずは旅の疲れを癒やして下さいませ。晩餐の準備が整いましたら、呼びに参ります」


 セバスティアンがそう言うと、再び使用人たちがそろった礼をとった。……うん、これは使用人たちにも胃薬を持って行ってあげよう。

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