第11話 動き出す運命の歯車
その後も色々と頑張ったが、やっぱりランドール公爵家の財政破綻は無理でした。てへっ。
それどころか、お母様が手腕を発揮し始めて、みるみる財政状況が良くなっていくランドール公爵家。どうやら領地を治めているジョナサンを、曾祖父の養子として強引に縁組みして権力を持たせたらしい。って言うか、すでにお亡くなりになっているのにどうやって縁組みしたことやら。お母様に聞くのが怖いわ。知らぬが仏。
ジョナサンに手紙を送ったら、「お嬢様のために頑張っております」という主旨の元気な手紙が届いたわ。これはもうダメね。終わったわ。
これではもう、公爵家が力を取り戻すことにあらがうことはできないだろう。
ランドール公爵家の破綻フラグを立てるのはあきらめる。でも決して逃げるわけではないわ。戦術的な撤退よ。私には他にもやるべきことがあるのだから。
そんなすったもんだがありながらも、私はようやく八歳の年齢に到達した。待っていたわ、このときを!
イザベラが八歳になってからが本当の勝負よ。これからイザベラだけでなく、攻略対象たちの運命が大きく動き出すのだ。
今までに関わることができた破滅フラグは、せいぜい「攻略対象のルークと険悪な関係になる」ことか、「ランドール公爵家を財政破綻に追い込む」かの二択しかなかった。
だが、これからは違う。
八歳になってからはルーク以外の攻略対象たちと関わることができるようになるのだ。素晴らしい、実に素晴らしい!
え? ルークとの関係は険悪になったのか、だって? なるわけないじゃん! 余計にシスコンをこじらせてるわよ!
ルークの部屋ではなく、「私も自分の部屋が欲しい」と言ったときのルークの顔を見せてあげたかったわ。あれはひどかった。百年の恋も冷めそうだったわ。
涙と鼻水でグジョグジョになった顔を私の服につけられそうになり、それを華麗に回避してお父様になすりつけたあの日のことを昨日のように思い出すわ。
こんなこともあろうかと、身代わりを隣に置いていて正解だったわ。
こうしてようやく自分の部屋をゲットしても、毎日のように私の部屋にやってくるルーク。意味ないじゃん……。
頭の中に残っている情報と、今の周囲の状態を一人で「破滅フラグ建築のためのマル秘ノート」に書き出したいのよ。そうでもしないと、破滅フラグを不死鳥のごとく再生できないわ。
それでなくても、すでにいくつかやらかしてると言うのに。これ以上は本当に良くない。運命の歯車がかみ合わなくなってしまうわ。それだけは阻止しなくては。だって、この世界の運命がかかっているのだものね。
兄であるルークを何とか追い払い、ようやく一人で机につくことができた。それではさっそく、攻略対象たちの情報を整理しよう。
まずは王道、ここギネス王国の王子様であるフィリップ・コーリー・ギネス。
フィリップの性格を一言で言うとヘタレ。国王陛下がものすごく優秀であるため良く比較される。そして悪いことに、フィリップは国王陛下ほど優秀ではないのだ。
もちろん、王としての素質がないわけではない。現在の国王陛下が完璧パーペキ超人すぎるのだ。さらに付け加えれば、国王陛下を支える家臣もどれもこれも優秀なのである。付け入るすきがないのだ。
ちなみに私のお父様も国王陛下を支える家臣の一人である。お父様が以前、友を見捨てるわけにはうんぬん、かんぬん言っていたが、実は支えてくれる友はたくさんいるのだ。
いつの日だったか、しびれを切らしたお母様が「あなたの代わりは国王陛下のそばにたくさんいるわ」と言ったら、ものすごい勢いでしょげかえっていた。
それからだ。お母様がお父様のことをあきらめて、ジョナサンを曾祖父の養子にするべく暗躍し始めたのは。結果としてランドール公爵領は持ち直したが、私としては大誤算だった。
話を戻そう。そんなわけで豆腐メンタルの弱々王子になったフィリップは、常に劣等感を抱いたままオドオドしながら生活を送っているはずだ。
うん。冷静に考えると、何だか、かわいそうになってきたわ。
お次はギネス王国騎士団の総隊長の子供、ユリウス・シャフラーネク。次期騎士団長として期待されているが、この子には大きな秘密が隠されている。
実はこの子、女の子なのだ。
うん。何を言っているか分からないよね。私も分からなくなってきたわ。見た目はりりしい騎士なので、好感度が高くなるまでは実は自分が女の子であるという秘密が明かされない。
このゲーム自体は男の攻略対象を落とすゲームなのだが、どうやら百合方面でも対応できるように設計したらしい。きっと需要があったからこそ、そのような対応をしたのだろう。
彼女、いや彼の正体を知っている私は、一体どんな顔をして彼に会えば良いのだろうか。だれか教えて欲しい。男の子として接する? それとも女の子として? いやいや、そこは男の娘かも知れないぞ。とにかく困った。
あとは、お城に使える宮廷魔術師の息子。父親は何とか宮廷魔術師になれるくらいのギリギリの能力しか持っていない。そしてそんな父親でも採用された理由は事務処理が非常に優秀だったからである。
そう。採用された理由は魔法の才能ではなく、事務処理の才能なのだ。よって、その息子であるローレンツ・クラネルトは出来損ないの息子として、いつも王宮でからかわれているのだ。
そしていつの日か、そいつらを見返してやろうと思っている、のだが。
何とこのローレンツ君も魔法の才能がないのだ。いや、あるにはあるのだ。ただし、他の魔法使いとは別ベクトルの魔法の才能なのだ。
諸君もお気づきだろう。このローレンツ君の得意な魔法は「身体強化」である。魔法で己の肉体を鋼に変えて、物理で殴るのが彼の戦いかたなのだ。
脳筋魔法使い。それが彼の二つ名である。ちなみに髪型は普通だ。パイナップルではない。
こう考えて見ると、色々とひどいゲームだな。それじゃ、なぜそんなゲームに人気があるのかと言うと、ダメなキャラクターが少しずつ育って、才能を発揮するところが人気になっているのである。
最終的には豆腐王子も、男装騎士も、脳筋魔法使いも、立派な国王、立派な騎士団長、立派な王国筆頭魔術師になるのだ。
そこがグッとくるポイント。一緒に努力をするその共感性が非常に人気があったのだ。
そうそう、忘れるところだった。あと一人、攻略対象がいるんだった。
それはヒロインの幼なじみの男の子。平民出身から、勇者にまで上り詰めるレオナール君。
彼はヒロインの家の隣に住んでいて、昔からヒロインとは仲良しの人物である。クセの強い王宮組とは違い、素直で良い子だ。もちろん、それゆえに人気も高かった。
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