第7話 可愛い妹、兄視点
僕の名前はルーク・ランドール。ランドール公爵家の長男だ。先日、僕には可愛い妹ができた。金色の髪に赤い瞳の、お母様にそっくりな可愛い妹だ。
妹のイザベラが産まれるまでは本当に大変だった。元々体が弱かったお母様にとって、この出産は命がけのものになる。そう使用人たちがヒソヒソと話しているのを何度も聞いた。それでもお母様はイザベラを産むと言い張った。
「私よりもイザベラを救って欲しい」
これが母親というものなのだろう。そしてついにお母様を溺愛するお父様も折れた。僕にはどうすることもできなかった。ただお母様と、産まれてくる妹の無事を祈ることしかできなかった。
そしてイザベラは産まれた。まるで心配事など最初から何もなかったかのように。
それだけではない。明らかにお母様の様子が変わっていた。以前の儚さは影を潜め、生命力のあふれる聖母に変貌していたのだ。
一体何があったのか。お父様もお母様も教えてくれなかった。どうしても気になり、その場に一緒にいたフランツに何度も聞いた。そうしてようやく、「イザベラお嬢様が体質を改善する魔法をランドール夫人に使ったようだ」という話を聞きだすことができた。
僕の可愛い妹は、お母様の命を救ってくれただけでなく、お母様を元気にしてくれた。
イザベラ、産まれてきてくれてありがとう。絶対に僕が君を守るから。
そのイザベラを膝の上に座らせ、僕は絵本を読み聞かせている。
ようやくハイハイすることができるようになり、少しの間ならイザベラを自由にすることができるようになった。まだ早いとお父様とお母様にはあきれられたが、イザベラの兄として、早く何かをしてあげたかった。
「こうしてお姫様は王子様と幸せに暮らすことになりました。おしまい」
「にーに、まほう。つかい、たーい!」
え? 今、にーにって……まさか僕のことを呼んだのか!?
イザベラが上目遣いで僕の顔を見上げた。あまりの可愛いしぐさに、頭とほっぺたをなで回した。それにしてもまほう? ひょっとしてイザベラは魔法に興味があるのか!
僕は早速、魔法が沢山出てくる絵本を持って来てもらい、イザベラに読み聞かせた。
イザベラはとても喜んで絵本を見ていた。
「ルーク、イザベラに魔法を教えてはいけません。イザベラが使ったらどうするのですか」
お母様に怒られた。どうやらイザベラが魔法を使うことを警戒しているようだ。
あのあと、フランツは妹が使ったと思われる「お母様の体質を改善させた魔法」を見つけることはできなかった。フランツはそれを「未知の魔法」だと話していた。恐らくそのことで、お母様はピリピリとしているのだろう。
「でもイザベラが「にーに、魔法」って言ったから……」
イザベラを喜ばせたい、その一心だったのに。
「何ですって?」
お母様が驚きの声を上げた。何で驚いているのか分からず、首をかしげた。
「今のお話をもっと詳しく聞かせて頂戴」
僕の話を聞いて、一気に距離を詰めてくるお母様。元気になったお母様の圧がすごい。僕は洗いざらいお母様に話すことになった。
僕の話を聞いたお母様は、そのままひょいと僕を小脇に抱えた。恐るべきパワーだ。こんな力がお母様にあったなんて信じられない。扇子よりも重いものを持ったことはないと思っていたのに。
お母様は使用人にお父様を執務室に連れて来るように言うと、自分はそのまま執務室へと向かって行った。
自分で歩けます、と言いたかったが、お母様にこのようなことをされたのは始めてだったので黙っておいた。こんな経験をすることはそうそうないだろう。この思い出を胸に刻み込んでおかないと。
執務室にたどり着くとすぐにお父様とフランツがやってきた。そして人払いをすると執務室を閉め切った。それを確認するとすぐに、お母様は先ほど僕が話した内容を改めてお父様とフランツに話した。
「まさかこんなに早く言葉を発するとは。さすがは私の天使イザベラ!」
「喜んでいる場合ではありませんわ。もしかしたら、すでに言葉を理解できているのかも知れないわね」
お母様が深刻そうな顔をしている。僕の「にーに、魔法発言」はどうやら良くない情報だったようだ。
「フランツ、イザベラが何かの言語を操る魔法を使っている可能性は?」
「その可能性は低いでしょう。なぜなら、言葉を話せるようになる魔法など存在しないはずですからね」
「ならばイザベラが元から持っている能力ということか。さすがは大賢者!」
「大賢者!?」
僕は驚きの声を上げた。イザベラは大賢者だったのか! それならこれまでのことが色々と納得できるぞ。
「オズワート。ルークが妙な勘違いをするから不用意な発言は止めなさい」
ピシャリとお母様が言うと、お父様はシュンと縮こまった。まるで怒られた子供のようだ。
……何だかお父様のこれまで持っていた厳格なイメージが壊れそうだ。
「まずは、本当にイザベラが言葉を理解しているかどうかをはっきりさせないといけないわね」
お母様は決意を込めた様子でそう言った。
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