第2話:魅了薬・セヴリーヌ視点

「ナルシス様、ナルシス様は本当によろしいのですか、あのような女で。

 ソランジュのような地味で平凡な美しくない女で、本当によろしいのですか。

 ナルシス様のような美貌と智謀を兼ね備えた方には、もっと相応しい令嬢がいるのではありませんか」


 ふっふっふっ、いくら智謀が優れているとはいってもしょせんは男。

 私の美貌と豊満な肢体を使えば、簡単にとりこにできるわ。

 父に厳しく言われたから、仕方なしに魔女に作らせた特別製の惚れ薬を使っているけれど、本当はそんなもの不要なのよ。

 私の艶めかしい姿態を見てとりこにならない男なんていないわ。


「ほう、どこにそのような魅力的な令嬢がおられるというのですか。

 愚かな者達は見た目の美醜に惑わせられるかもしれませんが私には効きませんよ。

 見た目の美醜など骨格と肉付きと皮だけの事です。

 まあ、顔の骨格と筋肉の使い方でその人の人となりが分かりますから、とても大切といえば大切ですが、その点でもソランジュ嬢のような素晴らしい令嬢は宝玉よりも貴重な存在で、滅多に出会える方ではありませんよ。

 それに比べて社交界でもてはやされている令嬢達のなんと醜い事か。

 皮の形は多くの公子に好まれるのかもしれませんが、その人となりの醜さといったら、醜悪過ぎて吐き気を催すほどですよ」


 おのれ、おのれ、おのれナルシス。

 私の事を醜悪と言ったな。

 ソランジュよりも醜いとぬかしたな。

 許さない、絶対に許さない、必ず私のとりこにしてやる。

 私がいなければ生きていけないくらいとりこにした後で振ってやる


 こんなモノには頼りたくなかったが、仕方がないわね。

 遠き異国で邪神に仕える巫女頭が創り出したという秘薬。

 どんなモノでも、異種族であろうと同性であろうと魅了してしまうという秘薬。

 魅了薬を使ってでも私のとりこにしてやるわ、ナルシス。

 その時のナルシスの間抜け面を見るのが今から楽しみよ。


 ただ問題はどうやってナルシスだけに嗅がせるかですわ。

 飲ませるよりは香として炊いて嗅がせる方が簡単ですが、今急に香を焚き始めるのはおかしいですし、私も事前に別の薬を飲んでおかないといけません。

 私がナルシスに魅了されてしまっては全く意味がありません。

 ナルシスが私に魅了されなければいけないのです。

 そのためには私が事前に薬を飲んだ状態で、ナルシスに香を嗅がせなければいけないのです。


「ナルシス様の気高い心に感服いたしました。

 私は急いで支度をして男爵領に戻らなければいけませんが、今一度グラスを傾けてナルシス様の貴重なお話を聞かせていただきたく思います。

 どうかお時間を作って頂けないでしょうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る