第4話 花粉の功名

――やはり、天は俺の味方だ。

――何か、仕組まれているんじゃないの?


ミツと花は、ネット越しに見つめ合い、それぞれこう思った。


 入学式の翌日、花は菜花とバレー部の見学に体育館に来た。そこでは男子バレー部と女子バレー部が体育館をネットで半分に仕切って、練習をしている。ミツはトモと一緒に、既にコートに入ってプレーしていた。


「花ちゃん!花ちゃんも、バレー部入るの?」

「うん、そのつもり。今日は見学だけだけど…ミツ君は、もう普通に部活やってるみたいだね」

「俺、中学からやってて、先輩たちも知り合いだから。昨日入部届も出してきたよー」

「ミツ君、久しぶりっ。花と同じクラスなんだって?」

 菜花が割って入る。

「あ、菜花ちゃん、合宿ぶりー!あっちにトモもいるよ」

「あは、植林の4人揃ったねー!これから部活でもよろしくね!」


 花も菜花も、見学だけといえど、バレー部に入ることはほぼ決めている。厳しすぎることもなく、だらけているわけでもなく、ちょうど良いという言葉がちょうど良いくらいの雰囲気が、気に入った。


「ね、今から俺かっこよくスパイク決めるからさ、ちょっと見ててよ」

 ミツが突然宣言し、コートに戻っていった。

「ひゅー。自分から言っちゃうなんて、ミツ君やるぅ」


 ゲーム練習は、先輩チームと新入生チームで行っているようだ。先輩がサーブを打ち、新入生側がレシーブ。トモがトスを上げる時、ミツの目つきが急に変わった。ボールを鋭く見つめ、キュッと音を鳴らして踏み込み、跳躍する。振りかぶり、バシッと綺麗な音を鳴らして、ボールは鋭角に相手側のコートに向かう。


 ほんの一瞬の出来事だったが、花はまるでスローモーションを見ているようだった。

(これは、ズルい…)

 

 だが、ボールが相手コートに落ちる直前、ミツの空中姿勢が崩れた。と同時に「べぶしっ!!」とまたくしゃみの音が聞こえ、ビターンと大きな音を立ててミツが倒れた。

「おいおい、大丈夫かよ」

トモが駆け寄る。ミツはすぐに体勢を立て直し、平気なことを伝えた。

 ぽかんと口を開けてしまっていた花と菜花に、ミツが振り返る。親指を立て、さも「どうだカッコよかったろ?」とでも言いたげだが、鼻の両穴から、鼻水がだらりと垂れていた。


「ふ、ふふっ」

花は堪えきれず、思わず笑いが口をついて出てしまった。

近寄り、ポケットからティッシュを出して渡す。


「なんか、いつも肝心なところでくしゃみしてるね」


 ミツは、花から差し出されたティッシュを受け取る手を伸ばしかけ、停止した。固まってしまったというべきか。


(おおおおおおお。花ちゃんが笑顔向けてくれたのって、初めてじゃね?

 やばいな、これは。気になる女の子が笑ってくれるって、こんな嬉しいことなのか?)


「ミツ君?」

花の言葉で我に返り、急いでティッシュを受け取った。

花と菜花が女子バレー部の方へ去った後、ミツは小躍りしてトモの肩に腕を掛け、コートへ戻った。


「トモ。俺は花粉に感謝しているぞ」

「なんだよそれ、きめぇな」


 ――何とでも言え。俺の風向きは上々だ。

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