第2話 グダぐだ男のレベルアップ!
俺は、地方の都市で生まれた。
年頃になった俺は、下級賢者養成国立大学に入学していた。
賢者養成大学なのになぜ勇者? それにも理由があるのだが、今は、それを語るときではない。
男兄弟だったせいか、下級賢者養成国立大学まで、ろくに女性と話をすることができなかった。
まぁ、女の人だけと言うより、人と話すの事全般が苦手だったのだが。
そのなかでも特に女の人に対しては、何を話せばいいのかまるで分らなかったのだ。
話そうとした瞬間、顔が赤面し、どもってしまう。
そう、俺は、まぎれもなくむっつりスケベだ! 文句あるか!
だが、別にエッチなことを考えているわけではないから、勘違いだけはしないでほしい。
本当に何を話していいのか分からないだけなのだ。
なら、天気の事とかでいいじゃなぁい?
って、アホか! 大学の教室で隣に座った女の子に、今日は天気はいいですね。などと、引きつったオークのような笑顔で話しかければ、即、不審者扱いじゃい!
ならば、教科書みせて? 消しゴム貸して? はいかがなものか?
確かに、やろうとしたことはある……だが、先にも書いたように、この当時は、常時発動系スキルである臭い息やかぐわしき体臭がダメージを与えてしまうのではないのではなかろうかと、勝手に思い込んでいたのであった。
まぁ、初級冒険者養成小学校の時に、女子たちから言われた「グダぐだ男君って臭いよね!」が、いまだにトラウマなのだ。
今にして思うと、小学生女子の言葉は、鋼のナイフのように、幼い男心を、これでもかと言うぐらいグサグサとえぐる。
特に、何も言い返せない男子だと、格好の餌食。
臭い! 汚い! スライム野郎! なんて、まだ序の口。
俺が女の子の持つアイテムケースに触ろうものなら、この世の終わりのように泣き叫ぶ。
ぞろぞろと仲間が集まって、何やかんやの袋叩き。
ついには終わりの会で、さらしもの。
俺が一体なにしたねん……
今の俺なら、気にせずに、そのアイテムケースに鼻くそでもこすりつけてやるが、当時の俺はうぶだった。
先生に怒られるも、うつむき何も発せない。
何をしたのか分かっているのかと、先生の怒鳴り声だけが教室に響く。
何をしたかなんて、分からない。
ただ、アイテムケースを触ろうとしただけなのに……
でも、自分がきっと悪かったんだと……自分で自分を責め続けた。
そんなことが繰り返し起こると、自然と誰とも話さなくなっていく。
そして、誰にも近づかないようになっていた。
昼ごはんも、さっさと一人で食べて、机で寝たふり。することのない休み時間をなんとかして潰す。
冒険者養成学校中等部の時なんて、一日、誰とも話さないことの方が普通だった。
おかげで、少し話しただけでも、ほほの肉が痛くなったのを覚えている。
まぁ、そんな幼い時のトラウマから、人と話すことが苦手になった俺である。
そんな俺が、下級賢者養成国立大学の途中で急にバイクを買おうと思いついたのだ。
バイクとは、知らない人がいるかもしれないから説明するが、陸上を走る高速の移動ツールの事である。馬よりも早く、力強いため、こちらの方が好まれるのである。道にウンコもしないしね……あれは、片付けが大変だから。
ただし、このバイクを乗りこなすには二輪乗車スキルを習得しないとダメなのだ。このスキルがない状態で、乗ったりすると、この国の警備兵たちに捕まえられて、多額の金を没収されてしまうのである。下手したら、職業スキルに前科者が追加される場合もあるため注意が必要だ。
だが、俺はその二輪乗車スキルを何とか習得したのである。
そう、バイクに乗れば、女の子にモテると思ったその一念で!
ツアラータイプのバイクなんぞに二ケツして、草原なんか走れば、気持ちいいかも……
後ろにのる彼女の胸が背中なんぞに押し付けられれば、ウヒヒヒヒ……
だが、貧乏学生の俺には金がないのである。
その時、アルバイトしたのが、ガソリンスタンドの給油の仕事だった。
時給が結構よかったんだよね。当時、深夜なんか働けば、一時間、千円超えてたもんね。ちなみに円というのはこの世界の通貨単位の事である。聞いたことがあるって? それはきっと気のせいだろう。
今とは違って、お店の人が、給油する時代の話。
えっ、今でもお店の人が給油しているところ残っているって……たぶん、その内、ガソリンスタンドそのものが、新進気鋭の電気式ロボット兵団によって駆逐されるって!
だが、ガソリンスタンドで働いてみると、困った! 困った!
当然だが、お店にくるお客さんと話さないといけないのだ。
しかも、周りのバイト仲間はヤンキーばかり……
マジかぁ……
入った初日で、やめようかなと思ったことは、いまでも覚えている。
ちなみに、この世界のヤンキーとは、やんちゃなモンキーのように、ちょっとお勉強が嫌いな人たちの事である。
職業はフリーターが多く。
特殊スキル、早婚、子だくさんを持っていたりするから、うらやましい。
また、なぜかイケメン、美女が多かったりもする。俺の周りだけ、たまたまなのかもしれないが、実に、不思議だ。
だが、所長さんや、夜勤の担当責任者のおじちゃんは凄くいい人だった。
そんなに、難しくないから、できることからやっていけばいいよ。
おじちゃんは言ってくれた。
そう、困っている俺を気遣うかのように声をかけてくれたのだ。
「何を話せばいいですか?」
分からない俺は、ココから聞いた。
「うん? 最初は、いらっしゃいませ! だろ。次は、レギュラーですか? ハイオクですか? って聞いて。最後に 満タンでよろしいですか? って聞くだけ。なっ! 簡単だろ!」
確かに、その3つなら、俺でも聞けそうだ。
だが、最後に難題を突き付けられた。
「でも、大きな声で言えよ! 小さいと何言っているか分からないからな!」
――なんですと!
大声でって、言葉を発するだけでも、気合がいるのに、更に大声とは……
そんな俺を、心配したのか、気遣ったのか、はたまた、単におちょくっただけなのか、所長は俺にノルマを課したのだ。
まず、バイトに来たら、道路に向かって、さっきの言葉を5回叫べ。ただし、車の騒音に負けないような大きな声で!と。
この車なる物、バイクと同じ移動ツールなのであるが、荷物が運べる能力を有しているため、バイクよりもその数がかなり多いのである。最近は電気式ロボット兵団が台頭してきたため、ガソリン式の自動車は数を減らしているが、当時は、ガソリン車が主流であったのだ。
その課せられたノルマに、素直な俺は、従いましたよ。
まぁ、人に向かって話すわけではないですからね。
車が行き交う道路に向かって、怒鳴るだけ。
こりゃ簡単!
タダね……それをやっていると、後ろのヤンキーたちが笑うんですよ……
恥ずかしいったらありゃしない。
でも、バイクを買うためには、働かにゃぁならぬ。
女の子をバイクに乗せて、そのままホテルへレッツゴー!
俺の頭の中のピンクの夢に向かって、頑張って叫び続けましたよ。
てれれれってんてー!
童貞賢者見習いグダぐだ
どこかで聞き覚えがあるような音がしたような、しなかったような。
「お前、だんだん声大きくなってきたな」
たまにガソリンスタンドに顔を出す所長がほめてくれた。
タダね。その時は、なんかほめられた気がしなかったですよね。
だって……所長、女づれで、バツが悪そうだったし……
しばらくすると、笑っていたヤンキーたちも一緒に道路に向かって叫び出した。
どうやら女連れの所長をからかったようなのだ。
お前たちも、アイツを見習って、声を出せ!
まぁ、しかし、所長も常にいるわけではないので、ヤンキーたちはとりあえず形だけ。
それでも、一緒に声を張り上げてましたよ。
てれれれってんてー!
童貞賢者見習いグダぐだ
おかげで、お客さんに対して、声を出すのが、そんなに苦しくなくなっていた。
ただ、イレギュラーなことが起こると、対応できません。
例えば、オイル交換とか、パンク修理とか……
そんな時、頼りになるのがヤンキーたち。
自動車整備2級スキルなど持っていたりするのである、本当に人は見かけによらない。
「なんすかぁ。オイル交換ね。ハイハイ」
と、だらだらながらも、きちんと仕事をこなしていた。
俺も、イレギュラーなことが起こるたびに、ヤンキーたちに丸投げした。
だって、車のボンネットの開け方すら知らんのだから。仕方ないじゃない!
【グダぐだ
大声を出そう!
自分の夢や、目標を叫ぶとなお良し!
ただし、家の中でやると、異常者確定なので要注意!
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