童貞スキルが無双すぎて初デートの女神さまがマジでキレてしまったのだが、なぜか、もう一度デートの約束を迫ってくる、だが遅い! もう俺は童貞じゃありませ~ん!

ぺんぺん草のすけ

第1話 童貞勇者の初デート、難易度レベルS級クラス(当社比)

 おい! 童貞ども!

 その大事な童貞を頑張って死守し続けても、魔法なんて全然使えないぞ!

 知ってるか!


 俺は、35歳まで童貞だった。

 ドラクエのニフラムぐらいは、使えたような気がしたが、おそらく、それも気のせいだろう。

 どちらかと言うと、魔法より、臭い息などの特殊技が得意だったような気がする。

 そう! 全部過去形だ!


 35歳の時、俺は、異世界転移したのだ。

 そう、初めてできた彼女もとい女神さまと、ついに結婚したのだ!

 そして、俺は新婚生活と言う名の新世界に、異世界転移!

 凄いだろ!


 えっ……そこのあなた……読むのやめちゃうの……

 人の幸せ話など興味がない……

 あら、そんなぁ……つれないなぁ……

 まぁ、のろけ半分と言いたいところであるが、既に結婚生活は10数年……

 あの時の甘い生活など、遠い記憶の片隅にしか残ってないわい!

 男なんてそんなもの!(だと思う……)

 って、別に妻の事、嫌いになってないからね!

 ただ、時と言うのは恐ろしい……

 あの可愛かった女の子が……ううん、何でもない! こっちの事だから、気にしないで。

 だからね……のろけなんて……しようと思ってないから……

 ちょっとだけでも読んでかない?


 さて、話を戻そう!


 35歳まで童貞勇者だったくせに、どうやって異世界転移をしたのかって?

 それを話せば長くなるのだがいいだろうか?

 ダメ?

 あっ、そうですか……

 勇者覚醒の話でもしようと思ったのだが、とりあえず、女神さまとの思い出から話す事にしよう。


 そうだな、まずは、女神さまとの初デートの話でもしようか。


 忘れもしない十数年前。大きなホールで行われた歌舞伎見学の事である。

 なぜ歌舞伎? しらない! だって、それは、女神さまのチョイス。

 大理石の床に、女性用の下駄の音が心地よく響いてきた。

 待ち合わせに現れた彼女は赤い花柄をあしらった振袖の和服姿。その雰囲気は、そんのそこらの化繊の着物とはちがった、落ち着きと存在感を持っていた。

 周囲の目が、女神さまに集まっているのが分かるぐらい、結構似合っている。


 それに比べて、童貞勇者の俺、いや、この時はすでに覚醒済みであったが、今は、それを話すときではない、その話は別の機会にすることにしよう。その俺の装備は、白地のパーカーに、ジーパン。

 どう見ても、女神さまとは釣り合わない。

 なめてるのか! などと貴女の方々のお叱りを受けるかもしれないのだが、これでも、俺なりにおしゃれは頑張ったつもりなのだ。

 なにせ、前の晩に、しまむらのような激安洋服店の道具屋に飛び込んで、親身になってくれるおばちゃん店員とあーでもないこーでもないと小一時間、相談しながら購入した一品だ。

 だが、試着をしてなかったせいか、少々ダブつくのは、この際、気にしない。

 そのせいで、靴は買いに走る時間が無くて用意できなかった。

 だから、泥にまみれたスニーカー。

 だが、ものは考えよう、これはこれで、履きなれて、歩きやすいからエスコートもばっちりだ。


 並んで歩くこの二人、はたから見ると、どう見てもお嬢様と付き人。

 いや、お嬢様に付きまとうニートと言ったところだろう。

 観覧席についた俺の手はそわそわ。

 飲み物に行ったり、膝の上に戻ったり、はたまた、隣にいる彼女のもとへと伸ばそうかどうしようかと悩んでみたり。

 だが、歌舞伎が始まった後のことは覚えていない。

 歌舞伎って、伝統芸能ですから。

 いつの間にか僕ちゃん夢の中。

 だって、昨日の晩、緊張しすぎて一睡もできてなかったですから。仕方ない。


 さて、歌舞伎の後は、待ちに待ったお食事タイムである。

 俺は女神さまに聞いた。

「イタリアンにする? 中華にする? 寿司にする?」

 そう、女性に選択肢を与えるのである。デート本に書いてあったのだ。

 女神さまは答えた。

「じゃぁ、イタリアンで……」

 よっしゃぁ! 俺の得意分野!


 と言うことで、タクシーで俺が通っていた大学近くの定食屋さんにレッツゴー!

 ココは、大盛りナポリタンが有名なところなのだ。

 タクシーを降り、店をながめた女神さまの顔が引きつった……なぜ?

 うーん、女神さまだけでなく、これを読まれている貴女の方の拳が震えているような気がするのは、気のせいだろうか?

 だが、この時点の俺の人生で、女神さまに絶対においしいって言ってもらえる店を自分なりに探した結果なのだ。なにせ、日頃から通っているのは、こういう店しかないのだから仕方ない!


「ここ俺の一番のおすすめ!」

 まぁ、いい、気を取り直して店のドアを勢いよく開けた。

 中でナポリタンをほお張っていた学生たちの目が、和服姿の女神さまに集まった。

 むさい男どもが口からスパゲティが垂れている。

 どう見ても和服が場違いなのである。

 そうココはイタリアン! 和服姿ではTPOをわきまえていないのだ!

 しかし、店の中は、学生どもで座るところがなかった。

「一杯だね……」

 女神さまはホッとするかのようにつぶやいた。

 本当に、こういう時に限って、学生でいっぱいなのだ。

 お前ら、少しは高い店で昼飯食えよ! この貧乏学生どもが!


「じゃぁ、中華にする?」

「でも、ココから遠いんじゃないの?」

「大丈夫! 大丈夫! 隣だから!」


 そう、定食屋さんの隣には、いきつけのラーメン屋さんがあるのだ。

 ココのとんこつラーメンは絶品なのである。

 是非、一緒に食べたい一品だ。

「いや、私、今日、着物だから……」

 そうか、ラーメン屋さんは中華! 和服姿ではTPOをわきまえていない!

 残念!

「なら、寿しにする?」

 女神さまは、あきれた目で俺を見ていた。

「もしかして、回っているところ?」

「そう、ダメかな?」

「ごめんなさい。ちょっとそんな気分じゃなくて」

 和服姿といえば寿し! それが気分じゃない!

 なぜだぁ! 


 一応、俺の名誉のために言っておくが、俺が行こうとした店は、確かに寿しが回っている。だが、チェーン店のような冷凍ネタの店ではないぞ!

 地元のすし屋が、回る寿しに客を取られて仕方なく始めた店なのだ。

 だから、すしネタも、その日とれた地魚が多い。

 そのため、魚のあらでつくったお味噌汁と煮つけ、骨のてんぷらは格安で超絶品!

 お値段もお皿の色で決まっていて、すしや特有の時価などと言う訳の分からない価格設定ではないのだ。

 もう、めちゃめちゃ良心的! だから、結構人気で、あらかじめ席の予約はできん上に客が良く来るため、食べるまでに長時間、待たないといけないのである。


 3つの選択肢すべてにつきつけられたNG!

 これは困った。

 これ以外の選択肢を考えていなかったのだ。

 さすがに、3つあれば、どれかは大丈夫だろうとたかをくくっていたが、全てダメ!

 かくなる上は……

「ちょっと早いけど、おしゃれなお酒が飲めるところはどうかな、食べる物もあるよ」

「じゃぁ、そこで」

 半ばあきらめたような表情で、女神さまはうなずいた。


 ついたところはビアホール。

 俺が頼んだのは

 中ジョッキ二つに、フライドチキンの盛り合わせ!

 女神さま……いっさい口をつけてくれませんでした。

 ココのチキン、マジでうまいのに……

 まぁ、理由は後で分かったのですが、その当時、全く意味が分かりませんでした。

 ちなみに、ココは俺が格好良くおごりましたよ!

 食事のときはスマートに男が支払うべし!

 これもデート本に書いてあったのだ。


 店を出た女神さまは、ついに自分の方から提案してきた。

「この近くにおしゃれなカフェがあるから行ってみない?」

 もう……この時点でこの初回デートと言う難関クエストの失敗を確信していた俺は、最後の望みをかけてついていくことにした。

 そこは、アンティーク調のカフェで、木目の床に飴色の小さなテーブルがいくつもおかれていた。

 店の中は女性客ばかり。

 そんな中に、パーカーを着たオッサンが入ってきたのである。

 女性たちの怪訝な目が俺に集中したのは言うまでもない。

 なんか、生きた心地がしなかった。

 テーブルに着くと、お店の女性がメニューを持ってやってきた。

 俺は、スマートに声をかける。

「ブレンド2つ!」

 俺! カッコいい!

 すかさず女神さまが口を出す。

「私! 珈琲飲めないから!」

 よほど頭に来ていたのだろうか、少々語尾が荒かった。

 それから、俺は一言も話さなかった。

 いや、話せなかったのだ……

 何を言っても空回り。

 何をやってもうまくいかない……

 デート本に書いてあった通りにやったのに……

 もうさっさと支払いを済ませて帰りたかった。

 でも、ココでも彼女が口を出す。

「さっきは、勇者君が支払たから、今度は私が出すね」

 って、さっき、あなたは何も食べていませんがな……


 店を出た俺は、挨拶もそこそこに、肩をすぼめて家路を急いだ。

 もうね、なんかね。寂しくて。

 デートなんか二度とするもんかって思っていましたよ。


 普通の人だったら、これでほぼ100%アウトでしょうね。


 しかし、ひと月後、女神さまから連絡がきたのです。

 もう一度、デートやり直しませんか?

 ってね。

 もう、驚きましたよ。

 完全に希望が失われたと思っていたのに、女神さまの方から連絡が来るなんて。

 まさに奇跡!


 一体、あのデートで何が俺を救ってくれたのだろう?

 後の女神さま曰く、それは、さりげない仕草だそうだ。

 一例をあげると、店のドアを開けて、女性を先に通すといったことらしい。

 そして、何よりも気になったのが、一生懸命さだったということだ。

 これを聞いた時、俺は、この人しかいないと思った。

 マジで!


 『次回予告! やめろ! ショッカー! それは、俺の好みの色ではない!』 

 初回デートに絶望した女神さま。

 提案された次のデートは、最初から終わりまで全て女神さまのプランニング!

 そして、その内容は、恐るべき俺の改造計画だった!

 この話は、そのうちどこかで、することにしよう……


 ちなみに、今回の話は、ほぼ真実である。

 だが、貴女の皆さま、俺をバカにするのは、よしてくれ。

 俺は、この後、女神さまの指導のもと、自分の街にあるおしゃれなレストランは一通り網羅した。それどころか、近郊の町々で遠征に出かける始末。

 そのため、俺のマナースキルは、格段に上達し、さらに女神さまお気に入りのエスコートができるようになっていたのだ。

 なっ! すごいだろ。


 だが、慣れとは怖いものである。

 女神さまとの異世界転移後の俺は、相変わらず、女神さまの気になるレストランにご一緒するのであるが、マナースキルの上達は、ピタリと止まってしまった。

 女神さまにフラれる可能性が少なくなったためなのかもしれないが、俺は、元の自分が出るようになっていたのだ。

 そう、フランス料理店で、平気で『箸』を頼むようになっていた。


 しかし、俺は、女神さまと付き合う少し前まで童貞だったし、顔もどちらかと言うと不細工の部類だ。

 なによりも、女性に対して話しかけるのは大の苦手だったのだ


 まずは、童貞勇者だった時の俺のことを話そう。


 追伸

 俺がセッティングした上記の4店舗については、異世界転移後、女神さまと訪れることになったが、かなりの高評価をいただいた。

 まぁ、味には自信があったので、驚きはしないがな!

 だから、別に喜んでなんかないからな! 絶対に!

 本当においしいね! って言われても、ちっともうれしくなんかないんだからな!



【グダぐだの今日のつぶやき】

 思いやる心は、人のためならず。

 それは、彼女に限らず、子供やお年寄りにも向けましょう!

 特に妊婦には優しくしましょう! ポイントかなりアップです!







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