支社会議室

 支社長の有馬、次長兼警備課長の図師、警備隊長兼警備員指導教育選任者の近藤の3人が顔を突き合わせている。


「本社が密かに人を寄越したそうだ」


 頭頂部が薄くなって、綽名が軍鶏と呼ばれる有馬が図師に語り掛ける。


「何、心配いりませんよ、相手は72歳の爺、適当にあしらって本社に送り返しますから」と端正な顔立ちの図師が答える。

「次長、大丈夫でしょうか、本当のことを話した方が良いのでは」と

大柄な体格に似ず小心者の近藤が怯えた目を図師に向ける。

「何を今さら、もう、み月も前のことだぞ。遺族が何と言おうと、皆が黙っていれば、事は何事もなく過ぎていくものさ、そうでしょ支社長」


 本社採用の図師は31歳、本来なら本社勤務だが将来の幹部候補生として地方で苦労させたほうが本人の為に良いだろうと、当時社長だった大同が3年前支社の次長兼警備課長に赴任させた。

 だが、何かと本社採用をひけらかす図師は間も無く定年を迎える有馬を見下し、今回の事案も当初有馬が適正に処置しようとしたが、自分の経歴に傷が付くと主張する図師に押し切られた。


「支社長、自見さんが見えました」と女子社員が会議室のドアをノックした。

 3人は自見を会議室に招き入れた。

「自見です、この度会長からのご指示で調査に参りました。宜しくお願いします」と挨拶すると、図師が

「私が次長の図師です、こちらが支社長、あれが近藤隊長」とぞんざいな態度で紹介した。

「会長自らのご指示だと言われたが、この件は三ヶ月前に報告済で、本社警務部からは事案は終了したと了解を受けていますよ、それを今更なんなのですか」と畳みかける図師を、

「ま、そうせかさないで下さい」

「順を追って説明しますから」と幾分喧嘩腰の図師を柔らかく受け止め自見は言葉を繋いだ。

「当初、本社は本人の自殺に依る退職との報告を受けました。痛ましいことですが、自殺が仕事上の悩みに依るもので、それはそれで会社として放置したことの道義的な責任を感じました。当然支社もそうですよね」

 と支社長に問いかけた。


 そう促す自見に

「当然です、私もこの近藤に仕事上の悩みを、もっと親身に相談に乗ってやれなかったのか、ときつく叱りました、なあそうだろう」とまたもや図師が遮る。

 自見は、幾分図師の小賢しさを腹の中で笑ったが、勿論そのことはおくびにも出さず会話を続けた。

「しかし、2日前匿名のメールが本社コンプライアンス課に届きました。自殺の原因が他にあることを示す内容だったことから、これを放置すれば会社として社員の働き方を改革していこうとする趣旨に反する。で、調査となりました」

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