不確かな存在

 気を抜くとすべてがもやに包まれ、そのまま崩れ去ってしまいそうな空間。儚くて不安定な世界……。そんな場所に流れ着いてしまった自分たちは何者なのか……。

 2つの存在はお互いのことは知っていても、自分たちの状態や記憶の真偽についてはよく分からないようでした。



 観覧車は少し気にはなっていました。少女は今現実の世界でどうしているのか。表の世界ではどのくらいの時間が過ぎたのか。しかし尋ねてみても彼女は「ここにいるときはよく思い出せない」と言うのです。


 もしかしたら、大人になった彼女が一時、過去を懐かしむ夢の中で観覧車に乗っているのかもしれません。


 しかしもしかしたら大人になれないまま亡くなったのかも……。あるいは天寿を全うしたあとなのか……。




「あなたが思い出せないのなら私にも分かりませんね。私は初めから生き物ではなかったのですから、今の状態が何なのかは分かりません。人間でいえば幽霊といったところでしょうが……」


「話せるんだから生きていたんじゃない? 観覧車の幽霊、珍しそうだね」


「物に魂が宿るかどうかはちょっと分かりません」


「他人事みたいに言うね」



 くるくる、くるくる……

 二人はとりとめなく話します。

 誰もいない場所に置き去りにされた時計のように。



「ねぇ、もしかしたらさ、地球は滅んだのかもしれないよ」


「そんな物騒なことを」


「だって分からないじゃん。分からないからそうかもしれない」


「じゃあここは何ですか」


「天国?」


「随分寂しい天国ですね」



 自分たちが存在していた世界が天変地異か何かで滅んだ……。

 ありえないような話ですが、まったくないとも言えません。なにしろ時間の感覚もないのですから。


 それに観覧車にとってはもう、自分がいなくなったあとの世界がどうなっていようと関係ないことでもありました。

 確かめる術もありません。



 少女と観覧車だけを乗せた、方舟のような時がゆっくりと流れてゆきます。

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