ここよりずっとたかいところ

月澄狸

二度目の夢

 これは霧か陽炎か……。ぼやける視界の中に大きな影がありました。


 人気のない、誰も通らない……忘れ去られた小道のような空間に、忘れ去られた大きなものが一つ。


 大きくても小さくても変わりはないのかもしれません。それは人目に付かない場所に無造作に捨てられた、ブラウン管テレビや冷蔵庫やパソコンや自転車のようでもありました。


 それでも物は誇りを持って、自らの姿を保ち続けるのです。いつか崩れ去り、原形をとどめなくなるその日まで……。



 誰もいない、ゴーストタウンか幻、幽霊船のような空間。しかし何かが存在することを表すように無機質な音が響き渡り、どこからか音楽も流れてきます。単調で、古めかしくて、温かいようなメロディー。


 そんな空間にひとつ、人間の影が現れました。

 その人はゆらりとあたりを見回し、何をするでもなく、しばらく立ち尽くしているのでした。




「また迷子ですか?」


 からかうようなくすくす笑いを含む音声が、頭上からアナウンスのように響きます。



 声の主は人影ではありません。人影は、声のする方をゆっくり見上げました。


 するとにわかにあたりの景色がハッキリとした形を現し始め、人影はツインテールの少女の姿となりました。小学5年生か6年生くらいでしょうか。お気に入りの服を着て、腰には小さなゲーム機を付けています。迷子になるほど幼くはない気もしますが……。



「迷子、かもね」

 ささやくように少女は答えました。

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