第89話「巨大な人型」

 その後も、いくつか会話を交わし、打合せは終了した。

 シモンは座っていた椅子から、ゆっくりと立ち上がる。


「さってと……じゃあ、早速視察を兼ね、村内を散策しよう。村長、案内をお願いしたい」


「かしこまりました」


 ここで「はいっ!」とエステルが手を挙げる。

 多少、疲れはあるようだが、気合がみなぎっており、目がらんらんと輝いている。


「局長の初仕事ですから、当然、秘書の私もお供致しますっ!」


「お、おう。そうか」


「はいっ! 疲れなど、局長の高位治癒魔法を施していただければっ、ノープロブレムですっ!」


「よっし、OK! じゃあエステルは一緒に行こう。イネス、バルテレミー、ジョゼフ、ペリーヌ、そしてジュリエッタ」


「「「「「はっ!」」」」」


「長旅だったからな。お前達は宿舎で休養しててくれ」


 休養!?

 シモンは自分の轍を踏ませない為、支援開発戦略局をダークサイドな職場にしない為……気を遣ったつもりである。

 しかし、エステル同様、やる気満々な局員達には、逆効果だったらしい。


「「「「「えええっ!?」」」」」


「疲れているんだろ? 無理をするな。ウチの局はダークサイドじゃないから」


 シモンの言葉に反応したのは、職員のバルテレミーである。


「で、でも局長」


「おう」


「局長自ら、休みなしで働くなど、ダークサイドを実践してるじゃないですか」


「あ、俺? 俺は全然平気だ、これくらい」


「半日馬に乗りっぱなしだったのに?」


「いやいや、だからだろ? 歩いたり、走ったりしてないし」


「いや……そ~いう、問題じゃあないかと。……局長って、完全に人間離れしてますって」


「はは、俺、全然疲れてないから」


 微笑むシモン。

 シモン自身、気付いていないが、これではかつてのコルボー商会研修時の教官バスチアンと同じである。


 今度は騎士ジュリエッタが叫ぶ。


「局長!」


「おう、何だい、ジュリエッタ」


「エステル殿に施す治癒魔法……私にもお願い出来ればと! 妹のアンヌ経由で、クラウディア様回復の話を聞き及んでおりますゆえ!」


「え? アンヌが妹?」


「はい! クラウディア様の警護役、アンヌ・エモニエは我が妹! 侍女のリゼットともに行使した治癒魔法の効果は抜群だったと……ですよね?」


 成る程……ジュリエッタはアンヌの妹。

 どうりで、彼女の顔に見覚えがあったわけだ。

 

 シモンは苦笑し、納得した。


「但し! 高位の治癒魔法ならば、魔力消費も相当なはず! 無理は申しません。この私ジュリエッタだけでも! エステル殿と一緒に同行させてくださいませっ!」


 ジュリエッタは、エステルに刺激されたのかやる気満々。

 しかし!

 イネス、バルテレミー、ジョゼフ、ペリーヌも次々と手を挙げる。


「私も治癒魔法お願いしますっ!」

「俺もっ!」

「俺もだっ!」

「私もお願いっ!」


「分かった、分かった。じゃあ全員へ治癒魔法をかけよう」


 ここでシモンの身を案じて、問いかけたのがエステルである。


「……局長、大丈夫ですか? 魔力量の方は? あまり使いすぎると」


「いや、全然大丈夫だから」


「……分かりました。それならばお願い致します」


「ほいっと!」


 無詠唱、神速。

 高位の治癒魔法、全快が局員全員へ発動。

 通常の術者ならば、間違いなく魔力切れ……

 しかし、シモンの魔力量は減った気配など皆無だ。

 

 エステル以外の局員は、驚愕の表情を見せたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 村長以下の案内で、シモン達は村内を見て回る。

 同行したイネス手配の作業員達も一緒だ。


 まずシモンは、治安の維持、向上をという事で……

 防護柵、つまり外柵を見て回る。


 先日、研修で来訪した時は、だいぶ破損しているという感想を持っただけ。

 具体的名施策思案にまで至らなかった。


 しかし、今回は対策を練って、赴いている。


「よし、視察だけと思ったが、早速仕事にとりかかろう。村長、現在の外柵から200m先へ新たな防護柵を作る。問題はないな?」


 シモンが村長へ問うと、


「200m!? も、問題はありませんが……拡張部分は荒地です。先ほどお聞きしたお話ですと、この荒地は農地へ転換されるのですよね?」


「ああ、そうだ」


「巨大な岩がごろごろしていますし、土中深く埋まっているものも多いです。開拓するには人手が……お連れになっている人数だけでは、全く足りないと思いますが」


「いや、全然大丈夫だ。俺がゴーレムを召喚するから」


「ゴ、ゴーレムぅ?」


「おいおい、村長。この前、ウチの上席が使っていただろう?」


「は、はい……でも」


 村長の懸念はもっともである。

 次官のリュシーが召喚したゴーレムは2体とはいえ、人間より一回り大きいくらい。

 

 だが……

 村長が指し示した大岩は高さが10mくらいもあった。

 他にも5m級の大岩がごろごろしていた。

 並のゴーレムでは、パワー不足。

 掘り起こすどころか、単に移動させるのも難儀するのは明白である。


 ここで進み出たのは魔法騎士のジュリエッタだ。


「局長、私の風魔法で打ち砕くか?」


「いや、それは最後の手段だ。大丈夫だよ」


 大丈夫とは?

 シモンの言葉の意味を誰も分からない。

 エステルでさえ、シモンのゴーレム召喚を目の当たりにした事がない。


召喚サモン


 シモンの魔法に例外はない。

 リュシーが30分ほどかけて召喚するゴーレムも、シモンは即座に呼び出す。


 短い言霊と神速の発動である。


 ごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!!!!!


 不気味な地鳴りと震動が辺りに響きわたる。


 まさか地震!?


 全員の心配は杞憂に終わった。

 そして驚いたのも無理はない。


「ぬぼっ!!!」と巨大な手が、そして同じく頭が、同じく胴体も……


「わああああああああああああっっ!?」


 土中から姿を現したのは……

 体長が20m以上ある超が付く巨大な……

 岩石製の人型ゴーレムだったのである。

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