第88話「第一歩!」
約3週間後……王宮、王国復興開拓省庁舎前。
万全ではないが、各課題において一応のめどがついた、支援開発戦略局。
まずは今後の施策へのひな型、実績を作る為……
ある日の早朝、シモン、エステル以下全員で『小村』へ出発する事となった。
このような場合、一行は大部隊となる。
支援物資、資材、個々の荷物等々、運搬物が多くなる為……
大規模な
しかし……
シモンが用意した馬車はたった『2台』なのである。
あとは護衛役を務めるシモンと魔法騎士ジュリエッタの『騎馬』のみだ。
ちなみに、シモンは表だって、乗馬が得意だと公言はしていない。
しかし前職において、出張先でたっぷり乗り込んでおり、巧みに御する事が出来る。
馬上のジュリエッタは微笑み、かたわらのシモンへ告げる。
「局長、貴方は強いだけでなく、馬の扱いも巧みだ。下手な騎士も逃げ出すほどにな」
「いやいや、剣同様に我流だし、大した事はないさ」
「……ふむ。それと改めてウチの一隊を見ると、今更だがなんという不可思議な」
「そうか?」
「ああ、本当に不可思議だ。本来ならば、様々な支援の品、おびただしい資材。運搬物資の量を考えれば巨大キャラバンというところが……たった馬車2台と馬が2頭。……大量の荷物は全て局長の魔法腕輪の中なのだな」
「ああ、今回必要な支援物資や資材はほとんど俺の腕輪に収納してある」
「ふふふ、呆れるという言葉は不適格か……局長、規格外の貴方にはいつも驚かされてばかりだ」
「ははは、驚かすとか、そんなつもりはまったくないけどな……じゃあ、そろそろ、出発しよう」
シモンの言葉を聞き、大きく頷いたジュリエッタ。
「はっ! 了解です、局長! ……ジョゼフ殿! 支援開発戦略局隊、出発するぞ」
シモンとジュリエッタは馬を促し、先導し進み始める。
「ういっす! 了解!」
馬車の御者役は、冒険者ギルドのサブマスター、ジョゼフである。
こちらの馬車にはエステル達局員が乗っている。
もう一台の御者は、ジョゼフが雇用した農民出身の冒険者だ。
こちらには冒険者数名と、建築の専門家イネス・アントワーヌが手配した土木作業員達が乗り込んでいた。
実際に馬を叩かず、ぴしり!と、音だけムチを鳴らすと……
馬車2台はゆっくりと動き出す。
小村までは半日と少しかかる。
王宮正門を出た一隊は……
先頭をシモン、最後方をジュリエッタの、馬車を守る護衛役ふたりが固めた。
やがて王都グラン・シャリオの正門を出た一行は、周囲を警戒しながら、小村へ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
道中、山賊や強盗の襲撃もなく……
シモン達一行は予定通り、小村へ到着した。
否、実は襲撃はあったのだ。
人間の山賊、さらに魔物の小群が、隙をついてシモン達を襲おうとし、街道ぞいの雑木林に潜んでいた。
だが、襲撃は未遂と終わった。
先導するシモンは、索敵でそれらの敵を察知したのだ。
そして『威圧のスキル』により、襲撃前にあっさりと追っ払っていたのである。
さてさて!
事前に魔法鳩便で連絡をしておいた事。
また、小村のやぐらに陣取る見張り役は、シモンの顔を憶えていた。
正門はすぐ開放され、村長とその腹心たちがすっ飛んで来た。
村民達も大勢集まって来る。
全員がもろてをあげ、感謝の笑みを浮かべている。
「女子と若造にはまったく期待しない」という感のあった、前回の研修時とはえらい違い、180度の変わりようである。
シモンは苦笑したが、概して人間とはこういうものだ。
「これはこれはシモン様。遠路はるばるようこそいらっしいました」
村長たちは、シモン一行を手配していた空き家2軒へ案内する。
シモン達が泊まる男子用、エステル達が泊まる女子用、ここが当面の宿舎となる。
打合せは村長宅で行う。
ひと息ついたシモン達は村長宅へ移動。
早速、打合せに入った。
村長は、改めてシモンへ『オーク討伐』の礼を述べた。
シモンは軽く一礼して応えると、『現状』を口頭で報告してもらう。
先に村長から提出された報告書で、状況は把握しているが、情報は生もの。
最新の情報を取得するに越した事はない。
村長によれば、
天候は良好で荒らされた耕作地は復旧しつつある。
オークどもが滅んだあと、外敵の脅威はなし。
という事だ。
「村長」
「は、はい! シ、シモン様」
「外敵の脅威がないうちに、村の外柵の新設を行う。早く、頑丈に、コスト安の3つを合言葉に、俺の部下に地の魔法を行使させる」
「はい! そうして貰えれば、助かります。村民達が安心して耕作地で作業出来ますから」
「うむ! 正門も頑丈なものに差し替えるぞ。それと後で行き違いのないよう、全ての工事には村民の誰かが立ち会うように。加えて耕作地も大幅に拡大する。灌漑も再整備した上、新農法も提案したいのだが」
「はい、シモン様。もろもろありがたい事です。確認の立ち合いは勿論ですが、工事の手が足りなければいくらでも村民を出します」
「助かる。但し、日々の業務に差し障りがあってはいけない。まずは4、5人で構わない。出来うる範囲内でOKだ」
「かしこまりました」
「それらの工事が終わったら、村道の拡張と整備工事にとりかかる」
「本当にありがとうございます。とても助かります」
「ははは、なんのなんの。それと食料を含めた救援物資もある。この打合せ後。すぐに配給しよう。他に難儀する事があれば、どんどん言って欲しい。全てを叶える事は出来ないが、対応可能なものならば、善処しよう」
「か、感謝致します! 何から何まで! あ、ありがたいっ!」
「うむ! 今回の支援復興策は、国王陛下は勿論、宰相マクシミリアン殿下とアレクサンドラ・ブランジェ伯爵のご尽力の賜物だ。村民達にも周知しておくように」
最後にシモンは自分達の後ろ盾となっている3人の名を出した。
王国民の信頼を深くし、愛国心を強固にする為である。
「「「「はは~っ!」」」」
恐れ入って深く頭を下げる村長と腹心達。
ベタな儀式だが、必要な事なのだ。
まずは、この小村で行う施策が俺の新たな仕事の第一歩。
シモンは大きく頷いていたのである。
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