第83話「支援開発戦略局正式発進!」
シモンの『武勇伝』で大いに盛り上がりながら……
支援開発戦略局のメンバーは渡された小村の資料に改めて目を通した。
局員達を見ながら、エステルが言う。
「では、局長から概要の説明があります。重複する部分はご容赦ください」
エステルの言葉が終わると、シモンは軽く息を吐いた。
事前に決めていた事がある。
ここから局員への『接し方』を変えるのだ。
「いいか、みんな。先ほどまでは『お客さん』として接していたが、正式発進したからには全員が俺の部下だ」
「…………………」
真剣なシモンの物言いに支援開発戦略局のオフィスは静まり返った。
シモンは更に話を続ける。
「上司風を吹かすわけではない。だがウチの局は遠慮なく『ざっくばらん』に行く。それゆえお前達もエステル同様、呼び捨てとする」
いろいろな悩んだが……
シモンは年上の局員達に対し、エステルと同じに扱うと決めたのである。
局員は全員が誇り高く、百戦錬磨のつわものだ。
臆していては、舐められてしまうと考えたのである。
でも、心配は
シモンの様々な武勇を認識していて、不快な顔をしたり、反論する者は誰も居ない。
安堵したシモンは小さく頷き、話を続ける。
「じゃあ、4つのテーマ、衣食住、そして武に関して考えて行くぞ。一度にすべてをクリアできるのが理想だが、こちらの事情、あちらの対応の問題もあるから、優先順位をつけて順次、遂行する」
「…………………」
「俺としては、武つまり治安、そして食のふたつにまずは重点を置き、やれる事から支援する事がベストだと思っている。具体的には、冒険者ギルドのサブマスター、ジョゼフ・オーバンの行使する『地』の魔法による土壁的防護柵の補強で外敵の脅威を軽減する」
「…………………」
「そして当省の農業専門家バルテレミー・コンスタンの監督指示による農地拡張と|灌漑《かんがい)。そして新たな農法の展開に注力したい。その上で住居の充実、農作業着の開発を進めたい。当然、いきなりは難しいだろうから、しばらくは食料を始め、生活物資の支援を行う。質問はあるかな?」
ここでジョゼフが勢い良く手を挙げる。
「はいっ!」
「よし、ジョゼフ。発言してくれ」
「はい! 現在小村には簡易な木製の防護柵があります。こちらを廃棄し、私が魔法で岩壁、もしくは土壁を築くという認識で宜しいですか」
「ああ、その認識で構わない。小村の周囲は雑木林に石ころだらけの原野だが、これを機に開拓して農地を一気に増やす。村の敷地内にある農地を拡大する。同時に灌漑工事も行いたい」
「りょ、了解です!」
「はい!」
次に手を挙げたのが、バルテレミーである。
シモンから発言を許可されると、真剣な表情で尋ねて来る。
「局長、農地開拓と灌漑工事に要する人手は? 相当な人数が必要だと思いますが、村民に協力して貰うのですか?」
「ああ、当然村民にも協力して貰う。だが、日々の通常作業もあるから、全ての村民に手を貸せというのは無理だ」
「では、土木作業員を雇いますか?」
「いや、支援物資の購入に予算を割きたい。だから今回は、基本的的には土木作業員を雇用しない」
「しかし、人手不足となるのでは?」
「大丈夫。俺の魔法で大型ゴーレムを呼び出し、土木作業をさせる」
「えええっ? ゴ、ゴーレムを? 局長も地の高位魔法を!?」
「ああ、リュシー次官にいろいろ指導を受け、先日習得したばかりだ。次官の2体召喚という域までは達していないが、1体は使えるようになった。今回の農地開拓、灌漑作業、後は道路工事にも使うつもりさ」
「「「おおおおおっ!」」」
歓声をあげる4名の局員。
しかし、エステルだけが不満そうである。
「局長」
「お、おう」
「プライベートはともかく、公務で新たな魔法を行使される場合は、事前に私へおっしゃってください」
「りょ、了解」
腕を組みシモンを軽くにらむエステル。
頭をかき、苦笑するシモン。
『竜殺しの英雄』アンドリューと引き分けるシモンも、美しい秘書には形なしなのである。
場の雰囲気は一気にほぐれ、柔らかくなった。
「はい!」
続いて、笑顔で手を挙げたのは建築の専門家イネス・アントワーヌだ。
シモンが発言を許可すると勢い込んで喋り出す。
「局長! 土木作業員を雇用しないとおっしゃいましたが、私は反対です。防護柵の仕上げ、村民の住宅の改修の為に最低限プロの手が必要だと思いますから」
「成る程。イネスのいう事にも一理ある。ならば、もろもろの見積もりを含めた計画書を作成し、俺へ提出してくれ」
「え? 計画書ですか?」
「おう! 今回、想定される工事の概要と伴う作業、必要な人員数だ。それと防護柵の方はジョゼフと相談するように」
「は、はい!」
「あとは、イネス」
「は、はいっ!」
「お前にはリーズナブルなコストで造れる、一般用住宅の提案も頼みたい。但しオーダーメイドの注文建築とはまったく違うものを、デザインを画一化して、大量に造れるよう考えてくれ」
「はい!」
「念の為、早かろう安かろうでは意味がない。頑丈で使い勝手の良いものじゃないとダメだ。まずはデザインラフが上がったら見せてくれ。全員で検討しよう」
「了解しましたっ! 頑張りますっ!」
「は、はいっ!」
ここで声を上げたのが、商業ギルドのサブマスター、ペリーヌ・オリオールだ。
他の局員に、負けてはいられないと感じたに違いない。
「きょ、局長! イネスさんの住宅と同じコンセプトで私は農作業着の開発に着手します」
「よし! そちらもデザイン画が上がったら全員で検討しよう」
「はい!」
しっかりとリーダーシップをとるシモンをエステルは頼もしそうに見つめていた。
そして自身も気合を入れ直すように、大きく頷いたのである。
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