第78話「ラクルテル公爵家のお招き⑧」

 身体強化魔法を行使し、更に闘気法も行使。

 能力を上乗せしたシモンの身体が、まばゆく輝いた。


 シモンから発する圧倒的な威圧感がアンドリューを襲う。


 アンドリューは、自分が『強者』ゆえに、同じ強者へひどく憧れる男なのだ。

 興奮したあまり、ぶるぶると武者震いし、声がとても上ずっている。


「お、おおおっ!! 我が秘奥義『闘気法』まで使いこなし、またもパワーアップしたのかっ!? す、す、素晴らしいぞっ!! シモン君!! いや、シモンと呼び捨てにするぞっ!!」


「はい、ちょっちパワーアップしました。呼び方もシモンでOKっす。」


「よし! いくぞおっ!」


「おうっ!」


 両者は全速でダッシュ。

 アンドリューは剣を振りかざし、シモンの胴を払おうとした。

 脇腹へ電撃の一刀を入れるつもりだ。

 今までに数え切れないほどの魔獣、魔物を屠って来た一撃必殺の剣である。


 対して、シモンはかわさず、まともに剣で受けた。


 どっごごごがががいいいいいいいんんんん!!!!

 バチバチバチバチバチっっっ!!!!!!!!!!


 凄まじく重い轟音と同時に激しく雷撃がスパークした。


 アンドリューの表情が変わる。

 シモンの膂力を感じ、そして攻撃をあっさり受け止められた事に驚いているようだ。


「ぬお! 俺の剣撃をまともに受けるとは!?」


「さすがです。……竜殺し」


 アンドリューの剣を受け止めながら、シモンの言葉には余裕があった。

 息も全然、乱れてはいない。

 それどころか、ほんのわずかだが、口元には笑みが浮かんでいる。

 

「くおっ! こしゃくなっ!」


 シモンの表情を見て、ギリギリと歯噛みしたアンドリュー。

 全力でシモンの剣をはねのけた。


「ぬぬぬ! なんの! まだまだっ!!」


 そして、悔しそうに叫ぶと、シモンに斬りかかったのである。 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 約20分が経過した。


 シモンとアンドリューの戦いは決着がつかない。

 一見、剣をふるうアンドリューが圧倒的にガンガン攻めたて、シモンが防戦一方に見える。


 完全に膠着状態こうちゃくじょうたいである。


 だが遂に、アンドリューがれた。


「うむっ! こうなったら剣など不要!! 力と力の真っ向勝負だっ! がっつり組もうではないかっ! 行くぞっ! シモン!」


「ういっす!」


 アンドリューは雷撃の模擬剣を投げ捨てる。

 それを見たシモンも剣を放り投げた。


 ふたりは、ほぼ同時にどんっ! と大地を蹴り、互いに猛ダッシュした。 

 がっしりと組み合う。


 「ぎちぎちぎち」と双方の筋肉が唸る。

 悲鳴をあげる。


 ぐばんっ!

 ぐばんっ!


 ふたりが組み合った場所。

 練武場の地面がへこみ、そのまま深く陥没した。


 まさにパワー対パワー。

 スタミナ対スタミナ。

 根競べとなる。

 魔法とスキルは加わってはいるが、正面からのぶつかり合いだ。


「おおお! 良いぞ良いぞ良いぞっ! こ、これこそが真の戦いだぁっ! そうだろう、シモン!」


「うっす!」


 それからまたも20分あまり、ふたりは組み合ったまま、にらみ合っていた。

 再び、膠着状態こうちゃくじょうたいである。

 

 しかし!

 いきなり決着はついた。


「ふんっ!」


 シモンが更に気合を入れると、アンドリューを突き放したのである。

 よろけたアンドリューは、鋭い視線でシモンをにらみつけた。


 殺気さえこもった視線でにらみつけるアンドリューへ、シモンはにっこり。

 姿勢を正すと、深く一礼した。


「ここまでです、公爵閣下。いずれ日を改めて、再戦をお願い致します」


「…………………」


 礼を尽くすシモン。

 だがアンドリューは答えない。

 言葉を発さず全くの無言であった。

 「不本意だ」という感情が垣間見える。


「…………………」


 対して、シモンも無言となる。

 こちらは無表情。

 感情を出していない。

 お互いに鋭く見据える視線が、空中で「ばちばち」と交錯した。


 周囲の観客、ブリジット、クラウディア。

 アレクサンドラとエステル。

 そして数多の騎士達は……

 どうなる事かと、じっと成り行きを見守っていた。


 10分ほど、双方の沈黙は続いていた。

 だが、今度先に声を発したのは、アンドリューである。

 何故か、納得したような表情で、何度か頷いていた。


「おう! シモン! またやろう!」


「ういっす!」


「大いに気に入ったぞ、シモン! お前の深謀遠慮。実に懐が広く深い男だ! ははははははははっ!」


「恐縮っす!」


 相変わらず、ひょうひょうとしたシモンが短く返事を戻した瞬間。


 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち!!!!

 わああああああああああああああああああああっ!!!!


 ラクルテル公爵家室内練武場は、大きな拍手と歓声に包まれたのである。

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