第51話「猛獣使い、再び!③」

「いえ、謝礼とか、対価を求めるとかではなく、当たり前の事をしただけですから……自分は特にそういう事は望みません」


 シモンの謙虚けんきょな言葉を聞き……

 アンドリューは納得したように「ほう」と息を吐く。

 

「ふむ、成る程……サーシャが言う通りだ。シモン君は奥ゆかしい……今どき珍しい青年だな」


「いえ、そんな。褒め過ぎですよ、閣下」


「ふむ、シモン君は、ふたりを悪党どもから助けてくれただけではないな」


「はあ」


「今のように、襲撃現場で高位の治癒魔法を神速で行使し、しっかりとケアもしてくれたらしいじゃないか」


「ええ、お嬢様とリゼットさんへ治癒魔法を使わせてもらいました」


「ふむ、君のお陰でふたりとも、襲われたショックのダメージがないどころか、以前にも増して元気だぞ」


「俺の魔法が上手く行って良かったです」


 ここでアレクサンドラから補足が入る。


「アンディ」


「うむ」


「シモン君はただ奥ゆかしいだけではありません。戦士としても、魔法使いとしても超一流。総合的にとんでもなく強いですよ」


「総合的に強いか……そうだろうな」


「はい、先日の『研修』でも、オークどもを圧倒手的な強さで掃討しましたから」


「おお、先ほどサーシャから聞いた話か! 上席ふたりが見届けたオーク100体の討伐だな」


「はい、最後はちょっと無茶したみたいですけど」


「ははは、とんでもない奴だ。単身でオークどもの巣穴へ突っ込むとはな」


「はい、もう少し命を大切にするよう、本人へは厳重に注意しておきました」


「ははははは、蛮勇かもしれん。だが、大した度胸だ」


「ええ、前職のシモン君は身元を秘して、辺境の王国民の為に尽くしながら、プロとして、しっかりと仕事もしていたんです」


「うむ、トレジャーハンターとしての実績も新人ながら、凄かったらしいな」


「ええ、新人ながら、単身で世界各地の遺跡や迷宮を探索し、毎月金貨1万枚以上という結構な売り上げを稼ぎ出していましたわ」


「ふむ……トレジャーハンターとして、超一流だっただけでなく、とんでもない強靭さも持ち合わせている。弱きを助け強きをくじく、真の騎士道精神も持っているな」


「ええ、シモン君はいろいろな分野において、知識も豊富。向学心もあり、研究熱心です。入省前に、私はシモン君の事は全部調べたつもりでした。けれど……私は彼が高位の治癒魔法を完璧に使いこなす事を認識しておりませんでした」


「ふうむ」


「アンディが今の魔法をご覧になってご理解されたように、未知の部分……底知れない能力を持っていますわ」


 アレクサンドラの言葉を聞き、アンドリューも同意する。


「ふむ……シモン君には単に娘たちの恩人という以上に興味がある。我が軍に、ぜひ欲しい人材だ」


「そこまで言います?」


「うむ、特別枠で王国騎士隊へ入隊させても構わん。ぜひ手元で鍛えてみたい」


 アンドリューは、そう言うとニヤリと笑った。

 一応、笑ってはいる。

 だが、ほころんでいるのは口元だけで、目が全く笑っていない。

 単なる冗談ではなさそうな雰囲気である。


 そんなアンドリューを見て、アレクサンドラは首を横に振った。


「まあアンディ、引き抜きとかは絶対に駄目ですよ! シモン君の事はマクシミリアン殿下もたいそうお気に入りとなったご様子でしたから」


「ほう! 殿下が? シモン君をたいそうお気に入りか……ふうむ……ますます興味深い」


 期待されるのは嬉しいけど……くすぐったい。

 それに騎士隊にスカウトとか、殿下に気に入られているとか……

 『話』がとんでもなく大きくなってないか?


 自分の事を熱く話すアレクサンドラとアンドリューのやりとりを聞き……

 シモンは複雑な気持ちであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 その後も……

 『シモンとアンドリューのやりとり』にアレクサンドラが補足説明する形で会話が進んだ。

 

 だんだん会話の口調も気安くなる。


「シモン君」


「はあ」


「君が撃退した悪漢どもだが……目撃者から聞き取りをした上で人相書きを作成、指名手配。衛兵隊に王都中を捜索させ、先日全員を逮捕した」


 やはり悪党へ天罰は下った。

 アンドリューは、愛娘から報告を聞き、麾下の衛兵隊を動かしたようだ。

 更なる犯罪への抑止になる事を思えば喜ばしい。


 『朗報』を聞き、シモンも笑顔になる。


「おお、あいつら全員、逮捕されましたか」


「ああ、相当抵抗したらしいが、確保したぞ」


「良かったっす。もうあいつらの悪さによる被害者は出ませんね」


「うむ、それで取り調べをしたところ、余罪が相当あるから死罪は免れん。出来る事なら、俺自らが、奴らのそっ首を叩き斬ってやりたいところだ」


 大事な愛娘が拉致されかけ、はずかしめをうける寸前だった。

 経過と顛末を聞いた時、アンドリューは激怒したに違いない。


 シモンは大きく頷いた。


「閣下のお気持ちはお察しします」


「ふむ、当時周囲には人がたくさん居たが、後難を怖れ、殆どが見て見ぬふりだっという。これは王国の法律にも大きな不備がある。俺は改正を上申する」


「それは大いに同意です。私見ですが、まず犯罪をしっかり抑止し、被害者が出ないようにする。結果的に加害者を甘やかすような法律では、絶対にいけないと思います」


「おお、シモン君も賛同してくれるか。もしもあの時、君が助けに動いてくれなかったらと思えばぞっとする。娘の人生はめちゃくちゃとなっていた」


「はい、本当に良かったです」


「ふむ、今や娘は元気になり、魔法と勉学にやる気満々だ」


 幸いというか、事件の後遺症もなく……

 クラウディアはやはり元気になったようだ。

 「雨降って地固まる」という状況に、シモンも嬉しい。


「はあ、それは喜ばしいですね」


「今、目の前で起こった出来事で確信した。どうやらウチの娘は君の存在を励みとしているようなのだ」


「はあ? お嬢様が俺を励みに? 何故俺が?」


 昨日まで……

 クラウディアは、平民の自分を卑しいと散々ののしり、思い切り足蹴あしげにする勢いだった。

 

 それが一変した!?

 態度が変わった??


 「全く不可解だ」とシモンは首を傾げたのである。

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