第35話「初出勤!④」
シモンが長官執務室へ飛び込んだのが、ちょうど9時であった。
けして遅刻ではない。
会議開始のギリギリセーフなのである。
だが、このような場合、余裕を持って時間前に現場に到着するシモンの主義には反する。
それに自分は一番下っ端だ。
最後に偉そうに「のこのこ」登場するのはいかがなものかと思う。
当然ながら、エステルのせいなどにはしない。
完全に自分の責任である。
シモンはただ平謝りだ。
「皆さん、すいませ~ん、ギリでしたぁ!」
しかしアレクサンドラ、リュシーは意外にもニコニコしていた。
「うふふ、王宮内の騎士達から、シモン君は7時30分過ぎには来ていたと聞いたわよ」
「ええ、私も職員から、定時よりも相当前にシモン君を見かけたって聞いたよ。凄く早く出勤して、お茶を飲みながら、本でも読んでたの?」
そして、レナは相変わらず。
勘も異常に鋭い。
ニヤッとシニカルに笑う。
「シモン君、新任秘書のエステルと盛り上がってたんじゃない?」
「いやいやいやいやいや! 違いますって!」
手をぶんぶん振るシモンのうろたえぶりを見て、図星だとアレクサンドラ、リュシーもニヤニヤ。
「うふふ、さっすがレナ、鋭いわね」
「ほんとほんと! シモン君はエステルが好み?」
「ええっと! そんな事より会議しましょうよ、会議。この後の9時30分から朝礼っすよね」
シモンの声に応えたのは、アレクサンドラである。
「了解! じゃあ、先日のオーク退治の報告を、感想を交えてシモン君にして貰おう。口頭でOKだし、簡単で構わないから」
来た来た、ビンゴぉ!!
ばっちり用意しておいて本当に良かったぁ!
これこそ、シモンが待っていた展開である。
リュシーも、レナも、シモンに報告を任せる事に異存はない。
シモンに対する『テスト』という意味合いもあるのだろう。
「賛成!」
「宜しく、シモン君」
「了解でっす! では今回のオーク討伐の報告、自分の感想、そして私見で恐縮ですが、問題点、改善点をとりまとめて報告させて頂きます」
シモンは3名へ作成しておいた紙に記載した資料を配布。
説明自体は身振り手振りを
念入りに作成しただけに報告は簡潔で理解しやすかった。
シモンが提示した問題点の洗い出しは的確であり、改善の提案も優れていた。
今後へ活かす事となる。
アレクサンドラ、リュシー、レナが喜んだのはいうまでもない。
こうして……
王国復興開拓省局長として、シモンは順調に?スタートを切ったのだが……
先日オーク討伐の際、シモンが質問し、リュシー、レナからはノーコメントと言われた疑問も解消した。
何故、管理職たるふたりのみが、わざわざ現場へ出張るのかと。
長官のアレクサンドラがリュシー、レナ、そしてシモンをスカウトはしたのは、大きな意味があった。
発足したばかりの王国復興開拓省には……
専門分野に特化したスペシャリストは徐々に、そして事務方も揃って来てはいる。
だがマネジメントと企画能力に優れ、現場経験をたっぷり積んだオールラウンダーが不足していたのだ。
つまり総合的な資質に優れた指導者が少ないという事実なのである。
ちなみに他省から異動した職員達は「事務方に長けた人間が殆ど」との事であった。
今回、異例ともいえる局長に
アレクサンドラはシモンに現場の統括を担う『局長としての役割』を伝え、リュシーとレナも同意した。
「以前にも言ったけど、シモン君も有能な人材が居たら、どしどしスカウトしてちょうだい。採用はこの場の全員で相談するから」
会議は終了した。
この後、2階総合大会議室………
9時30分から行われた朝礼において……
シモンは『新任の局長』として、全職員へしっかりと紹介された。
現在、王国復興開拓省の全職員は全200名余だ……
大いに緊張したが、アレクサンドラ、リュシー、レナ、そしてエステルと見知った顔があったので、少しだけ気持ちが落ち着いた。
シモンは何とか、挨拶を終える事が出来た。
若き新任局長シモンの紹介をメインにした朝礼が終わった後、解散となったが……
長官アレクサンドラと話をしていたリュシーがパッと手を挙げ、次官補のレナと局長のシモンを呼んだ。
レナとシモンが急いで駆けつければ、リュシーは言う。
「これから、幹部職員のみで打合せをしたいの。私とレナ、シモン君の3人で。長官のご指示よ」
「と、いう事で、後は宜しくね~」
笑顔のアレクサンドラは手を振りながら、引き揚げて行った。
「えっと、レナ、シモン君。これから1時間くらい大丈夫? 念の為、復唱すると、長官のご指示で、再び打合せをするわ。打合せ場所は私の部屋、次官室よ」
ちょっと考えた上でレナはOK。
シモンはレナが返事をした後、即、快諾し、ダッシュ。
少し離れた場所で待機していた秘書のエステルへ駆け寄り、引き続き、幹部会議だと告げた。
対して、エステルは優しく微笑む。
「了解致しました、局長。私は秘書ルームに居りますので、何か御用があれば、局長のお席にある魔導通話機でお呼びください」
「分かりました、エステルさん! じゃあ、俺しばらく次官室に居ますから」
シモンが丁寧な言い方で戻せば、エステルは少しはにかむ。
「うふふ、局長、他の方は存じませんが、私にはもっとフレンドリーな言い方で宜しいですよ」
「分かり……い、いや、分かった。じゃ、じゃあ、エステルさん、宜しく!」
「うふふ、さんは不要です。大学の同級生だし、エステルと気安く呼んでください」
「了解、エステル、宜しく!」
「はいっ!」
エステルとの心の距離は、今の会話でだいぶ「縮まった」ようだ。
うきうきしたシモンは、笑顔でリュシーとレナの後について歩き出したのである。
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