第36話「初出勤!⑤」

 リュシーの部屋、次官室の長椅子ソファに座った3人は早速打合せを始めた。

 シモンに対して、「この会議も、貴方の研修の一環なのよ」とリュシーから告げられる。

 気合が入ったシモンは興奮を抑えつつ、会議に臨む。


 という事で、気になる議題は……

 シモンが以前質問をした事に、大いに関係があった。

 ズバリ、王国復興開拓省を支える人材不足の件だ。


 まず口を開いたのは、リュシーである。


「シモン君、君が身内になった今だから言えるけど、君が先日指摘したのは、もっともな事よ。現在の王国復興開拓省は事務方のスペシャリストが多いの。私達みたいに現場で管理監督の任務にもあたれる人材がとても不足しているわ」


 リュシーに続き、レナも小さく頷き、上司の説明を補足した。


「だから、私達管理職が自ら現場に出張り、任務を遂行する。だけど少しでも早く人手を増やして改善しなければ、組織が上手く回っていかない」


 当時はノーコメントと返された質問の答えであった。

 だが、シモンの推測は当たっていたのだ。


「成る程、やっぱりそうなんですね」


 頷くシモンに対し、リュシーとレナが話を続ける。


「だから、アレクサンドラ長官が私とレナをスカウトしたし、叩き上げで経験豊富なシモン君の加入は凄く大きいの」

「でも、まだまだ人材不足。そこでこの3人で対応策を相談してという長官の指示なの」 


「そうなんですか。人材不足を解消する対応策ねぇ」


「うん、これから王国復興開拓省内に在籍する人材を精査確認し、改めて組織の再編成が為されるわ」

「でも人材不足は明らか。全然手が足りない」


「成る程。大体状況は理解しました」


「OK! ではシモン君の意見を聞きたいわ」

「私と次官は散々、その件で相談して来たから」


「了解です。俺は新参者で、知識と経験が著しく不足していますけど、重複も許容して頂くという条件で、生意気言って構いませんか?」


「全然、構わないわ。どんどん進言して!」

「ノープロブレムよ」


「では、早速。ちょっち偉そうにロジックを前置きします」


 シモンは大きく息を吐くと、話し出した。


「どこでもそうですが、組織を運営するにあたっては、まず資金、次に人材、そして最後に情報。他にもありますが、これが3本柱です」


「確かに!」

「納得ね!」


「資金ですが、王国復興開拓省においては、基本的に王国から捻出されるでしょうが、当省は、自主的な権限が認められる公共企業体に近い組織です。許されるのならばという前提ですが、予算を受け取るだけでなく、自ら稼ぎ出すビジネススキームを作るのが宜しいかと思います」


「へぇ、自ら予算を稼ぎ出すビジネススキーム」

「具体的には?」


「はい、長官もおっしゃっていましたが、俺の前職であるトレジャーハンターの業務です。お宝発掘は勿論ですが、それだけでなく、その土地で有形無形の財産を探し、積極的に名産化するんです」


「成る程、有形とは名所となる古代遺跡だけでなく、素敵な建築物や美しい自然の名勝などだな」

「無形とはズバリ文化。祭りや風習などか」


「ええ、更に言えば、名産化したものを埋もれさせてはいけないので、ウチの省で大いに国内外へ宣伝します。それと、人材確保及び情報収集は、第一弾として冒険者ギルドとの提携を提案します」


「やっぱり冒険者ギルドね」

「うん、冒険者ギルドとの提携に関しては、次官と私、ふたりともじっくりと考えてはいた」


「はい、人材確保に関しては、レナ次官補をスカウトした時のように、筋を通した上で、上手く折り合いをつけ、スカウトするのが宜しいかと。冒険者個々のデータベースがギルドにはあるでしょうから。ウチが必要とする候補が絞り易く、ピックアップしやすいです」


「そうよね! レナのように冒険者ギルドから適任の人材をスカウトするのがベストだと思う」

「うむ、冒険者ギルドには即戦力が大勢居るし、まずは出向扱いでも良いかもしれない。トラブル回避の為、ギルドには筋を通すのが必須だな」


「それに魔物の討伐とか、遺跡の探索とか、ビジネス的にも競合バッティングする場合が多い。だから、互いの発注と受注のバランスを上手く取り合い、冒険者ギルドとは共存共栄となるよう人材と情報を共有するんです」


「うんうん」

「成る程な。良き意味で持ちつ持たれつというわけだ」


「当然、王国復興開拓省の持つ国家機密的な情報は漏洩しない等、罰則を設けた条例をしっかりと作り、冒険者ギルドとは正式な契約書をとり交わします」


「第一弾の提携という事は、冒険者ギルドを皮切りにするという事よね」

「うむ、元冒険者だから、理解出来る。シモン君の言う通り、ウチの業務を遂行していけば、冒険者ギルドとは各所でバッティングするケースも大いにある。軋轢あつれきを生まないよう配慮と対策が必要だ」


「という事で、冒険者ギルドとの提携を第一案とし、俺達3人で作業を手分けしましょう。俺の私見ですが、ギルドとの交渉窓口は、出身者であるレナ次官補にご担当して頂ければと適任だ思います」


「私はシモン君の意見に大賛成だけど……レナ、頼める?」

「ああ、次官、任せてほしい」 


「それ以外に対応と施策を随時考えていければ……こんな感じで宜しいでしょうか?」


「ええ、早速、長官に報告し、検討した貰った上で実施の許可を取る」

「うむ、許可が取れ次第、私が冒険者ギルドへ行く。シモン君にもぜひ同行して貰おう」


「OKっす。とりあえず第一弾の施策として、他の案もいろいろ考えて行きましょう。第二弾は商業ギルドとの提携がベストだと思います」


「了解! 長官も喜ぶわ」

「ふふふ、仕事に前向きだな。シモン君が居ると心強い」

 

 シモンの提案は賛同を得た。

 ふたりの表情も晴れやかである。


 と、いう事で、3人の会議は何とか終わったのである。

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