第31話「大事件発生! 秘密のスキル発動!②」

「おい、お前ら、待てよ」


 予想外の闖入者ちんにゅうしゃシモンに、貴族令嬢拉致らちを邪魔された男どもは、肩を怒らせ、いきり立つ。

 

 男どもが改めて見やれば相手はシモンたったひとり。

 

 か細い魔法使いらしき若い男。

 1対5だし、負ける要素はない。

 実はシモン、鍛えに鍛えて細マッチョなのだが、外目からはきゃしゃな雰囲気なのだ。


 なので、拉致らち男どもは当然強気となる。


「あ~? 何だぁ、ごら!」

「ガキは、引っ込んでろ!」

「ぶっ殺されてぇか!」

「てめぇ、潰してやる!」

「汚ねぇ、野良犬はあっち行け! さっさと消えやがれっ!」


 最後に放ったリーダーらしき男の捨て台詞ゼリフが心に響き、シモンの闘志に火が点いた。

 

 しかし、闘志は内に秘めるタイプのシモン。

 感情を露わにせず淡々と言い放つ。


「おいおい、汚い野良犬はどっちだ? お前らこそ……さっさと消えろ!」


 いきなり!

 シモンの目があやしく光った。

 

 そう、シモンは『特別なスキル』を使ったのである。

 名付けて、『戦慄のスキル』

 

 『戦慄のスキル』は、シモンがたまたま手に入れた古文書に詳しい記載があり、

 地道な修行の結果、身に着けた超ハイレベルの高スペックスキルであった。

 

 気になる効果は、自分より弱い者を眼光から放つ強烈な魔力で威嚇いかく。  

 恐怖のどん底へ突き落とし、精神的ダメージに訴え、追い払うというもの。

 

 このスキルは相手の強さによって段階的に使える優れモノだ。

 最高の究極レベルは、『魔王の威圧』と呼ばれるものであり、

 悪魔や巨大なドラゴンさえ追い払うという。

 

 シモンは魔王の威圧を行使するまでのレベルに達しおらず、更なるレベルを目指して修行中だが、「グリフォンぐらい」なら追い払う事が出来る。 

 このスキルを身につけ、シモンはトレジャーハント業務における探索がぐっと楽になった。

 魔物の殆どが、シモンを怖れ、逃げ去るからだ。

 

 彼等ちんけな男どもを追い払うのは、朝飯前である。

 物理的攻撃、言葉による威嚇でもないので、証拠や痕跡こんせきが残らない。

 

 スキルの効果はすぐに表れた。

 シモンの鋭い視線を受けると……

 肩を怒らせ、いきっていた男どもの様子が一変したのだ。


 まずリーダーらしき男が恐怖の表情を浮かべ、貴族令嬢の手を離すと、

 男ども全員がおおげさに悲鳴をあげた。


「わあああああっ!」

「た、助けてくれ~っ!」

「神様ぁ!!」

「逃げろぉ!」

「ひいいいいいっ!」


 脱兎だっとの如く、逃げ去る男ども……

 手を離された金髪の貴族令嬢が、へなへなと地へ倒れそうになるところを、シモンは素早くダッシュし、支えてやった。


 シモンの経験上、健康な魔力を放つ貴族令嬢はかすり傷のみ。

 気を失っているだけで、大事はない。


 ここで、ふらつきながら、『手負いの侍女』が泣き叫び、駆け寄って来る。


「お嬢様ぁぁぁっっ!!」


 シモンは大泣きする栗毛の侍女へ向け、柔らかく微笑む。

 女子は基本苦手だが、こういう場合、そんな事を言っていられない。

 

 シモンは思う。

 王国復興開拓省の先輩ふたりと馬車で旅をして、少しだけ女子に慣れたと……

 かつて特訓した狩場の森の『女子バージョン』といえるかもしれない。


「おう! お嬢様は大丈夫さ、気を失っているだけだぞ」


「へ? あ、貴方は?」


 見ず知らずの青年が救ってくれた。

 優しい笑顔で、気を失ったあるじを抱きかかえている。

 

 侍女は大いに驚くが、すぐ安堵した。


 とりあえず危機は去ったのだ。

 徐々に冷静さを取り戻して行く侍女…… 

 

 シモンは微笑んだまま告げる。


「俺は、名乗るほどのもんじゃねぇ」


「え?」


「ほぼ無傷のお嬢様より、君の方が心配だ。奴らにひどく殴られてる」


「は、はい……少し、痛いですが、……だ、大丈夫です……」


「いやいや、無理するな。応急だが、ふたりともちょっち治癒ちゆしておこう。こっちへ来て」


「え? ちょっちって? は、はい。今そちらへ行きます」


 優しい言葉をかけられ、侍女は痛みを我慢し、微笑みながら、とことこ近付いて来た。


 シモンの治癒魔法ちゆまほうは狩場の森で防御魔法担当の教官から手解きを受け、習得したものである。

 葬送魔法そうそうまほうと共に、上級レベルのいきにまで上達していた。

 ほぼ無詠唱で、行使出来るのだ。


「ほい、全快っと」


 ぱぱっとシモンは貴族令嬢と侍女へ魔法を行使した。


 シモンが言う応急処置などとんでもない。

 治癒、回復、全快、慈悲、奇跡という治癒魔法の中で、骨折や内臓損傷ないぞうそんしょうまでの怪我を完全に直し、体力を満タンにする『全快』が行使された。

 この魔法は気持ちを落ち着かせる鎮静ちんせいの効果もある。

 

 ちなみに更に上級レベルの慈悲は肉体の再生、奇跡は死者をも復活させる禁呪であり、シモンは、このふたつも習得済み。

 完全に使いこなす為、日々特訓中だ。


 さてさて!

 シモンの治癒魔法により、ひどく腫れていた侍女の頬があっという間に元通り、痛みもすっと消えてしまった。

 貴族令嬢はまだ気を失っているが、間もなく目を覚ますだろう。


「わわわわ! い、痛くないっ! 痛みが、き、消えましたっ!! それどころかっ! 凄く元気になりましたよっ!!」


「おう、良かったな。君はこれで、大丈夫。お嬢様にも同じ魔法をかけた。もうすぐ目を覚ますよ」


 シモンがそう言うと、侍女の顔が「ぱああっ」と明るくなる。

 とても嬉しそうに笑った。


 侍女は、あるじの事を凄く心配していたのだろう。

 

 とても優しい子だ。

 自分の身を挺して主を守った。

 シモンは心が温かくなる。


「あ、あの! こ、これって!? ち、治癒!? 治癒魔法なんですかぁ! もしかして貴方は創世神教会の司祭様? い、いえ! 高位の魔法使い様なのですねっ!」


「まあ、そんなもんだ」


「あ、あ、ありがとうございますっ! も、もう全然痛くありません!」


「おう! 良かった。身体を大事にな」


「本当に本当にありがとうございます!! 何とお礼を言って良いのか! 宜しければ、貴方様のお名前を教えてくださいませ! 後日ぜひお礼をっ!」 


 ここで、やっと衛兵が現れた。

 大勢の野次馬をかき分け、進んで来る。

 もう大丈夫だ。

 

 衛兵から、いろいろ事情を聴かれたり等が大いに面倒。

 なので、シモンはこの場を去る事にした。


「君、衛兵さんが来たら、事情を詳しく話して、屋敷まで送って貰えば良い。その方が安全だ」


「え? 送って貰えって?」


「おう! 悪いが、俺はこれで失礼する」


「え? 失礼って!? ちょ、ちょっと! 待って! 待ってくださいっ! お、お名前を教えてくださいっ! お、お礼をっ!!」


「いやいや、わざわざ礼をされるほど、大した事してない! じゃあな!」


 シモンはそう言い、にっこり笑うと……

 侍女に貴族令嬢を預け、ささっと、人混みの中へ紛れてしまったのである。

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