第25話「余裕の研修テスト③」

 シモンは大地を蹴り、走り出すと、ぐんぐん加速して行く。

 

 スキルによりオークの放つ気配を捉えているだけではない。

 索敵の魔法も大いに駆使。

 より精度を高くし、これから戦う相手の個体数を完全に把握していた。

 

 その先の林から……

 シモンの認識通り『38体』のオークが出現する。

 

 思えばひさびさの『実戦』である。

 シモンの口元に不敵な笑みが浮かぶ。


 走りながら、ここでシモンは剣を抜き放つ。

 抜き放たれた白銀の刀身が、かがりびに照らされ、鈍く光った。


 突撃するのに、シモンは雄叫びを発さない。

 無言で、オークの群れに突っ込んだ。


 突入と同時に、シモンは剣を振るった。

 オーク数体が悲鳴をあげる間もなく、首と胴を泣き別れにされ、血をまき散らし、絶命する。

 

 その間、シモンが息を吐く音しか、オークどもには聞こえない。


 ひゅ!

 ひゅ!

 ひゅ!


 シモンは剣を振るいながら、近距離の攻撃魔法も発動する。

 

 だが、ここは原野とはいえ、周囲が森に林である。

 火事は、非常にまずい。

 

 戦いながらも、シモンは極めて冷静であった。

 行使したのは、先輩のレナ顔負け、風の上位攻撃魔法。

 

 オークどもを鋭い風の刃で切り刻み、粉々の肉片にしたのだ。


 心身がほぐれて来ると、エンジン全開、トップギア。

 シモンは剣に魔法だけでなく、剣を持たない空いた左手から拳、そして蹴りも繰り出す。


 しゃ!

 ぼぐ!

 どが! 

 ひゅ!

 

 しゃ!

 ぼぐ!

 どが! 

 ひゅ!

 

 しゃ!

 ぼぐ!

 どが! 

 ひゅ!

 

 まさに!

 まさに無双!!

 魔人!

 否、まるで魔王の如く圧倒的な強さである。


 シモンが息を吐く度、オークはどんどんたおれて行った。


 そしてわずか10分後……

 38体のオークどもは全滅していた。

 地に伏しているオークで、生き残っているものは皆無であった。


 このような戦いの際、必ずやっておく事がある。

 人間は勿論、魔物のしかばね不死者アンデッド化する怖れがある。

 つまり死体が人間を襲うゾンビや亡霊と化すのだ。


 不死者アンデッド化を防ぐ為には、死体を燃やすか、葬送魔法で魂の残滓ごとちりにする必要がある。


 シモンは軽く息を吐くと、葬送魔法を行使し始めた。

 やがて……オークどもの死体は全て塵となった。

 これで不死者アンデッド化しない。


 シモンは、遠くで見守るリュシーとレナへ手を振った。

 普通なら、歓声で応えるところが、辺りは静まり返っている。


 無理もなかった。

 でたらめのようなシモンの強さに、リュシーとレナ、村民達も驚愕きょうがく呆然ぼうぜんとしていたのだ。


 とりあえず、やつら全体の1/3くらいは倒したか……

 シモンは苦笑し、リュシーとレナが待機する場所へ戻った。


 そこから改めて……

 シモンは、リュシー、レナと相談。

 オーク討伐作戦をガラリと変更した。

 リュシーの召喚したゴーレムを再び勢子に使い、夜の狩りに出ていたオークどもを追い立て、シモンが全て倒したのだ。


 それだけではない。

 シモンは敢えて、オーク1体を生きたまま逃がし、奴らの巣、村はずれの洞窟を突き止めた。


 「ここは追撃あるのみ」とシモンは、リュシーとレナを説得。

 単身、洞窟に突っ込み、オークの残党を全て殲滅せんめつしたのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 もしかしたら1体か、2体が巣に戻らず逃げ去ったかもしれない。

 しかし、村との取り決めはオーク100体のうち約9割の討伐である。

 シモンの大活躍で、王国復興開拓省が請け負った仕事は、あっさりと完遂されたのだ。


 村では、広場でたいた『かがり火』をそのまま使い、祝いの宴が催された。

 集まった村民全員が、危機が去った歓びに満ちあふれている。

 誰もがシモンの手柄だとほめそやす。


 だが……

 シモンは変わらない。

 おごり高ぶらず、自慢などしない。

 

 謙虚けんきょにリュシーとレナへ、謝罪。

 深々と頭を下げた。


「すいません! 『見習い』ごときの俺が出過ぎた真似をしました! 今後は気を付けますっ!」


 シモンの低姿勢な物言いに対し、上司ふたりではなく、村長が先に反応した。


「いやいや、謝るのはこっちです。実は若い皆さんのお力を、村民一同がとても懸念しておりましたので。本当に討伐可能なのかと……相手の数が多かったですからな……本当に本当に、お疑いして申しわけないっ!」


 村長にも陳謝され、苦笑していたリュシーとレナも恐縮するしかない。


「いえいえ、今回はウチの見習いが頑張ってくれました」

「私達、楽させて貰いましたので……」


「村民一同、皆さんのご活躍に深く感謝致します。近隣の村々にも広く伝えましょう」


 これで座が一気にほぐれた。

 呑めや歌えのどんちゃん大騒ぎとなる。


 そんなこんなで、座が盛り上がっている時。

 リュシーとレナが、シモンに寄ってそっと耳打ちをして来た。


「シモン君、今回の仕事は大成功。君は期待以上、300点満点の合格よ」

「ああ、次官の仰る通りだ。私の想定以上、加勢のレベルを完全に超えていたぞ」


「ありがとうございます。本当に申し訳ありませんでしたっ」


「うふふ、もう良いよ、謝らなくて。ぜひウチへ入省して欲しいから。でも次回から、命令は厳守してね」

「うむ、長官へも私達ふたりから、大いに推薦しておく」


「了解です。俺も気持ちを決めました。長官から入省OKを頂ければ、ぜひお世話になりたいと思います」


 宴席のやりとりではあったが……

 シモンは、リュシーとレナへ『自分の決意』をしっかりと伝えていたのである。

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