第24話「余裕の研修テスト②」

 やがて……

 3人を乗せた馬車は王都郊外の村へ到着した。

 

 御者に馬車を任せ、3名は村の中へ。


 村の中は、ものものしかった。

 オークどもの襲撃に備え……

 村内は老若男女問わず、有志数十名の村民達で結成された自警団が警護にあたっていたからだ。


 アレクサンドラ以下首脳陣から「テストされる」と分かっているシモンだが……

 まずは王国復興開拓省における仕事の段取りを覚える為、しばらくはリュシーとレナにくっついて、おとなしく様子見ようすみである。


 リュシーとレナふたりは、まず村へ入り、開口一番。

 王国の公的な機関の者達だと名乗ったようだ。

 

 事前に連絡が行っているらしく、すぐに村長らしき老人がすっ飛んで来る。

 ふたりの女子とシモンに対し、ありがたがり、平身低頭という感じだ。

 「宰相マクシミリアン殿下、麾下きかの者だ」という伝え方をしているに違いない。


 シモン達3人は村長及び顔役らしき数人と村を歩いて行く。

 行き先は村長宅である。


 村長宅では、じっくりと現状を確認、作戦を練る為に話し込む。

 

 村長の話を全員で聞き、対して、リュシーが話し、レナが補足説明する。

 シモンはひたすら『聞き役』である


 話す内容は、オーク100体余の襲撃の現状と被害状況。

 出没時間、地点の裏取り。

 具体的な戦い方の提示等々。


 最後に目標数値の確認を改めて行う。

 オーク全体個数の9割以上の討伐と。


 だが……

 村長達は低姿勢ながら、落胆の色を隠さない。

 

 オークの討伐に来たのが、たくましい騎士や兵士の一個連隊ではなかった。

 若い女子ふたりに、男子ひとりのたった3人なのだ。

 

 はっきりいって3人は期待されていない。

 まあ、仕方がないと思う。

 シモンも、名も無き仮面の賢者を装い、活動していた頃は散々受けた反応だから。


 それよりも、シモンはリュシー、レナの戦い方を聞き、少しだけ驚いた。

 リュシーは地の魔法使いで回復と支援魔法を得意とし、ゴーレムを2体召喚、敵を打ち倒すと告げた。

 一方、レナは風の魔法使いだと話した。

 風の攻撃魔法と魔法剣を使いこなすと。

 こちらは元冒険者で戦い慣れており、不敵に笑っていた。

 

 だが村民達は、3人の実力を見極められず半信半疑。

 作戦遂行の場をどこにするのかと、改めて尋ねて来た。


 リュシーとレナが顔を見合わせ、頷く。


「地の魔法によりゴーレムを呼び出し、勢子役とします。追い込んだオークを村の正門前へおびきだし、門と防護柵を背に迎え撃ちます。村長を含め、村内の物見やぐらで、安全な場所から私達の戦いを見届けてください」

「ある程度倒したら、私達は一旦、撤退します。自警団の皆さんは防護柵の周辺を徹底的に警戒し、オークの別部隊が村へ侵入しないよう注意してください」


 これは、シモンから見ても妥当な作戦である。

 村をバックに戦えば、背後を衝かれるリスクはほぼない。

 自警団が村内を固めてくれれば、3人は前面に集中出来るからだ。


 また、オークどもが倒されるのを村民達へしっかり見せ、士気を鼓舞する効果もある。

 万が一、さばききれない場合、3人は村内へ撤退。

 ゴーレムのみに戦わせ、レナは物見やぐらから、風の攻撃魔法を行使すれば良い。

 シモンは、ふたりの作戦、思惑をそう考えた。


 そして、このタイミングで……

 シモンは参戦を申し出るべきだろう。


「見学の予定でしたけど、宜しければ、俺も加勢します。おふたりのご指示に従います」


 タイミング良いシモンの申し入れに対し、待っていたとばかりに、リュシーとレナは満足そうに頷いた。

 参戦申し入れは……大が付く正解だったようだ。


「助かるわ! 実戦経験が豊富なシモン君が加われば、戦いやすい」

「……悪いな、シモンさん。では遊撃隊という事で、助力してくれ」


「了解っす」


 作戦決行は、夜6時前……

 オークを含め、魔物は概して夜行性なのだ。


 早速、村の自警団は『かがり火』をたく支度を開始したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕方となり……

 正門が小さく開けられ、リュシー、レナ、シモンが村外へ出て配置についた。

 

 また村長と顔役達は、物見やぐらに陣取った。

 自警団の警備配置も完了していた。


 準備OK!

 

 リュシーが、言霊を詠唱し、大地からゴーレムを2体召喚。

 身長3mほどある大きな個体だ。

 この2体のゴーレムが、『勢子』として襲って来たオークを追い込むのだ。


 ここでシモンがリュシーとレナへ質問。


「あの~、ちょっち良いですか?」


「どうしたの、シモン君」

「何だい、シモンさん」


「出過ぎた真似かもしれませんが、俺、オークとは戦い慣れていますので、先駆け、やりましょうか?」


 補足しよう。

 先駆けとは、文字通り、他の者に先んじて敵中に攻め入る事だ。

 シモンは先行し、オークどもに無双するつもりである。

 

「………………」

「………………」


 リュシーとレナは、少し考えているようであった。

 しかし、やがて頷き合う。

 シモンの実力を試してみたくなったようだ。


「よし! 行ってみて。思い切りやって構わないわ、だけど少しでも危なくなったらすぐに撤退してね。後は私達がやるから」

「うむ、シモンさんの力を存分に見せてくれ。だが無理はけしてするな」


「了解です。ヤバかったらすぐ退きますから。ちなみに戦い方は我流です。剣技に魔法を加えた俺流、なんちゃって魔法剣士戦法で行きます」


「我流? 俺流? なんちゃって魔法剣士戦法?」

「ふっ、面白いじゃないか。長官が惚れ込んだという、シモンさんの実力を……たっぷりと見せて貰おう」


 リュシーはきょとんとしたが、『本家』の魔法剣士レナは興味深そうに笑った。


 ……やがて遠くから、重い地響きが聞こえて来た。

 そしてオーク数十体の気配も。

 ゴーレムとオークどもがこちらへ向かって来るのが、シモンには気配でも分かる。


「いきま~すっ!」


 頃合いと見て、シモンは大きく叫ぶと、ダン!と大地を蹴っていたのである。

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