百十一話 希少素材を求めて・四
そんな感情を表情から読み取ったのか、胸を撫でおろすようにしてから、大柄な男は自分と、そして仲間二人を順に示して紹介してくる。
「俺がデッドで、こっちの双剣使いがラカンだ。で、この失礼なのがクルミ。見た通り三人で冒険者をしている」
「よろしくねぇ」
デッド、そして失礼と紹介されても気にしないクルミと続けて握手をしてから、残りの一人であるラカンに目を向けると、手とともに鋭い視線も差し出されてきた。
「かの豪傑にまみえて光栄だ」
「こちらこそ、強い者に出会うのはいつであっても嬉しいものだ」
とても「光栄」などと殊勝な感情ではない目を向けてくるラカンに対して、ヴァルアスの方も言葉とは違ってやや物騒な角度に口角を吊り上げて握手を交わす。
妙に力を込めたりもせずにすぐに手を離した両者であったが、その視線は互いの腰にある武器へも一瞬だが向けられた。
冒険者として同業者の仕事道具が気になる……というものではなく、それ以上の剣呑さがある。
「ご存じのようですが、こちらが冒険者ヴァルアスで、私はリーフ、魔剣です」
その緊張感を散らすように差し込まれたヴァルアスの肩上からの声に、デッドとラカンは頷き、クルミは目を輝かせた。
明らかに人ではない大きさの端末体を見て、それを肩に乗せているのが冒険者であることまで気付いているならば、何らかの魔導具によるものと思うのが普通で、実際に彼らもそう思って殊更に騒ぎもしなかったのだろう。
リーフのような特殊な存在であればおそらくヴァルアスがどこかの遺跡で手に入れた古代の品であると勝手に勘違いをしているのであろうとは思われたが、エンケの存在や常識外れさなどはわざわざヴァルアスが口にしなければ思い至るはずもなかった。
「ゆっくりと相手をしたいところでもあるが、ワシも仕事中でな」
「ああ、いや、引き留めてしまって失礼した」
明らかにリーフに構いたい様子を見せるクルミを引っ張ってデッドは踵を返し、それにラカンも続く。
「相当な使い手のようですが、まさか彼らも同じ魔獣を……?」
「いや、それはないだろう」
少し距離が離れたところでリーフが懸念を口にしたが、ヴァルアスはそれをすぐに否定した。
「ウォーターリザードは単純に強いが、特殊な厄介さもあって少数での討伐は難しい……。見たところ大勢で行動している訳でもなさそうだし、違うだろう」
「……? そうですか」
なら、一人で対処しようとしているヴァルアスはどうするのか、という疑問はあったものの、それはこれから現地に向かうまでに聞けばよいだろうとリーフはひとまず納得した。
*****
そして立ち去るデッドたち三人組も、ヴァルアスとリーフと同じ内容を話していた。
「ねぇデッド、僕だけぴんとはきてないけどなんかものすごい英雄なんでしょ? あれが対象の雇った冒険者ってことはぁ……?」
「それは、ないだろう。もしそうならかなりの大兵力の指揮でこんな町中をぶらぶらしてる暇なんてないはずだ」
「あれ程の豪傑が誰かの下の下で一兵卒として参加するとも思えん。なれば、デッドのいう通りだろう」
「ふぅん……」
どこか残念そうでもあるラカンとは違ってあまり興味もなさそうなクルミだったが、それを見てデッドは眉を吊り上げる。
「というかいつまでのんびりしているんだ。対象の様子は?」
「さっき別行動した時に町の様子はみてきたけど、桔梗会の私兵はもちろん、まとまった数の冒険者とかもいなかったよ。これから雇えるのを探すんじゃないかなぁ」
「む、そうか。なら偵察に時間を割くよりもさっさと討伐に向かった方がいいか」
少人数故に丁寧な情報収集よりも迅速さを優先する彼らは、結局ヴァルアスの同行者について調べることなく、最低限の準備をしてからススキを離れたのだった。
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