百十話 希少素材を求めて・三
大通りと呼ぶには賑わいが不足する通りを歩くヴァルアスは、ススキにいくつかある宿のうちの一つを目指していた。
町について別行動となる際にサラサから聞かされた場所だ。
「この先に……」
目印となる派手な色味をした雑貨屋の看板を確認してから、ヴァルアスは首を巡らせて周囲を見渡した。
特別な意味もない動作だったが、その途中で目に入ったものに、ヴァルアスは動きを止める。
「ふむ……ほう」
様子をうかがってから思わず感嘆したヴァルアスが見ていたのは、冒険者と思われる三人組だった。
「何か変わったところでもありましたか?」
シャリア王国ほどではないにしても、ガーマミリア帝国のように冒険者自体が珍しいということはない。
そのため、いつものごとくヴァルアスの肩上に端末体の姿を現したリーフが不思議に感じているのは無理もなかった。
「変わってもおらんし、不自然なところもない……。ただ強い、あいつらは」
そう説明したところで、三人組の後ろを歩いていた若い女が視線に気付き、何事かを告げられた残りの二人とともにヴァルアスと同じような表情で歩み寄ってくる。
驚きと感嘆が混じった表情で近づいてこられることにヴァルアスは慣れていた。
伝説的と言って差し支えないほどの英雄に出会った時、特に同業者であればそういった表情で思わずと寄ってくるものだ。
一方で、ヴァルアスからの視線を受けての様子からして、向こうの三人組もこの辺りではヴァルアスと同じかそれに近い扱いを日ごろから受けているように思われた。
「お爺ちゃん、強そうだねぇ!」
「お、おう……」
開口一番に軽装の女冒険者から掛けられた声に、思わずヴァルアスも口ごもる。
何だか年寄り扱いが久しぶりであるような気もしていた。
「クルミよ、そのような言い方は失礼にあたる。その御仁は――」
続けて、クルミと呼ばれた女の後ろから、左右の腰に細身の長剣を差した中年の男が落ち着いた所作で口を挟もうとするが、ひと際大柄な赤っぽい金髪の壮年冒険者が二人を追い越してヴァルアスへと身を寄せる。
「ヴァルアス・オレアンドル! 西の……いや、人族の英雄じゃないか!」
ヴァルアスの容姿と放つ威圧感から、男二人は気付いたようだった。
一方で残りの一人はきょとんと、不思議そうにしている。
「ヴァルアス……人型の暴虐……? 童話の英雄さんだっけぇ? ううん、地元の吟遊詩人がよく歌ってたやつかな」
「ふ……」
二十に届くかどうかというくらいの若さにみえる相手にとっては、そんな認識かとヴァルアスは思わず苦笑するが、彼女の仲間の方が慌てていた。
「作り話の登場人物じゃないぞ! 本物の英雄だよ、昔の戦争の」
「あ、そっか、そうだ。ドラゴンと仲良くなってギガンタスを追い払ったお爺ちゃんだぁ!」
この老英雄が誰かということに合点がいったらしいクルミの言葉に、ヴァルアスはさらに苦笑を深める。
初対面で失礼といえば失礼な態度ではあるが、この馴れ馴れしさは冒険者らしくもあると、ヴァルアスとしては特に不快でもなかった。
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