六十一話 至高の木剣・九
「これくらいでしょうか。では、どうぞ」
「どうぞ……って…………」
ヴァルアスが驚いている間に一方的に告げたリーフは、本人が言うところの“端末体”である緑髪の小さな体を消してしまい、草葉の破片がヴァルアスの肩から散り落ちた。
「……っ!」
戸惑うヴァルアスだったが、そっと引き抜いたリーフ本体の魔剣、その刃に触れてさらに驚きを重ねる。
剣身特有の冷やっとした感触とは違う独特の手触りをしたその白い刃は、ペップルから受け取った後に軽く試した時には普通程度の切れ味だったはずだ。
それが確かに、ぐっと押し付けた指の腹が切れないくらいに、その切れ味が鈍くなっている。
これでは剣ではなく棒、刃物ではなく鈍器、そして今まさに欲していたものだった。
「いかないのですか?」
「っ!? 今仕掛けようとしていたところだ」
ヴァルアスの手許、柄の中心部にはめ込まれた小さな緑色の宝玉から先ほどと同じリーフの声がして、とっさに言い訳のような言葉が出る。
「……よし」
ここまで驚き、戸惑い通しのヴァルアスだったが、気持ちを戦闘に切り替えた途端に揺れていた視線は盗賊たちへと固定され、表情も鋭く厳しいものとなった。
動揺は潜んでいた樹上に置き去りにして、飛び出したヴァルアスは一呼吸の間に座り込んでいた三人のすぐ隣へと到達する。
「――お!?」
ヴァルアスから見て二人分の背中の向こう側、唯一着地した姿を視認した濃いひげ面の男が口を大きく開いて何かを叫ぼうとする。
「んぁ?」
「なん……?」
そして残りの二人が背後を確認しようと身じろぎしたところで、魔剣リーフの白い剣身が奔り、木漏れ日の反射光が三つきらめいた。
「「「がっ……」」」
トサッ……
何を言う間も、する間もなく、ヴァルアスが魔剣を振り抜いた姿勢で止まった時には、三人の盗賊は仲良く同じような倒れ方で気絶する。
「……あとは」
「――っ!」
難なく油断していた三人を無力化したヴァルアスは、リーフから教えられていた残り一人がいるはずの場所を睨みつけた。
驚く気配はしたものの逃げ出す機会も逸したらしい最後の一人を仕留めるべく、ヴァルアスは構え直しながら両脚へと力を込めていく。
だが、その込められた力が解放される前に、もう一度の驚愕によってヴァルアスは小さくこけるように動きを中断することとなった。
「捕らえます」
ヒュバッ……バサ
「ぐぅぅ」
再び手にした魔剣からリーフの声がしたと同時に、見ていた樹上へと何本もの蔦が襲い掛かり、そのすぐ後には首から下を隙間なく縛り上げられて枝から吊り下げられた盗賊が揺れながら呻いていた。
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