閉じ込められたオリヴィア 5
オリヴィアの姿を見かけた使用人たちの証言によると、オリヴィアは、地下の倉庫へ向かったそうだ。
エドワールにオリヴィアがいなくなったことを告げて、サイラスはコリンとともに地下へ向かった。
リッツバーグはオリヴィアの部屋に不審な点がないかを調べてくれている。
エドワールは一度、ウィルソン国王夫妻にこのことを報告に行って、サイラスと合流することになっていた。
「オリヴィアー?」
まさか倉庫のどこかに閉じ込められているのだろうかと、声を張り上げながら倉庫を一つ一つ確認していくが、どこにもオリヴィアの姿はない。
地下には隠し部屋がないことはすでに確認済みなので、隠し部屋に入って出られなくなった線は薄いだろう。
「まさか地下牢に向かったのか?」
「ないと思いますが……兵士に確認してきます」
コリンがそう言って走り去る。
地下牢の入口には常に兵士が見張りに立っているので、オリヴィアが地下牢へ向かったどうかはすぐに証言が取れるだろう。
しばらくしてコリンが戻ってきて、オリヴィアは地下牢には姿を現さなかったそうだと教えてくれた。
(どこに行ったんだ……)
胸の奥がざわざわする。冷静でいられなくて、ぐしゃりと髪をかき上げながら廊下をうろうろしていると、エドワールがやってきた。
「オリヴィアは?」
「いません」
「じゃあ、一度上に上がってきてくれ」
いつまでも地下にいても仕方がない。
サイラスは頷いて、エドワールの部屋に向かった。
部屋の中にはエリザベートもいて、心配そうに顔を曇らせている。
「オリヴィアのことだ、無断で城の外に出るとは思えない。ならば、隠し部屋を探していて、何らかのアクシデントに巻き込まれたのではないかと思うのだが、サイラス殿下はどうだろうか」
「ええ、その可能性が一番高い気がします」
オリヴィアはテイラーと一緒に行動しているはずだ。二人そろって姿がないということは、隠し部屋に閉じ込められてしまったのかもしれない。
だが、サイラス達はほぼ城の中の隠し部屋を調べ尽くしたつもりだが、人が閉じ込められて出られなくなるような危険な場所はなかったと思う。
「……まだ見つけ出せていない隠し部屋のどこかでしょうね」
「オリヴィアの部屋に手掛かりは?」
「メモがありましたけど……特に意味があるようには思えませんでした」
あったのは、初代国王の伝記とオリヴィアの手書きのメモだけ。メモ書きになにか意味があるのかもしれないけれど、サイラスにはわからなかった。
サイラスが念のためにとメモを取りに行こうと腰を浮かせると、エドワールが首を振って、自分も行くと言った。
エドワールとともにオリヴィアの部屋へ向かうと、部屋の中を調べていたリッツバーグから、特にこれと言った手掛かりはないと報告を受ける。
オリヴィアのメモを見たエドワールも、古い地名が並ぶメモを見て、首を傾げるだけだ。
「これだけだとわからないな」
「ええ。……おそらくオリヴィアは、古い地図のピンが刺された地名が気になっていたのだと思いますけど、彼女もこれだけだとわからなくて、ほかの隠し部屋を探しに行ったのではないかと」
「だが地下には隠し部屋はない……ならば、地下を調べたその足で、別のところを探しに行った、か」
「かもしれませんが……でも」
サイラス達は、城の空室は調べ尽くしている。人が使っている部屋にオリヴィアが押し入るとは思えないし、城の中をうろうろしていたら、その姿を使用人たちが見ているはずだ。
「……外に出た?」
ぽつり、と独り言をつぶやいて、サイラスはハッと顔をあげた。
「そうか……!」
サイラスはオリヴィアがテーブルの上に置きっぱなしにしていた城の見取り図を広げた。
「エドワール殿下、ここと、ここ、それからここは、まだ調べていないですよね?」
「え、ああ……それは、城の外からしか入れないから……なるほど」
エドワールもサイラスの言いたいことを理解したようで、大きく頷いた。
サイラスもエドワールも、城の中からしか隠し部屋を探していない。外にしか出入り口がない部屋は、「城の中」という認識から外してしまっていた。しかし城と一体になっているこの部屋も「城の中」に間違いはないのだ。出入り口が内側につけられていないだけなのである。
「コリン! 城の玄関口に立っている兵士に、オリヴィアが外に出なかったか訊いてきてほしい! たぶん、昼の間に何人か交代しているはずだから、今日の午後に玄関口の警備にあたっていた兵全員に確認してくれ!」
サイラスがコリンに頼んでいる間に、エドワールも使用人を呼びつけて、三部屋の鍵を取ってくるように命じた。この三つの部屋は、かつて城の宿直をする兵が使っていた部屋だそうで、今は封鎖されているという。
使用人が持って来た鍵をリッツバーグが受け取り、サイラス達が城の玄関に向かうと、ちょうどコリンが、城の兵士たちに、オリヴィアについて確認を終えたところだった。
「どうだった?」
「はい。昼すぎに、オリヴィア様たち三人が城の外に出るところを見かけたそうです」
「三人?」
オリヴィアはテイラーと行動していただろうが、テイラー以外にも誰かいたのだろうか。
サイラスは訝しんだが、今はそんな細かいことを考えている暇はない。
コリンが兵の一人から燭台を受け取り、サイラス達はすっかり暗くなった城の外へ出る。
「時計回りに行こう」
エドワールがそう言って、リッツバーグが持っている三つの鍵の内の一つを手に取った。
サイラスも頷きかけて、ふと、エドワールとリッツバーグが持っている鍵に視線を向ける。
(……鍵が、三つ?)
サイラスはぐっと眉を寄せたが、エドワールたちが駆けだしたので、考えるのはあとにして急いで彼らを追いかけた。
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