閉じ込められたオリヴィア 4
「結構時間が経ったと思うんだけど、今何時かしら?」
閉じ込められた部屋の椅子に腰を下ろして、オリヴィアはおっとりと頬に手を当てた。
最初のころは、扉を力ずくであけようとがちゃがちゃ言わしていたテイラーも、すっかり疲れ果てて、オリヴィアの隣に座ってぐったりしている。
「オリヴィア様、のんびりしすぎですよ。もう五時間くらい経っています。お腹がすいたので、たぶんそのくらいです。わたくし、体内時計はそこそこ正確なのです」
「じゃあ、晩餐の時間になってしまうわね。……困ったわね。どうして閉じ込められたのかしら?」
灯りを取ってくるとモアナは言ったが、一向に戻ってくる気配がない。鍵がかけられていることから考えても、閉じ込められたのは間違いないだろうが、その理由がさっぱりわからなかった。
外からいたが打ち付けられている窓のほかに、天井に近いところに明り取りの窓があるけれど、入り込む日の量は多くなく、室内は薄暗い。
さらに、昼の強い日差しが夕焼け色に変わった現在、日が完全に沈んで、室内が暗闇に覆われるのも時間の問題だ。
「こんな時でもオリヴィア様は焦らないんですね」
「そうでもないわよ。でも、テイラーが一緒だから心強いわ」
理由もわからず閉じ込められたら、オリヴィアとて不安だし、これでもそれなりに焦燥に駆られている。けれど今はテイラーがいて一人ではないし、オリヴィアはサイラスを信じていた。
(晩餐の時間になってもわたしの姿がなかったら、サイラス様は探してくれるはずだもの)
そしてサイラスは、絶対にオリヴィアが見つかるまであきらめないでいてくれる。だからそれほど悲観しないでいられるのだ。
「それにしても、モアナ様はどうしてわたくしたちを閉じ込めたのかしらね」
「そんなもの決まっているじゃありませんか! きっと妨害工作ですよ! だって、あの方はエドワール殿下のチームじゃないですか」
「妨害工作……ね」
もちろん、その可能性も充分にあると思うけれど、本当にそれが目的だろうか。
ユージーナのチームへの妨害工作でオリヴィアとテイラーを閉じ込めたところで、エドワールが有利になるわけでもないだろう。サイラスが探す探さないを抜きにしても、オリヴィアは他国の来賓だ。姿が見えなくなれば、必ず捜索隊が出される。永遠に閉じ込めたままではいられない。どんなに時間が稼げても、せいぜい数日程度のものだ。その間にエドワールたちのチームが選定の剣を発見できる確証があるのならば有効な手だろうけれど、もしそうならばすでにその在処はわかっているはずで、ならばわざわざオリヴィアを閉じ込めたりしなくても、さっさと選定の剣を手に入れてしまえばいい。
(何がしたいのか、さっぱりわからないわ。わたくし個人に恨みがある……とは考えにくいし)
モアナとは昨日はじめて会ったのだ。それもあいさつ程度の会話しかしていない。個人的な嫌がらせをされるほど、彼女との間になにかがあったわけでもない。
「なんて卑劣なことをするんでしょうか! モアナ・アーネット伯爵夫人はわたくしのブラックリスト入り決定です!」
ぷんぷん怒っているテイラーがバシン、とテーブルを叩いて宣言し、それからへにゃりとテーブルの上に突っ伏した。
「はあ……お腹すきましたねえ。わたくし、次は何が起こってもいいように、ポケットにはビスケットを常備しておくことにいたします」
テイラーが真剣にそんなことを言うので、オリヴィアはつい、ぷっと吹き出してしまったのだった。
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