23

「オリヴィアとサイラスはここにいろ。ここから先はもろくなっているようだからな、崩れてきたら危ない」


 遺跡の八番地区でアランに言われて、オリヴィアは足を止めた。

 アランは兵士の指揮を執るために、張られたロープの奥に向かうらしい。

 待っていろと言われれば強引についてくこともできず、アランの後ろ姿をじっと見つめていたオリヴィアにサイラスが苦笑した。


「ついて行きたかった?」

「ティアナが心配なので……」

「それだけじゃないでしょ」

「……ちょ、ちょっと中を見て見たかったです」


 崩壊の危険のあるところにティアナがいるのももちろん心配だったが、本音を言えば、白薔薇宮の王族の居住区域を見てみたかった。崩壊の危険性が出てからは発掘作業を行っていないというから、この先にはまだ調べられていない古代の謎が残っているのだ。


「オリヴィアは大人しそうに見えて好奇心旺盛だから困るね」


 油断しているとふらふらどこかに行きそうだと言いながら、サイラスがオリヴィアの手を握る。これではまるで目を離せばすぐにいなくなる子供に接するような扱いだと、オリヴィアはちょっと恥ずかしくなった。


「勝手に中に入ったりしませんよ……?」


 周りには警護のための兵士もいる。サイラスの護衛官であるコリンももちろん近くにいる。彼らの前で手をつないだままなのは恥ずかしくて、それとなく手を振りほどこうとしたのだが、しっかり握りしめられていて振りほどけない。


「ここのところずっと兄上がそばにいたから、久しぶりに二人きりだね」

「ふ、二人っきりじゃないですよ?」


 コリンも兵士たちもいるのに、サイラスは何を言い出すのだろう。


「大丈夫だよ、彼らは見ないふりが得意だから」


 笑いながらサイラスが抱きしめてこようとするから、オリヴィアは真っ赤になって逃げようとするも、手がつながれているのであっさりつかまってしまう。


「で、殿下、暑いですよ……?」

「もうちょっとだけ。オリヴィア成分を補給させて」

「成分って……!」


 ぎゅうっと抱きしめられておろおろと視線を彷徨わせると、苦笑しているコリンが見えた。


(見てないふりなんてしてないじゃない……!)


 常に護衛官がそばにいるサイラスは彼らの目が気にならないのかもしれないが、オリヴィアは気になる。ものすごく気になる。恥ずかしくて溶けそうなので、早く離してほしい。


「こんなときに何をイチャイチャしているんだ、お前たち」


 サイラスの腕の中からなんとか逃げ出せないかともぞもぞと身じろぎしていると、アランのあきれた声が聞こえてきてびくっとした。

 顔を上げればアランが一人でこちらへ歩いてくる姿が見える。


「あれ、兄上早かったね」

「危ないからと言われて、地下道の入り口まで行ったところで帰らされたんだ。今、兵士たちが地下道の中に入って捜索している」

「なんだ。少しは気を利かせてくれてもいいのにね」


 サイラスが渋々と言った様子でオリヴィアを開放する。

 コリンたちのみならずアランにまで見られた恥ずかしさに、オリヴィアが顔を上げることができないでいると、遠くから「放しなさいよ!」という甲高い声が聞こえてくる。


「あー……、オリヴィアの推理は正しかったようだな」


 ティアナが騒ぐ声を聞きながら、アランが額を押さえて息を吐いた。

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