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オリヴィアとサイラスが乗った馬車が賊に襲われたらしい。
知らせを受けたアランは真っ青になった。
報告によれば、サイラスが怪我をしたそうだが、オリヴィアは無事らしい。けれども、アランはすっかり気が動転してしまった。
「オリヴィアは無事なのか!」
二言目にはそう言っていることにも、アランは気がついていないほどである。
報告をしに来た事務官も、しまいには投げやりになって、
「アトワール公爵令嬢はご無事ですし、三日後にはこちらへ帰還される予定です!」
と言い切ってアランに引き留められる前にさっさと部屋から出て行ってしまった。
部屋に残されたアランは、猛獣が檻の中で歩き回るように部屋中を右往左往して、補佐官であるバックスに「少しは落ち着いてください」とあきれたように注意を受ける。
「オリヴィア様もサイラス殿下もご無事だそうなので、大丈夫ですよ」
「わかっている!」
いや、わかっていないだろう――、とバックスは嘆息する。
これはとばっちりを食らわないようにしばらく放置していたほうがよさそうだと、バックスはアランの部屋から出ていこうとして、そして扉を開けたところで足を止めた。
「……あー、殿下」
バックスの目の前にはティアナがいた。どうやら、ちょうど入室許可を得ようとしたところでバックスが扉を開けたらしい。
「なんだ!」
アランはイライラと問いかけて、バックスの奥にティアナの姿を見つけると、わずかばかり瞠目した。
「あの、アラン殿下……」
ティアナはアランの様子に微かな怯えを見せて、おずおずと口を開いた。
「どうかなさったんですか……?」
「いや、大丈夫だ。それよりも何か用かな?」
いつにないくらいに冷ややかな口調で問われて、ティアナはぎくりとしたあとで首を横に振る。
「い、いえ、なんでもありません」
「そうか。私は少し立て込んでいるんだ。申し訳ないが、しばらく一人にしておいてくれるだろうか?」
アランに冷たくされて、ティアナは愕然としたようだが、バックスが半ばティアナを締め出すように廊下に出て扉を閉める。
閉じられた扉を茫然と見つめるティアナに、バックスは少し申し訳なさそうに言った。
「すみません。じきに耳に入るかとは思いますが、オリヴィア様を乗せた馬車が賊にあったと報告を受けて――、ああ、もちろんお怪我はされていないんですが、殿下はそれで、気が立っているんですよ」
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