20
オリヴィアの部屋から辞したあと、サイラスは国王とともに並んで歩いていた。
オリヴィアに語った賭け。それにはもう一つ続きがある。
(まさか、もう一つの条件に兄上の廃太子が含まれるなんて言えないよね……)
いくらサイラスが王となる覚悟を決めようと、王妃がいる限りそう簡単な問題ではない。王妃は何が何でも兄であるアランを王にするつもりだ。だから、サイラスには王になる覚悟だけでは足りないのだ。王となるために、兄を蹴落とす必要がある。
もちろん、オリヴィアのことだけを考えるなら、兄の件は自分でやれと父に言ってもいいだろう。だが、父王は次の王妃をオリヴィア以外考えていないとも言った。それはすなわち、最悪サイラスが失敗しても、オリヴィアは王妃にする――アランにあてがうと言っているのだ。ならば、サイラスが王にならない限り、オリヴィアは手に入らない。彼女の心が手に入っても、彼女自身は手に入らないのだ。
サイラスにはこれが、父王がサイラスの王としての資質を見るために課した課題だともわかっている。父と息子の賭けでありながら、試されてもいるのだ。
(母上がタヌキならこの人はキツネだろうか。化かしあいも大概にしてほしい)
そう思うものの、いわばサイラスは、目の前に大好物のニンジンをぶら下げられた馬に過ぎない。踊らされているとわかっていつつも、そうでなければ手に入らないのだ。オリヴィアが。
けれども、父王だって、一応はサイラスの味方である。サイラスに有利になるように、オリヴィアを一か月城につなぎとめた。この状況を生かすも殺すも、サイラス次第ということだ。
王妃は兄を溺愛しているが、別にサイラスに冷淡なわけではない。だがあれだ、馬鹿な子ほどかわいいというやつだ、きっと。とにかく、母は兄を王にしたくて仕方がなくて、そのために手段を選ぶような人でもない。
そして、母は気がついてしまった。これまで馬鹿のふりを続けていたオリヴィアの本当の才に。目をつけてしまったのだ。これ以上厄介なことはない。つまりは、これはオリヴィアの争奪戦だ。
幸いなことに、兄はまだオリヴィアの価値について気がついていない。気がついたところで、兄はティアナに惚れている(たぶん)。そう簡単にオリヴィアを取り戻そうとはしないはず。ならば、兄がオリヴィアの魅力に気がつく前に、すべてを終わらせる必要がある。
(オリヴィアに母上の危険性を伝えていなかったのは失敗だった……)
オリヴィアが城で仕事をするようになって、毎日会えると浮かれていた。どうやって距離を詰めようかとばかり考えていて、危険人物の存在を失念していたのだ。
「まあ、そう難しい顔をするな。別に追い詰められたわけではないだろう?」
王が楽しそうに笑いながら言う。
サイラスは横目で父親を睨んだ後で、「王子」の顔で返した。
「当然です」
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