思い出を胸に

悠季

邂逅

 なんだろうこれは。嘘だといってほしい。

 目の前の光景を目にしてメリカは信じることができなかった。


 燃える家々。辺りから聞こえる呻き声。生存者がいる可能性を容赦なく打ち砕いてくる。

 耳を塞ぎたくなった。目を覆いたくなった。

 自分の家は焼け崩れていた。母のものと見られる指輪が転がっていた。父の姿は見当たらない。

 村中見て回っても死んでる者の数が多い。辛うじて生きていてもメリカ一人、子どもの力では助けようがない。そのまま見過ごすことしかできなかった。

 途方にくれて、膝から崩れ落ちる。押さえていたけれどだいぶ煙を吸い込んだ。火の勢いは増していく。

 自分ももう助からない。死んでしまうのだ。


「子ども……?」

 背後から聞こえた声に振り返る。

 そこにいたのは、黒髪に赤目の男。父と同じかそれより若く見える。青いローブを羽織っていて、手には身長に迫るほどの杖を持っている。


「くそっ、そういうことかよ……」

 一人、悪態をついている男をメリカをぼんやりとした意識のまま、見つめる。


「お前が望んでいなくても、俺はお前を助ける。お前、名は」

「……メリカ。メリカ・アルバート」


 名前を口にして、視界が揺れたかと思うとメリカは意識を手放していた。

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