第26話「二人の秘密」
ラヴィの話を聞いた俺達は、みんな顎に手を当てて考えを巡らせていた。
「なんか府に落ちないっす……」
「だよね~。もし、ホントにラヴィちゃんに気があるなら、わざわざ一回振る必要ある?」
「分かりませんが……」
なんの為に一度振ってから拾ったのか。
いくら考えても答えは出なかった。
「で、お前これからどうすんだ?」
痺れを切らし、ラヴィに少し強い口調で問いかけた。
「分かんない……」
ラヴィの口からも答えは出ない。
ああ、もう良いや関わるだけ無駄だな。
「俺達は泉に戻ってから帰る。お前も、あの男を連れてさっさと帰れよ」
冷たい口調で伝えると、ラヴィは黙って頷いていた。
泉に踵を返す俺達。さっきの戦闘で、水筒に汲んだ泉の水は空っぽになってしまったからね。
水筒と言えば……あ、そうだっっ!!
「俺、ちょっとオシッコ行ってくる!」
お小水をぶちまけたかったのを思い出し、みんなに見えない位置まで行って念願のおトイレタイムを満喫した。
いや~、限界まで我慢すると、スッキリ度が別次元ですね。
そんな阿保くさい事を思いながら戻ると、予想外の光景が目に入った。
「早く吐きなさいっっ!!」
「や、やめてくれ! 僕は何も知らないんだ!」
凄い剣幕で怒鳴りながらクズ男にまたがり、胸ぐらを掴んで揺らすリリエッタ。一体何事かと、急いで現場に向かい近くにいたサーシャを問いただす。
「何があったんだ!?」
「あ~、ちょっとうちらの事情でね。アイツに聞かなきゃいけない事があんだ」
サーシャの目は座っていた。
とてもまともな答えを聞けるとは思えない目付きだ。
ならばと、今度はマッドに近づき事の次第を説明してもらった。
「いや~、ビックリっす! リーダーが小便行ってる間にあの男が目を覚ましたんすけど……そしたら、リリエッタが"ミシェル"とか言う名前を、あの男に聞いていたっす」
「それで、あの男はなんて?」
「知ってると答えたんすけど……『あの頭も股も緩い女がどうしたって? あの女ならもう捕まっていないけどな』そう答えたんす」
どういう事だ? そのミシェルとか言う女性とリリエッタは、どういう関係なんだ?
そう思った瞬間――事は動き出した。
「私の妹を何処にやったのっっ!!」
「は? お前、あの女の姉貴なの? なにそれウケる! て事は、お前も緩いんだな? アイツともうヤったのか? 辞めといた方が良いぜ? なんなら僕のクランにおいでよ。僕ならもっと幸せにして上げるよ♪ それに、引退後は大商会の跡取りである僕が養ってあげちゃう!」
早口でペラペラと喋りだすクズ男。リリエッタを侮辱されたと分かった瞬間、俺も我慢の限界だった。
ぶん殴ってやろうと、リリエッタとクズ男の元へ歩き出す。しかし、俺より先にスイッチが入ってしまった者がいた。
「ふざけんじゃ……ねえぞこの野郎っっ!!」
クズ男の顔面に、サッカーボールキックをお見舞いするリリエッタ。
とても普段のリリエッタからは想像出来ない剣幕と、ドライブシュートでも掛かりそうなキックの威力に、呆然としてしまった。
クズ男の飛び散る前歯と、吹き出る鼻血。
とても無残な姿だったが、可哀想だとは思えなかった。
「なにするんだっっ!! 傷は回復出来るけど、失くなったものは戻せないんだぞ!」
「へ~、そうなんだ……」
グズ男がペロッと自分の回復能力について喋ってしまうと、それを聞いたリリエッタは、とても凶悪な笑みを浮かべていた。
もしやと思いリリエッタのステータスを確認すると、予想通りの事実が浮かび上がる。
SPが半分以上失くなっている変わりに、攻撃力と素早さが二倍になっていた。
元々暗い場所で能力の上がるバフ【陰影の極】で二倍になった所に、更に二倍で四倍になっているのだ。
つまりスキル【躁鬱の極】が発動していると言う事。
恐らく、その時の感情の揺れ方で発動出来るか決まるのだろう。
今は"負"の感情が爆発し、【鬱】へ寄った場合なのか。
という事は、"幸"の感情が爆発した時は、【躁】へ寄ったスキルになるという事だろうな。
いやいや、冷静に考察している場合じゃない。
今はリリエッタを止めなくては。
「て、あれ……リリエッタとサーシャは?」
気づいたら二人が居なくなっていた。残っていたのは、動揺するマッドと、震えているラヴィ。
後は気を失ったまま倒れているクズ男のメンバー二人だけだった。
「二人とあの男はどこ行った!?」
「い、泉の方へ引き摺って行ったっすっ!」
「ちっ、マッド! 悪いが此所を頼む! 俺は二人を追いかける」
「了解っす! というか、とても俺じゃ二人を止められないっす!」
どんだけビビってんだよ……。
足が産まれたての小鹿ちゃん並みに震えてるぞ。
そんなマッドにその場を任せ、俺は二人の後を追いかけた。
そして、泉が涌き出る最深部まで戻った時――
「良いから吐けっつうのっ!」
「正直に話せば、これ以上痛い目を見る必要はありませんよ?」
「ほ、本当になにも知らないんだっ! ゴフォッッ!!」
まるで拷問のような尋問を受けるクズ男。
殴られ、泉に顔を窒息ギリギリまで沈められていた。
「なにしてるんだお前らっっ! それ以上は犯罪になるぞ!」
俺が二人に近づきそう咎めると、リリエッタもサーシャもギロリと俺を睨んで来る。
「エレンには関係ないっつうの」
「そうです……エレンさんには関係のない事。分かりましたら戻って下さい」
二人の目付きと冷たい言い草に、心がギュッと、締め付けられる。
なんでそんな事言うんだ……俺達は、
「仲間じゃねえのかよ! 何があったのか俺にも教えてくれよ!! 知りたいんだ! 仲間が辛い思いをしてる理由をっっ」
少し涙目で訴える俺に、二人の目付きが柔らかくなるのを感じた。
「ご、ごめん……」
「巻き込みたくないと思っていましたが、それは間違っていたかもしれませんね……」
その後、二人は真相を語ってくれた。
何故、二人が冒険者になったのか。
何故、ここまで激昂していたか。
その理由をポツポツと語ってくれた。
「そうか……二人は、それが理由で冒険者になったのか……」
「ええ、あの子は昔から男勝りで、伝説の冒険者の伝記を読んでは『私も冒険者になる!』と、騒いでいました……」
「それで、手掛かりを求めて遥々首都で冒険者になったのか」
「その通りです。ここなら沢山の冒険者が居ますし、何か掴めると思ったのです」
二人が冒険者になったのは、リリエッタの妹であるミシェルが理由だった。両親と大喧嘩して家出したミシェルちゃんを探すために。
「そういう事なら聞き出さないとな……そうだ! 俺に考えがある! ちょっと俺に任せてくれないか?」
二人に作戦を提案するが、今一ピンと来ていないようだった。
「本当にそれで喋るの?」
「良く分かりませんが、男の人にしか分からない恐怖があるのでしょうね……」
そう、これは男にしか効かない脅しと尋問方法。
男の子には、もれなく付いている二つの物を、人質に取るえげつない尋問なのだ。
さて、これで吐かない訳はないだろう――
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