第65話 ごめんなさい

「ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!」


 やけに響く石壁に囲まれた冷たい牢の中、何度その言葉を口にしたのか。

 悠長に数えている暇は無かった。何せ、両手を鎖できつく縛られ、その上高く上げさせられ、足がとうに床に着かないぐらい宙に浮かせられているのだから。

 これでもかなりきつくて、今すぐにでも降ろして貰いたかったが、それを許してくれるわけが無いし、今も発している言葉も同様だった。

 何故、こんなことをさせられているのか全く分からなかった。何も悪いことをしてないはずなのに。

 スープを飲む際にあまりにもの緊張でむせてしまい、吐いてしまったことだろうか。

 ぶたれる際に、目を閉じて、頭を庇ったせいだろうか。

 読む必要はないと、大切な絵本を破られそうなのを、「やめて!」とその絵本を奪ったせいだろうか。

 ……思い出せば思い出す程、数々の悪いことを思い出された。

 自分は悪いことをしていた。だから、言うことを聞かせるために今のように躾られている。

 悪い子だから。悪い子、だから…。

 そんな時、後ろから強い衝撃が何も着せられていない背中に走った。

 意識が遠のきながらも言っていた言葉が途切れてしまったせいだろう。

 また、悪いことが増えてしまった。

「…ッ!ごめんなさい…ッ!」

 あまりもの衝撃にすぐに言えなかったのが悪かったらしい。言っているそばからまた打たれた。

「ッ!…ごめっ…ッ!ごめん、…ッ!」

 痛い痛い痛い。

 もはや、言わされている言葉を発する隙を与えさせず、後ろからの強い衝撃を与えられた。

 何度も何度も何度も。

 痛くて仕方なくて、瞳が涙で溢れ、零れていた。

 こんなこといつまで続くのだろう。

 しにたい。

 いつしかその思いが頭を支配していた。

 こんな苦痛をずっと与えられ続けるのなら。

 ──優しい存在と引き離されるのなら。


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