第16話 久しぶりの歌声

 死神としての用事を終え、今日も天界に向かっていた。

 シロアンの所へ行くと、遠くから歌声が微かに聞こえた。その声に誘われるように歩を進めていくと、段々と聞こえ、ドーム状の鐘が釣り下がっている下で、こちらに背を向けているシロアンの姿が見えた。

 後ろ姿でも、楽しそうに歌っているのが分かるぐらいに雰囲気が穏やかだ。

 歌う気になって良かった。

 ヒュウガは心からそう思った。

 声を掛けず、しばらく聞いていると歌が聞こえなくなったのと同時に後ろを振り返るシロアンと目が合った。

「あっヒュウガさん。来たのでしたら、声を掛けてくださっても良かったのですよ」

「いや、シロアンの歌が聞きたくてな。聞いちまってた」

「そうでしたか。私、久しぶりに歌ったのですが、どうでしたか?」

「初めて聞いた時と同じ、聞き惚れてしまうぐらいの歌だったぜ。いつまでも聞いていたいぐらいに」

 素直にそう言うと、シロアンはぱぁっと笑顔になり、

「本当に本当にそうでしたか!それは良かったです!歌う気になったのはヒュウガさんのお陰ですから、本当に嬉しいです!」

「あぁ…?そうか……それはどうも……」

 ヒュウガは照れくさくなってしまい、頬を掻いて誤魔化していたが、まんざらでも無さそうだった。

「さて、ヒュウガさんが来たことですし、何からお話しましょうか。やっぱり、最初はクロサキさんのことからでしょうか」

 シロアンが階段に座りながら訊いてきたのを、「あぁそうだな」といつものように、隣に座った。

 そして、昨日の出来事を話し始めた。

「─んでまぁ、今日も出かける時、声を掛ける為に、部屋を覗いたんだが、昨日と同じでさー。どうしたらいいか分からなくてさ、参ってんだわ」

 肩をすくめてヒュウガは言った。

「……それはやっぱり、私のせいなのかもしれません」

 重たそうに口を開いた。

「は?どの辺りが?」

「クロサキさんがいつもしない行動をし出したところです。それはきっと私がどうして話をしないのですか?と訊いたからだと思います………」

 消え入りそうな声を呟いて、シロアンは俯いてしまった。

 それを聞いてヒュウガは全てを理解してしまった。

 だから、クロサキは長年発してない声を何とか出そうとしていたのか。

 やはり、自分も長年いてもクロサキのことを全く理解出来ていなかった。それと口にしないとこんなにも不便だと言うことを改めて気づかされた。

「…あのさ、シロアン」

「…はい?」

 いつの間にか泣いていたらしい、涙声が聞こえた。

 それに気づかないフリをして、ヒュウガは話し続ける。

「クロサキにとって無神経な言い方だったかもしれない。アイツ、色々とあってさ、つい最近まで外に出られない程人嫌いになっていたから、かなりそういうところは敏感みたいでさ。けど、仕方ねぇと言えば仕方なくて。長年一緒にいてもほぼ分からねーところがあるんだわ。だから、まだほんの少ししか会ってねー相手なんか知らなくて、傷つけてしまうのは当たり前なんだ。今度会った時にまた同じことを繰り返さなきゃいいとオレは思ってる。シロアン、気にすんなよ」

 頭にポンと手を置いた。それに驚いたシロアンは涙目をヒュウガに向けた。それを見たヒュウガは気まずそうに思わず目を背けてしまったが、シロアンは気にせず、ふわっと笑った。

「そうですね。分かりました。ヒュウガさん、ありがとうございます!」

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