第9話 傷

 どれだけ時間が経ったのだろう。

 クロサキのことを押さえ付けるのが必死で他のことを考えている余裕が無かった。

 押さえ付けていた手が痛いと感じたのは、クロサキがやっとのことで寝に入った時のことだった。

「…………オレがいてぇと思うのだから、クロサキはもっと痛かったのかもしれないな」

 自身の左手で右手をさすりながら、ごめんなと言った。

 今のクロサキは一応、静かに寝ている。

 だが、それで安心する訳にはいかない。突如として、暴れだす可能性もある。

 油断は出来なかった。

「とりあえず、包帯を換えないとな」

 血塗れの包帯を丁寧にほどいていく。

 あらわになるのは、クロサキが強く引っ掻いたと思われる抉られた傷痕。

 普段ならあの不気味な刻印に眉間に皺を寄せてしまうが、今は痛々しい傷に深く眉根を寄せた。

 こんなことになってしまうのは初めてだ。どうして、クロサキが引っ掻いたのかは分からないが、この刻印が何かあった、ということなのだろうか。

 ヒュウガにとって、全く理解し難い何かが。

 刻印のことさえ全く分からないので、本当に何も分からずじまいであった。

 新しい包帯を手に取って、手首に巻いていく。

 刻印も深い傷さえも隠していくように。

 しかし、また包帯に血がじわじわと染み出していた。

 思わず舌打ちをする。

「こりゃあ、また換えても意味ねぇな」

 ヒュウガは一人、頭を抱え込んでいた。

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